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子供達の戦い 4

「きりがない、にゃー!!」


 吐いた弱音と共に繰り出したティオフィラの拳が、ゴブリンの顎を捉えて落とす。

 彼女は息も吐く暇もなく次の獲物へと躍り掛かっていく、彼女の言葉通りその周りには数えきれない程の魔物の姿があった。


「・・・ティオ、止め」


 どこかから投げつけられた手斧をその大盾で弾いたイダは、ティオフィラがダウンさせたゴブリンに駆け寄ると、手に持ったメイスを振り下ろす。

 鈍い音を立てて砕けた頭蓋骨に、そのゴブリンが振り上げようとしていたナイフも、地面へと再び落ちていた。


「そんな暇、ない、にゃー!!」


 ゴブリンの頭へと飛びつき、その首を折り曲げたティオフィラは、近づいてきた別のゴブリンを蹴りつけると、その反動にそこから飛びのいた。

 空中で一回転して着地した彼女の隙を、魔物達は見逃さない。

 そしてそれは味方にとっても同じ事だ、ティオフィラの前に立ち塞がったイダは、彼女への攻撃を全て弾き返していた。


「イダ!!」

「・・・っ!!」


 エミリアの声に、イダは大盾を倒してその下へと身を隠す。

 通った射線に、エミリアは立て続けに矢を放つ。

 その全ては命中するが、一撃で仕留められる頭を捉えたのは一つだけだった。


「あぁ、もう!矢羽がないと安定しないっ!!クロード、次の矢を!!」


 とっくに持ってきた矢を打ち尽くしていたエミリアは、クロードがこの場で生成する矢を使っていた。

 荷物の関係で矢尻だけを持ち込んで作ったそれには、当然矢の軌道を安定させる矢羽はついておらず、エミリアは口惜しそうに不満を口にする。


「ほら!持ってきた矢尻はそれで最後だぞっ!!」

「なら、そこらの石でも拾って作りなさい!!そこっ!!」


 それも今、渡した分で最後となっていた。

 矢の柄となる木材は幾らでも現地調達できたが、鉄で出来た矢尻はそうもいかない。

 弓の角度を急に跳ね上げ、上空のハーピーを射抜いたエミリアは、それでも追加の矢は必要だとクロードに無茶なお願いをしていた。


「石たって・・・手頃なのなんて、見つからないぞ?」

「クロード様!!エアロ・シールド!」

「え?うおっ!?危ねぇ!!」


 エミリアの願いに、姿勢を低くして草むらを掻き分けだしたクロードは、見つからない石の姿に不満を漏らす。

 その無防備な彼の姿に気がついたのは、常に彼のことを気にしているアンナと、敵の射手だった。

 放たれる矢に、アンナは飛び道具避けの魔法をクロードへと掛ける。

 魔法によって纏われた空気の障壁は、急速に迫る矢の軌道を僅かに逸らす程度の効果しかない。

 それでもアンナの声に、頭を上げたクロードの命を守る事ぐらいは出来ていた。


「大丈夫ですか、クロード様!?」

「お、おぉ・・・助かった。いや、俺はいいんだ!魔法は他の子に使ってくれ」

「でもっ!!いえ・・・クロード様がそう仰るなら」


 駆け寄ってくるアンナに、クロードは自らの頭の下を通過して地面へと突き刺さった矢に目をやって、冷や汗をかく。

 彼はアンナに礼を言うが、自らの能力を思い出すと彼女の判断にやんわりと苦言を呈する。

 クロードの身の安全を心配するアンナはそれに反抗するが、すぐに言葉を呑み込んで顔を俯かせた。

 自らの意思を抑え込んで了承してくれたアンナに、クロードは恐る恐るその肩を撫でていた。


「悪いな・・・クラリッサ!本当にこのまま拠点に戻って大丈夫なんだな!?」


 最後に軽くアンナの肩を叩いたクロードは、今倒れ付した少年の下へと駆け寄る。

 彼の傷はかなりの深手であったが、幸い息はまだあった。

 無言で近寄ってきていたイダに守られたクロードは、彼の治療を終えると周辺の様子を窺う。

 そこには、今にも魔物に圧倒されそうな仲間達がいた。


「え、えぇ・・・大丈夫の筈です。おじ様達は勝ったのだから」


 クロードの不安の声に、クラリッサは言葉を迷わせている。

 彼女は先ほど一度聞こえたっきりの勝利の希望を忘れられていない、状況は刻一刻と悪くなっていた。


「それは指揮官を倒せば、向こうの士気が崩壊するって見立てがあったからでしょう?今の状況を見てもそれを言えるの!?」

「崩壊した結果がこれかもしれないでしょ!!これを凌ぎきればきっと・・・!!」


 こちらへと矢を放とうとしていたゴブリンを逆に射抜いたエミリアは、幻のような希望に縋り続けるクラリッサを怒鳴りつける。

 彼女の声にもクラリッサは反射的に叫び声を上げる、その反論は根拠のない希望的観測を基にしたものだった。


「・・・逃げるべき」

「もうしんどい、にゃー!」


 飛び掛ってきたインプの顔を殴りつけたティオフィラは、その背中をイダによって守られている。

 彼女らは口々に限界を訴えてきている、見れば彼女らは二人とも必死に肩で息をしていた。

 クロードの力によって傷は癒せても、消耗する体力はどうする事も出来ない。

 限界は、もうすぐそこまで迫っていた。

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