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大人達の戦い 5

『がっ・・・は、勝ったつも、りに・・・』


 斜めに奔った剣先は、ホルガーの身体を両断する。

 後ろから彼へと剣を突き刺していたトゥルニエは、その鼻先を掠めた剣先に尻餅をついていた。


「うおっ!?はははっ、危なかったぞレオン!!加減を考えてくれよ!!!」

「・・・そんな余裕はねぇよ、おっさん」


 爆風の余波で吹き飛ばされたレオンは、地面へと尻餅をついたトゥルニエよりも遠くへ転がっていた。

 そんな彼へとトゥルニエは笑顔で文句を言っていたが、レオンはそれを淡々と流すと、身体についた土を払いながら立ち上がる。


「ほら、勝ち鬨を上げろよ。あんたの役割だろ?」

「・・・お前がやってもいいんだぞ?」

「・・・遠慮しとくよ」


 指揮官が倒された事で、周りの戦闘は一時的に停止している。

 彼らのほとんどはまだ何が起きたのか理解してはいないだろう、しかし異変が起きたことは分かっているのか、皆一様にこちらへと視線を向けていた。


「・・・そうか。敵の指揮官を、このエドモン・トゥルニエとレオン・エルランジュが討ち取った!!俺達の勝利だ!!!」

「「うおおおぉぉぉぉぉ!!!」」


 トゥルニエが張り上げた大声に、呼応する雄叫びが轟く。

 彼らは皆一様に拳を突き上げている、彼らの姿は隙だらけであったが、その様子に指揮官の死亡を知った魔物達は逃げ出すのに必死で、それどころではなかった。


「・・・ちっ、うるせぇな」


 雄叫びを上げては周りの者へと抱きついていく男達の姿に、レオンは呆れるように文句を漏らしていた。

 彼は溜息を吐くと、地面に突き刺した剣を抱きかかえるように座り込む。

 その右手を軽く握り締めたレオンは、誰にも見えないように僅かにそれを動かしていた。


『おいおい、俺がいない間にずいぶん楽しそうな事になってんじゃねぇか?』


 彼方から響いたその声は、地鳴りのように低く、耳障りな声だった。

 かなり遠くから発されたその声に、どれほどの者が聞こえたとも思えない。

 しかしこの場にいる全ての者が、のっしのっしと近づいてくるその者の方へと顔を向けていた。


『なんだぁ?ホルガーは死んだのか?これは、なかなか楽しめそうじゃねぇか?』


 なぜならば、その者が圧倒的な強者であったからだ。


「・・・レオン、逃げろ。逃げてクラリッサに伝えるんだ、あの場所へ向かえと!」

「・・・おっさん、俺も」

「いいから、行けぇ!!!」


 ゆっくりと近づいてくる存在の圧倒的な強者のオーラに、最初に気がついたのは人間の強者である二人だった。

 彼らは一瞬で、それが到底太刀打ちできる存在ではないと悟っていた。

 逃げろと告げるトゥルニエに、レオンは共に討ち死にする覚悟を語る。

 しかしそれは、無理やり背中を押したトゥルニエによって拒絶されていた。


「・・・クラリッサ、逃げてくれよ。娘を頼む・・・クロード殿、あなたにもう少し早く出会っていれば・・・」


 森へと視線を向けたトゥルニエは、願うように言葉を呟いた。

 彼は拭いきれない後悔と願望を口にする、しかしそれも再び前を向く頃には、戦士の顔へと変わっていた。


「お前達に残念な知らせがある!俺達はここで死ぬ!!しかし無駄死にではないぞ、我々には救世主が舞い降りた!それを守るために、人類を守るために、俺達は今ここで死ぬ!!!死にたい者だけ、ついて来いっ!!!」


 トゥルニエは雄叫びを上げて、兵士達を鼓舞する。

 その言葉は、彼らの死を告げていた。

 それを言い切ったトゥルニエは剣を高く掲げると、後ろを振り返る事なく駆けていく。


「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」


 呼応する声は高く、追従する足音は激しい。

 たった一人反対側へと離れていったレオンは、途中で捕まえたドラクニルに跨ると、一直線に森へと向かった。


「・・・おっさん、あんたの事は嫌いじゃなかったよ」


 その呟きは、誰にも聞かれることはなかった。

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