大人達の戦い 2
「兵を、戻す・・・ですか?それは・・・?」
ホルガーの命令を受けた部下の反応は鈍い。
それも当たり前だ、先ほどから二転三転する彼の指示に、周りの者達は不信感を抱き始めていた。
「奴らの、奴らの狙いはこの私だ!!奴らは我々が逃亡を一番恐れていると知って、それを囮にしたのだ!!早く、早く兵をっ!!」
「そ、そんな事がっ!?分かりました、すぐにでも―――」
自らの身の危険に混乱の極みにあるホルガーは、早口に言葉を捲くし立てる。
彼は自らの命令を聞くために足を止めている部下をも押し退けていくが、彼の言葉の内容を理解した部下も慌てて駆け出そうとしていた。
彼の了承の言葉は最後まで言い終わる事はない、それはその頭を突き抜けて刃が飛び出てきたからだ。
「お前が指揮官、だな?」
ゴブリンの頭を貫いた剣を引き抜いたトゥルニエは、崩れ落ちていくその身体越しにホルガーに問いかける。
通じない言葉に、彼は返答を待ってなどいなかった。
踏み越えた死体の先のホルガーに向かって、トゥルニエは剣を振り上げる。
『なめるなぁ!!』
「くっ!?このっ!!」
振り下ろされた剣を、ホルガーはその杖を使って弾き返す。
見た目からも、自らに使った魔法からも魔法使い然としたホルガーの予想外の動きに、トゥルニエはあっさりと体勢を崩されてしまう。
ホルガーはそこに蹴りで追撃を放つ、体格の違いに鎧の上からでは大した衝撃にもならない。
しかしその攻撃は、トゥルニエが放とうとしていた反撃の逸らすことに成功し、彼の剣の切っ先は虚空を薙いでいた。
「こいつだっ!こいつが指揮官だ、間違いない!!」
蹴りつけた反動に離れていったホルガーの周りへと、魔物達が集まって来る。
その姿に、トゥルニエは彼が指揮官であると確信し大声を上げた。
トゥルニエの後ろの兵士達がその声に呼応し、ホルガー達に対して相対するように歩み出てくる。
見れば彼らの姿はボロボロであり、怪我の負っていない者はいないという状況で、最初に突撃していた時と比べると、人数も減っているようだった。
『あいつは・・・馬鹿なっ!?確実に仕留めた筈、何故生きている!!?』
『も、もしや奴らは高位のアンデットのように、何度殺しても生き返るのではっ!!?』
『そんな訳があるか!!それらとて適切な手段をとれば葬れる、ましてや人間など・・・私がそれを証明してやるっ!!』
お互いに相対することで始めてトゥルニエの顔を正面から確認したホルガーは、驚愕に表情を歪める。
彼の目は、まるで亡霊を目撃したかのように見開かれていた。
それも仕方のないことだ、彼にとっては目の前の存在がまさしくそうなのだから。
ホルガーの反応にその事実に気がついてしまった周りのゴブリン達は、ざわざわと混乱の兆しを見せ始めていた。
ホルガーはそんな彼らを一喝すると、自らその元を断ってみせると力を込める。
彼の身体から無形の圧力が立ち上り、その全身を覆うローブが翻り始める、魔法の予感に周りのゴブリン達から歓声が上がった。
「不味い!!奴め魔法を使うぞ、散開しろ!!」
魔法の気配は、正面のトゥルニエ達にもすぐに伝わった。
彼は周りの兵士達へと散開するように警告すると、自らは剣を握り直す。
「隊長!あんたは、どうするつもりなんだい?」
「愚問だな、ギャロワ!奴の首を取る!!」
「ははっ、そうこなくっちゃ!俺もお供しますぜっ!!」
腕に力を込め、ホルガーの事を睨みつけるトゥルニエの姿に、大柄な兵士ギャロワが声を掛けてくる。
彼は決死の覚悟を決めたトゥルニエの言葉を聞くと楽しそうに笑い、自らの武器を掲げては追従を宣言した。
「・・・遅れるなよ?総員、突撃ぃぃぃぃぃぃ!!!」
「「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」