子供達の戦い ２
「もう、逃げられそうにないわね・・・」
クラリッサが呟いた言葉には、諦めの色が滲んでいる。
彼女のその様子も仕方のないことだろう、大量のゴブリンに囲まれているこの状況では。
『あぁ？追いかけっこはもうお終いか？じゃあ、こっからはお楽しみの時間だな！おっと、誰か別のお楽しみをやりたい奴はいるかぁ？それなら先を譲ってやるぜぇ、こんな不細工共におったてられる奴がいたらの話だがなぁ！！』
『『ぎゃはははははは！！』』
彼女達を取り囲むゴブリンのリーダーと思われる男が、足を止めた彼女たちに対して下卑た笑みを作っては、周りの者へと語り掛ける。
それに呼応して周りのゴブリン達も、口々に下卑た笑い声を上げていた。
たとえ言葉が通じなくとも、それが加虐の喜びに満ちていることは分かっていた。
「クラリッサ！」
「分かっているわ、アンナ・・・ここまでね」
怯えるアンナは、縋りつくようにクラリッサへと声を掛ける。
彼女の声に、クラリッサは武器を下ろして諦めの言葉を口にしていた。
『なんだぁ？諦めちまうのかぁ！？つまんねぇなぁ、おい！！俺らを楽しませるために、しっかり抵抗してくれやぁ！！』
抵抗の意思を見せない彼女の態度に苛立つゴブリンのリーダーは、クラリッサの前へと進み出ると 自らの獲物を振り上げる。
それは粗末な作りの斧ではあるが、彼女の頭を砕くには十分な威力を齎す筈だ。
ゴブリンは怒鳴り声と共に、それを振り下ろした。
『あぁ？なんだ、こ―――』
振り下ろされた斧に、クラリッサは僅かに身体を動かしてそれを肩で受ける。
響いた金属音にゴブリンが疑問の声を上げるが、それを最後まで言い切ることはなかった。
「皆、武器を取りなさい！！」
ゴブリンの喉を切り裂いたクラリッサは、後ろへと振り返ると周りへ号令を下す。
斧によって切り裂かれた彼女の肩からは、鈍く輝く鎧の姿が覗いていた。
「「おおぉ！！」」
彼女の号令に大声で応えた者達は、各々に隠した武器を取り出す。
よく見れば彼らの服の下には、新品のように綺麗な鎧や鎖帷子が着込まれていた。
「皆、クロード様を中心に円を作って！！クロード様は怪我人の治療をお願いします！！」
「任せろ！！お前ら、俺の事は気にしなくていいからな！！自分が死なない事だけ考えろ！そうすりゃ、俺が治してやる！！」
クラリッサの指示に、少年少女達はクロードを中心に円陣の形を取る。
クロードは彼らに守られる形になりながら、自らの事は気にするな彼らに語り掛けた。
下に鎧を着込んでいたとはいえ、流石に無傷とはいえないクラリッサを早速癒した彼は、真剣な表情で周りの状態を窺い始める。
「・・・信じますよ。皆、声を上げなさい！！私達はこれから、本来の役割―――」
幾ら新調した武具を用意したといっても、ここにいる者のほとんどはまだ少年や少女に過ぎない。
彼らがここで生き残るには、クロードという特異な存在の力が必要不可欠であった。
その彼の自らの命を粗末にする発言に、クラリッサは複雑な表情をしながらも信頼を口にした。
彼女は声を張り上げる、彼らに課せられた役目を宣言するために。
「陽動を開始します！！」
「「おおおぉぉぉぉ！！！」」
彼女の宣言に、彼らは弾かれたように雄叫びを上げる。
魔物に囲まれている状況に、彼らの恐怖は想像に難くない。
その叫び声はそんな抑圧からの解放を謳って、高らかに轟いていた。
