指揮官ホルガーの過ち
「どうやら、見つけたようだな」
森の木々から一斉に飛び立った鳥の姿と、僅かに聞こえてくる喧噪の気配に、ホルガーは逃亡者の発見を確信する。
彼はそれまで周りをうろうろと歩き回っていた歩みを止めると、安堵したように地面に杖を打ちつけた。
「逃げ出した連中が、ですか?」
「まず間違いなかろうよ。しかし、必ずしも一つに固まって動いているとは限らん!確実に全てを捕まえるためにも、人員は送り続けろ!!」
「ははっ!」
急に様子の変わった彼の姿に、近くで待機していた部下が窺うように声を掛ける。
彼は部下の言葉ににやりと笑みを見せると、引き締めるように声を荒げる。
彼は周りの者にも聞こえるように声を張り上げると、腕を振って指示を出していた。
「それで、ホルガー様。あの者達への対処はどうなさいますか?」
「あの者達?あぁ、こちらへと向かって来ていた人間共か。あれだけうるさかった声も、もはや聞こえないではないか?もう全滅してしまったのでは?」
ホルガーの指示を受けて駆け出していった部下とは別に、近づいてきた部下が告げた内容に、彼は一瞬思い当たるものがなく戸惑ってしまう。
あれほど危険に感じていた人間達も、彼が後方へと陣を移してから碌に声も聞こえなくなっていた。
彼らに対応するために、少ないながらも兵を向かわせていたホルガーは、すでに彼らは全滅したものとして考えを漏らす。
「私もそう思いますが・・・一応、確認に誰か向かわせますか?」
「そうだな、そうしてくれ」
部下の提案を了承した彼は、その声に関心がほとんどないことが窺われた。
彼にとっての関心事は、逃げ出した人間達を確実に仕留められるかどうかだけだった。
その様子をよく観察するために、彼は丘の方へと歩いていく。
「流石に細かな状況までは見えはせんか・・・ん、どういう事だ?人間共の死体がどこにも・・・」
丘の突端から森へと目をやったホルガーは、流石に窺えない様子に溜め息を吐くと、ついでとばかりにその周りへと視線を巡らせる。
そこには、どこかに転がっている筈の人間達の死体が僅かばかりも見当たらなかった。
「まさか・・・そんな、そんな事が!?兵を、兵を戻させろっ!!!」
必死に頭を振って、周りを見渡してみても彼が望むものの姿は見当たらない。
ホルガーはたじろぐ様に後ずさっていく、何かを探していた頭は、今や何かを否定するように横に動いていた。
彼が逃げ出すように駆け出すまでに、それほど時間は掛からない。
その助けを呼ぶような悲痛な叫びだけが、虚しく響いていった。
彼が何に気づき、何に怯えたのか、それは―――。