大人達の戦い 1
「とりあえず、第一段階は成功といったところか・・・」
「はっ!奴らは不意を突かれて混乱しております!」
ヴィラク村のすぐ傍には、深い森が広がっている。
人間達の逃亡を恐れてそちらにまで部隊を展開していた魔物達は、突然拠点から飛び出して突撃してきたトゥルニエ達に圧倒されていた。
指揮官を倒すために、森側ではなく遮るものない平地へと進軍した彼らが、奇襲を成功させたのは偶然に他ならない。
彼らの攻撃は、魔物達が退路を絶つ行動から攻勢へと行動を切り替えるタイミングと合致していた。
攻勢のために軍容を整えていた彼らは、予想外に突出してきたトゥルニエに対応できずに混乱してしまう。
そのため彼らは、防衛のための態勢を今だ取りえてはいなかった。
「指揮官はあの丘の向こう側だ!!足を止めずに突撃するぞ!!」
「「うおおおぉぉぉぉぉ!!!」」
突撃の号令に剣を丘へと向けたトゥルニエに、兵士達が鬨の声を上げる。
先頭を駆けていくトゥルニエに、雄叫びを上げる兵士達が付き従う。
彼らの迫力に混乱した魔物達は、そのほとんどが背中を見せて逃げていった。
「そこをどけぇぇぇぇ!!!」
立ち塞がる数少ない魔物は、ゴブリンの姿が多い。
それは彼らの指揮官の種族を物語っていた。
トゥルニエは自らを焼いた、魔法の使い手の姿を思い浮かべる。
一瞬目にしただけの姿だが、その姿は今切り捨てた魔物の姿に確かに似ていた。
「隊長、トゥルニエ総隊長!どこまで行かれるおつもりですか!?」
順調に侵攻を続けていく兵士達も、混乱から立ち直った魔物達が徐々にその周りを包囲し始めていた。
その様子にいち早く気がついた細身の兵士、ファロはトゥルニエに対して暗に撤退を求める質問を投げる。
「愚問だな、ファロ!行ける所までだっ!!お前達、もっと声を上げろ!!!」
「うおおおぉぉぉぉぉ!!!」
ファロの疑問を一言で切って捨てたトゥルニエは、兵士たちに振り返るともっと声を上げるように煽って拳を振り上げる。
それに反応した大柄な兵士、ギャロワは雄叫びを上げながら包囲を完成させようとしていた魔物達へと突っ込んでいく。
「はははっ!!いいぞ、ギャロワ!奴に遅れをとるな、突撃ぃぃぃぃ!!!」
「「うおおおぉぉぉぉぉ!!!」」
突撃したギャロワの勢いに、崩れかけた包囲も彼の足が止まった事で再び作られ始める。
彼らの目論見は、ギャロワに続いて突撃を仕掛けた兵士達の姿に打ち砕かれる。塞がりかけた傷口を抉られた彼らは、為す術なく突破を許してしまっていた。
「やれやれ、手がつけられないな・・・」
雄叫びを上げながら突撃していく兵士達に、ファロの呆れたような呟きだけが流れていく。
丘の向こうまでは、まだまだ遠かった。




