彼女達は駆け出していく
「はぁ・・・はぁ・・・はぁっ。皆、無事よね?」
崩落する坑道を駆け抜けて、崖下の地上にまで飛び出したクラリッサは、地面に横になりながら皆の無事を確かめていた。
「・・・なんとか」
「はぁ、はぁ・・・はぁ~、きつかったぁ・・・」
折り重なるようにダウンしているイダとアンナは、それぞれに返事を返す。
彼女達がそうして倒れているのは、鈍足のために途中で遅れかけていたイダを、アンナが補助していたからだろう。
「はぁ・・・はぁ・・・も~、あったまきた!!今度会ったらただじゃおかないから!!!」
乱れる呼吸を整えて、何とか立ち上がったエミリアは、ここにはいないクロードへの怒りに叫び声を上げる。
経った時間にゆっくりと起き上がりつつあった少女達であっても、彼女の苛立ちを窘める者はいなかった。
「あれ?エミリア、それは?」
「え?あぁ、これね。あいつに押し付けられたのよ、なんか敵の作戦書だからとかで」
エミリアに遅れてなんとか立ち上がったアンナは、彼女の腰の辺りからはみ出している書類に束を目にして首を捻る。
彼女の声に後ろを振り返ったエミリアは、それを取り出すとアンナに広げて見せていた。
その声には先ほどの苛立ちがまだ僅かに残っていた、それはその書類を押し付けた存在が、彼女の怒りの源と同じ存在だからだろう。
「そうなの?でもここ、どこかで見たことがあるような・・・」
「え?ほんとに?」
エミリアに書類を広げて見せられたアンナは、その一つに描かれている絵に見覚えがあるように感じていた。
彼女にそれを指摘されたエミリアは、改めてそれを目にすると、驚き固まってしまっていた。
「どうしたの、二人とも?」
「えっと、なんかこれ・・・クロード様が見つけた、敵の作戦が書かれた書類だとかで」
なにやら話している二人が気になったのか近づいてきたクラリッサに、アンナは曖昧な説明を返していた。
その間にもエミリアは食い入るようにその書類の絵を見詰め、何かを思い出したようにそっと呟いていた。
「ここ、昔に使ってたエルフの隠れ里だ・・・」
「え、今なんて?あぁ、書類が・・・ちょっと、エミリア!?」
絵に書かれている場所の心当たりを呟いたエミリアは、その書類を取り落としてしまう。
彼女が呟いた声は小さく、聞き取れない。
エミリアが落とした書類を拾い集めようとしたアンナは、突然駆け出した彼女に驚きの声を上げる。
しかしその声にも、エミリアは振り返る事なく、そのまま駆け抜けていってしまっていた。
「ど、どうしようクラリッサ!エミリアが!?」
「とにかく追いかけないと!急ぎましょう!!」
「う、うん!」
一心不乱に駆け抜けていく彼女の後ろを、アンナ達は慌てて追いかけていく。
その向かう先を、彼女達はまだ知らなかった。