逃げ道は一つ
「いったたた・・・何が起こったんだ、一体?」
予想以上の速さで崩壊した床に巻き込まれ、下の階へと落下したクロードは、痛む頭を擦りながら周りを見渡していた。
彼が落下してやってきたのは、かつて彼がゴブリン達と戦っていた部屋だった。
何故こんな事になったのか理解できない彼に、怒りの表情を浮かべたレオンが詰め寄ってきていた。
「お前、一体何を考えてるんだ!!大体床を崩して逃げるなら、もっと早く・・・!」
「レオにぃ、危ないにゃ!!」
レオンは最悪のタイミングで床を崩したクロードを怒鳴りつけるが、その彼の頭上からも瓦礫が降ってきている。
それにいち早く気がついたティオフィラが彼を突き飛ばして何とか事なきを得るが、次から次へと降ってくる瓦礫に、ここもいつまでも安全ではなさそうだった。
「お、おい!早く逃げた方が良くないか?」
「そうだな・・・シラク!急ぐぞ!!」
「あ、あぁ・・・」
降り注ぎ続ける瓦礫に、頭を庇いながらジリジリと後退してきたロイクは、ティオフィラと縺れ合って倒れているレオンへと呼びかける。
その提案に頷いたレオンは、素早く立ち上がると今だに座り込んだままだったクロードへと手を差し出していた。
「魔物共もいなさそうだな・・・よし、行くぞ!!」
クロードを助け起こしたレオンは、彼が作った壁の名残が残る出入り口の様子を窺うと、そこに敵の気配がないことを感じ取り、仲間へと合図を送る。
レオンを先頭に駆け出した一行はしかし、その数歩のうちに立ち止まるしかなくなっていた。
「ちっ!ここも駄目か・・・シラク、向こうの壁を」
「駄目にゃ!そっちもどんどん崩れていってるにゃ!!」
目の前で崩落を始めた出入り口に、逃げ道を塞がれたレオンは近くの壁をクロードに破壊させて、そちらから逃げようと試みる。
しかしそちらも次々と崩壊を続けている城に、瓦礫が降り注ぎ続けており、先行して向かおうとしていたティオフィラが慌てて飛び退いてきていた。
「えぇ!?それじゃあ、どうすりゃいいんだよ!?」
失われた逃げ場に、ロイクは頭を抱えて悲鳴を上げる。
彼はふらふらと部屋の中央へと後退すると、そこに蹲ろうとしていた。
「もう、あそこしかないだろ」
「・・・正気か?」
進退窮まりつつある状況に、クロードは静かに部屋のある場所を指し示す。
そこはかつて彼がうっかり開けてしまい、そのまま飛び降りてしまった壁の穴だった。
彼の提案に難色を示すレオンだったか、もはやそれしか選択肢はないと薄々感ずいてもいた。
「いやいや、崖を削ってスロープみたいにするから平気平気!大丈夫だって!」
「・・・信用するからな」
このままここにいても城の崩壊に巻き込まれるだけだと感じたレオンは、クロードな適当な言い分に引っ掛かりながらも頷いてみせる。
壁の穴に手を掛け、外の様子を窺った彼はその高さに生唾を飲み込むと、クロードに念押しするように指を突きつけていた。
「にゃー、にいやんに任せるにゃ!」
「え、本気で!?本気でここから飛び降りる気なの!!?」
躊躇の色を見せたレオンと違い、気楽な様子でクロードの提案を了承したティオフィラは、両腕を頭の後ろで組みながら、まるで遊びにいくような気軽さで彼へと近づいていく。
周りの者達が全て、ここから飛び降りる事に了承した事で孤立してしまったロイクは、その信じられない考えにパニックを起こして騒ぎ立てる。
クロードの力をある程度は目の当たりにした彼も、それに命を掛けられるほど信用は出来ていない、その混乱はもっともなものであったが、残念ながらそれに付き合っている暇はここの誰にもなかった。
「いいから行くのにゃ!にいやん、準備できたにゃ!!」
「おーし、行くぞー!お前ら、俺に掴まれ!!」
ティオフィラに背中を押され、無理やり壁際にまで追いやられたロイクは、そのままその身体をレオンとティオフィラに拘束されて、抵抗する事すら出来なくなっていた。
ティオフィラの合図に短く頷いたクロードは、自分の身体に掴まるように周りに注意を促すと、その両手に光を纏わせて力を発動させる。
「嘘だろ、おい!嘘だろぉぉぉぉぉぉっ!!!??」
崩れる床はすぐに地面へと変わって、それもクロードの力によって流砂に変わる。
かなり急勾配の坂を下る四人は、がっしりと身体を繋げあって一塊になって滑り落ちていく。
急激な速度はその摩擦に痛みと傷を与えるが、そのダメージはクロードの力によってすぐさま癒される。
それでも激痛には変わりなく、皆が必死に歯を食いしばって耐えている中、ロイクの悲痛な叫びだけが響き渡っていた。




