表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/169

勝利

「今のは・・・」


 自らが跳ね飛ばしたオーデンの首が、床へと跳ねていくのを見守っていたレオンは、先ほど振るった一撃の鋭さを思い返すように手を握り返していた。

 その感覚は、彼がずっと突き破れずにいた領域のものだったように思える。

 レオンはその感覚を忘れないように頭の中で反芻させると、充実した満足感を噛み締めていた。


「・・・やったな」

「なんだ、生きてたのか」


 後ろから声を掛けてきた相手に振り返ったレオンは、その姿に皮肉げな笑みを見せる。

 その声はクロードが掛けてきたものだった、彼はアンナに支えられ何とかレオンへと近づいていたが、その途中で自らの力によって癒されたのか、一人で歩き始めていた。


「おい!そりゃないだろ!?へへっ・・・うぃうぃ」

「ちっ・・・ほらよ」


 レオンの軽口の大げさなリアクションをとって見せたクロードも、自然と笑みが漏れていた。

 彼は嬉しげな表情のまま手を掲げると、何か欲しがるようにレオンを促した。

 その仕草に嫌そうに顔を歪めたレオンも、渋々といった風にその手に自らの手の平を合わせていた。


「にゃー!!やったにゃー!!!にいやん、レオにぃ!凄い、凄いにゃ!!」

「・・・凄かった」


 駆け寄ってきたティオフィラは、歓声を上げながらそのまま二人に飛び掛ってきていた。

 クロードだけでは受け止め切れなかったその勢いも、レオンが彼女の勢いを殺した事で何とか耐え切ることが出来る。

 彼女の後ろをトコトコと追いかけてきていたイダは、二人の傍にまで近づくと、その身体をペシペシと叩いて褒め称えていた。


「ティオ!?お前大丈夫なのか!?ほら、治してやるから」

「にゃははは・・・忘れてたにゃ。にいやん、ありがとにゃ!」


 片足を骨折していたのも忘れて飛び込んできたティオフィラは、二人に抱きとめられてようやく痛みを思い出したのか、その表情を青ざめさせていく。

 その表情に始めてティオフィラが怪我をしている事を知ったクロードは、慌ててその力を発動させて彼女の身体を癒していく。

 引いていく痛みに申し訳なさそうに笑みを作ったティオフィラは、治った足を確かめると、今度は嬉しそうにクロードの胸元へと頬をすり合わせていた。


「クロード!!復活したなら早くこっちに!クラリッサが!!」


 ぐったりとして意識を失っているクラリッサを抱えるエミリアは、復活したクロードの姿に焦りの声を上げる。

 彼女にまだ息があるのは間違いないが、その痛々しい姿にエミリアの心配そうに表情を歪めている。

 クロードの癒しの力は確かに凄まじく、もっと酷い状態に見えたアンナの父親や、腕と目を失っていたレオンも問題なく回復させていたが、それはいずれも外傷だ。

 そのため自ら無理な魔法を行使したことで、身体をズタズタに傷つけたクラリッサを治せるという保障はどこにもないように思えた。


「マジか!?悪い、すぐ行く!!うおっ、危ねぇ!?アンナ、悪いけど・・・」

「はい、任せてください!!」


 その時にはすでにオーデンに潰されており意識のなかったクロードは、初めて知らされたクラリッサの状態に、慌ててそちらに駆け出そうとする。

 しかし復活したばかりのせいか足元が覚束ない彼は、その一歩目に躓き転びそうになってしまう。

 その状態に一人で歩く事を諦めたクロードは、ここまで支えてくれていたアンナに、再び支えてくれるように頼む。

 彼に頼られたアンナは、どこか嬉しそうにその肩を支えていた。


「クラリッサ!?これは・・・酷いな」

「大丈夫よね?ねぇ、大丈夫なのよね!?」


 クラリッサの下まで辿り着いたクロードは、その状態に焦りの声を漏らす。

 全身の至る所から血を滴らせ、掠れるような呻き声を洩らしているクラリッサは、確かに息はあるようだったが、そのダメージは明らかに深く、脳にまで達しているかのように見えた。

 クロードの反応にその不安を掻き立てられたエミリアは、クラリッサを揺すってしまわぬようにしながらも、彼へと強く問いかける。

 その表情には不安の色が濃く、クラリッサの身体を支える腕も彼女を放すまいと、強く握り締められていた。


「多分、大丈夫な筈だ・・・頼むぞ」

「多分って、そんなんじゃ・・・!くっ、頼むわよ・・・」


 クロードの曖昧な言葉は、寧ろエミリアを不安にさせていた。

 それでも彼に頼る術しかない彼女は、口に出しそうだった文句を飲み込むと、治療を始めたクロードを祈るような仕草で見守り始める。

 その周囲には、心配そうな表情をしたティオフィラやイダも集まってきていた。


「これで・・・どうだ?」

「・・・・・・こ、ここは?私・・・あいつは!?あいつは、どうなったの!!?」


 治療を終えてクラリッサの様子を恐る恐る確認するクロードは、ゆっくりと目蓋を開いた彼女の姿に安堵の吐息を洩らす。

 目覚めた彼女はその混乱からか、焦点の合わない瞳で周りを見渡すと、すぐにその目を見開いて無理やり身体を起こそうとしていた。

 彼女の意識の中では、まだオーデンとの戦いが続いているのだろう。

 彼女の起き上がった上半身は、すぐに別の少女によって抱きしめられていた。


「クラリッサ!!良かった、本当に・・・もう、心配させて!!一人で無理してんじゃないわよ!!」

「エミリア・・・?あなた、泣いてるの?それよりあいつは、戦いはどうなったの?」


 起き上がろうとしていたクラリッサを、抱きしめて再び押し倒したエミリアは、その胸元で泣きじゃくっていた。

 エミリアは安堵と共に流した涙をクラリッサの胸元で拭うと、次に怒りを彼女へとぶつける。

 まだそこまで力が入らないのか、為す術なくエミリアに押し倒されてしまったクラリッサは、彼女のそんな振る舞いに訳が分からないと、どこかきょとんとした表情で彼女の事を見詰めていた。


「まったく・・・あんまり無理すんなよ?」

「クロード様!?そうですか、私は・・・いえ、信じていましたから」


 問題なさそうなクラリッサの様子に力が抜けたように腰を下ろしたクロードは、彼女を窘めるように声を掛ける。

 彼の声とその姿にクラリッサはすぐに状況を飲み込むと、その注意に対して薄く微笑みを返していた。

 その表情はクロードの対する信頼のようにも、命を賭しても彼を守るという彼女の覚悟のようにも見え、そんな顔を見せられたクロードは何も言えなくなってしまっていた。


「にゃー!!クララー!良かったにゃー!!!」

「・・・ティオ、どうどう」


 喜びのあまり、まだ意識を取り戻して間もないクラリッサに思いっきり飛び込もうとしていたティオフィラは、イダによって宥められている。

 それでも彼女は突っ込もうと粘っていたが、近くにいたアンナにも制止されると、流石にばつが悪くなり大人しくなっていた。


「なぁ、ボスを倒したんなら今の内に逃げないか?魔物共も大人しくなってるし」

「ロイクさん。そうですね・・・クロード様!」


 オーデンが倒された事によって、部屋に押し寄せていた魔物達のほとんどは逃げ出すか、混乱してその場を動けない者ばかりとなっていた。

 戦う必要がなくなった事でクロード達に近寄ってきたロイクは、今の内に逃げようとアンナへと声を掛ける。

 魔物達は今でこそ混乱し、戦う意思をなくしているが、その数は今だに多く彼らが再び戦いを始めれば、クロード達などあっという間に飲み込まれてしまうだろう。

 それを考えれば彼の提案は正しいように思える、周りを見渡し状況を確認したアンナはロイクの言葉に納得すると、クロードに判断を仰ごうと声を掛ける。


「なんだ?どうしたんだ、アンナ?」

「ロイクさんが、今の内に逃げないかと。私もそうした方がいいと思います」

「そうだな・・・クラリッサ、どう思う?」

「そうですね・・・私も、そうした方がいいと思います」


 クロードへと声を掛けたアンナは、ロイクの意見を紹介しながら、自分もそれに同意だと示していた。

 アンナの言葉に納得の仕草を見せたクロードはしかし、自分だけの判断では危ういと感じ、クラリッサにも意見を求める。

 彼女もそれに同意すると、周りの皆にも意見を伺うような視線を向ける、しかし彼女の判断に反対する者など、ここには存在しなかった。


「それじゃあ、急ごうぜ!」

「えぇ!・・・そうだ、ロイクさん!お父様を、お父様を見ませんでしたか!?」


 クラリッサの同意に、逃げ道を急ごうとロイクは駆け出そうとしている。

 アンナもそれについていこうとしていたが、彼女はその時に自らが何故この城へと赴いたのか、その理由を思い出していた。


「えぇ!?エドモン将軍を!?あの人は死んだ筈じゃ・・・」

「それは・・・でも、モラスクさんが姿を見たと!!」

「あいつが?そういえば・・・」


 急に後ろから掴みかかり、大声で訳の分からない事を問いかけてくるアンナに、ロイクは驚き戸惑ってしまう。

 しかしその口から一緒に捕まり、皆でここから抜け出すために助けに呼びにいったモラスクの名前が出てくれば、冗談ではないと考え始める。

 モラスクは抜け出すチャンスを探るために、あえて率先して魔物達からの責め苦を受け、それによりあの部屋から外に出されることも多かった。

 彼ならば、ロイクが知らない事を知っていてもおかしくはない。

 そういえば彼は、何か言っていたような気がして、ロイクはそれを口に出そうとする。

 しかしそれは言い切る前に、別の声によって掻き消されてしまっていた。



『おいおい、オーデンがやられちまったのかぁ?誰だぁ、倒した奴は?』



 その声はこの部屋の入り口の方から響き、圧倒的な力を秘めてその場を凍りつかせる。

 それは人も、魔物も関係ない。

 それほどにその声を発した者は、圧倒的な強者だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ