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ゴブリン達の戦い

 部屋の隅でどっちつかずの態度を取り、戦況を見守っていたゴブリン達は、クロードが作った壁によって押し寄せてきた魔物達に、敵だと判断されて戦うことになっていた。


『待て!俺達は敵じゃない!戦うつもりなんてないんだ!!』

『あぁ?何言ってんだお前!ゴブリンが裏切ったなんて事は皆知ってんだよ!!今更言い訳してんじゃねぇ!!』


 魔物達に押しやられながらもゴブリン達は、今だに戦意はないことを必死に主張していた。

 しかしゴブリンが裏切ったという事はすでに周知の事実とかしており、そんな口先だけの言葉を信用する者などいなかった。

 積極的に戦おうとせずに、防戦一方のゴブリンに魔物達は容赦なく襲い掛かっていく。


『もう諦めろ!俺達は戦うしかないんだ!!』

『ギード!しかし・・・』


 自らに襲いかかってくる魔物に対しても、最後まで必死に言い訳を続けていたゴブリンに、刃が迫っていた。

 それを弾き飛ばし、押されつつあった戦線を押し返そうと声を張り上げるゴブリン、ギードはその手に敵から奪った短剣を掲げている。

 彼は仲間達に戦うしかないと訴えかけるが、他のゴブリン達はそれに難色を示していた。


『・・・その通りだな。今更何もせずにいられると、本気で思っているのか?』


 誰しもがギードの言葉に難色を示す中、彼の意見に賛同する冷たい声が響いていた。

 そちらに目をやったゴブリンは、そこに意外な人物の姿を目撃する。

 そこには人間達の拠点を発見し、襲撃を行った後行方不明になっていたヴァイゼの姿があった。


『・・・ヴァイゼさん?ヴァイゼさんだ!一体どこから?』


 年若いゴブリンが多かった集団に、ヴァイゼという年長であり実力も兼ね備えた者が現れたことで、彼の周りには自然と他のゴブリン達が集まってくる。

 彼らは突然のヴァイゼの登場に驚いていたが、その目はどこか安心しており、ヴァイゼに指示を委ねようと思考を放棄してしまっているようだった。


『そんな事はどうでもいい。何故、戦わない?俺達の裏切りはすでに知れ渡っている、ここで戦って勝ち取る以外に生き残る術などないぞ!!』


 ヴァイゼの周りに集まってきたゴブリン達は、彼に他の魔物達への橋渡しか、もしくは逃げることを指示して欲しかったのだろう。

 しかし彼は、彼らの期待とはまったく違うことを叫び始める。

 オーデンを倒す際に、人間と共闘している事を余計な者に目撃されたくないヴァイゼは、ここで入ってくる魔物達を抑えている必要があった。

 そのためにはここで日和っているゴブリン達を焚きつける事が必須であり、そのため彼は強い言葉を使って、彼らに語りかけていた。


『ヴァイゼさん・・・でも俺達には、碌な武器も・・・』


 ゴブリン達の手には、ボロボロの石の剣が握られていた。

 それすらほとんどが壊れて使い物にならなくなっており、それは彼らが一向に戦おうとしない原因の一つともなっていた。


『武器だと?ここにあるぞ』


 彼らの言葉を聞いたヴァイゼはその腰から素早く短剣を抜き放つと、彼を襲おうとしていた魔物の腕を切り裂いていた。

 その魔物が痛みに取り落とした槍を、床に落ちる前に拾い上げたヴァイゼは、それを周りのゴブリンに示してみせる。

 その行動はどんな言葉よりも明確だった、武器がなければ奪い取れ、彼はそう示していた。


『そうだ!武器なんて奪えばいい!!お前ら行くぞ!!』

『あ、あぁ・・・』


 ヴァイゼが行動で示した事を、ギードが言葉で補強して周りを扇動する。

 目の前ではっきりと示された行為に呆気に取られていたゴブリン達は、その力強い言葉につられてそのまま戦いへと赴いていた。


『中々、活きのいいのがいるじゃないか。ギードといったか・・・憶えておくか、な!!』

『ぐぅっ!?な、なんで・・・』


 周りのゴブリン達を扇動し、敵へと突っ込んでいくギードの姿を目にしたヴァイゼは、頼もしい若者に感心の声を漏らす。

 ヴァイゼがギードへと注意を逸らしているのを目にした魔物は、その隙を狙って攻撃を仕掛ける。

 しかしそれはヴァイゼにあっさりと迎撃され、心臓を貫かれた彼は疑問を漏らしながらゆっくりと絶命していった。


『何故?戦場で隙を見せる者が、いるとでも思っていたのか?』


 振るった短剣にそれについた血を本人へと返したヴァイゼは、彼の最後の疑問に対して簡潔な答えを返していた。

 ヴァイゼは次の獲物へと狙いを定めるが、彼の力を目にした魔物達はそれを恐れて距離を取っており、すぐに手が届く範囲にはそれは見つからなかった。


『ふむ・・・しかし、やはりこれではまともに戦えそうはないな。こちらにまわって正解だったか・・・』


 近づいてくる気配のない魔物達に、どこか怪訝そうな表情を見せたヴァイゼは、その手に握った短剣へと目をやると、そんなことを呟いていた。

 短剣の向こうには、オーデンと激しい戦いを繰り広げているクロード達の姿があった。

 彼は今の自分ではその闘いにはついていけないと一人ごちると、ゆっくりと他のゴブリン達の方へと歩いていく。

 勢いだけに乗って魔物達に突っ込んでいったギード達は、その勢いが尽きてくると逆に彼らに押し返されつつあった。

 その様子にヴァイゼは溜息を吐くと、彼らと合流する足を急がせる。

 どうやらこちらの戦いも、そう楽なものとはいえなさそうだった。

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