全員集合 3
「まぁいいや、余った素材で・・・よし、これでいいだろ」
不満は残ったものの、概ね自分の仕事に納得のいったクロードは、気を取り直すと新たな剣を作るのに余った素材へと手を伸ばす。
大きすぎた大剣は、適正サイズの剣へと作り直しても、まだまだ大量の素材を余らせていた。
鋼のインゴットや、無骨な骨といった形の素材になっているそれらに手を伸ばしたクロードは、再び剣をイメージして能力を発動させる。
その手には先ほど作った剣よりも、簡素な作りの剣が握られていた。
「おーい、ロイクさーん!今からそっちに・・・」
「おい!バランス悪いぞ、作り直せ!」
クロードが作った剣を掲げてロイクに合図を送っていると、後ろから再びレオンが声を掛けてくる。
彼はまたオーデンに弾き飛ばされたようで、どこかボロボロになっていたが、それもクロードが悪いと言いたげに剣をこちらへと向けてきていた。
「えぇ!?そうなの?まぁ、やってみるけど・・・こんな感じ?」
レオンがつけてきた文句は、剣の扱いも碌に知らないクロードにとっては未知の感覚だった。
そのため反論する事ができず素直に従うしかなかった彼は、レオンから剣を受け取ると、手探りで感覚を探しながらバランスを整えていった。
とりあえず作り直してみた剣の見た目は特に変わっておらず、それをレオンへと差し出すクロードの表情にも自信は窺えない。
それも無理はないだろう、彼には正解など分からないのだから。
「ふん!実際に使ってみないと分からないな・・・」
剣を受け取ったレオンはそれを一度軽く振ると、首を傾げ、何事かを呟きながらオーデンとの戦いへと戻っていく。
その後姿を見守るクロードの表情は、どこか不安げなものだった。
「シラク様、出来たのですか?」
「あぁ、はい。これでどうです?」
声を掛けたきり、何も寄越さないクロードに不安になったのか、自らで武器を取りにきたロイクが、クロードへと声を掛ける。
彼の声に振り返ったクロードは、先ほど作った剣を手渡していた。
しかしその表情は先ほどのことがあったためか、ロイクの機嫌を伺うようなものだった。
「あぁ、いいですねこれ!」
「そう?やっぱり、そうですよね!あいつが、細かいんだよな!」
「え?あ、はい、そうですね?」
クロードから剣を受け取ったロイクは、上機嫌にその具合を確かめていた。
その様子にクロードは自信を蘇らせ、去っていったレオンへの悪態を漏らす。
彼の言葉の意味が分からないロイクは、どこか曖昧に同意を示していた。
「やっと出来たの?それじゃあ、ロイクさん。それ、返してくれる?」
「おぉ、そうだったな!しかし、エミリア・・・いつの間に斧なんか使えるようになったんだ?」
クロードがロイク用の武器を作るのを、横でずっと待っていたエミリアは、長々と掛かったその時間に溜息を吐いていた。
エミリアに斧を返したロイクは、エミリアにふとした疑問を尋ねていた。
以前にも同じ事を尋ねた気がしていたが、その時は曖昧に濁されてしまっていた。
「それは・・・別にいいでしょ、なんだって!!」
「そ、そうだな!シラク様、これいい感じです。ありがとうございました」
ロイクの問い掛けに、クロードへと意味ありげな視線を送ったエミリアは、なにやら手元をいじっている彼の姿に気恥ずかしくなって、大声でそれを誤魔化してしまう。
その声の迫力に何か聞いては不味い事だと判断したロイクは、慌ててクロードに礼を言うと、彼に作ってもらった剣を抱えて駆け出していく。
「あ、ちょっと待ってください!同じの何本か作ったんで、これも持っていってください」
「おぉ!これは助かります!!それでは!」
ロイクとエミリアが会話している間に、残った素材で同じ剣を量産していたクロードは、それを纏めてロイクへと手渡していた。
数の多い剣の束に、抱える両手を危うくしながらもそれを受け取ったロイクは、ボロボロの武器を手に戦っている仲間達を振り返ると、嬉しげに笑いながら駆けていった。
「クロード様、もう大丈夫ですか?そろそろ私達も・・・」
「おぅ、そうだな。いつまでもレオン一人に戦わせる訳にもいかないからな」
クロード達の用事が済んだ頃を見計らって声を掛けてきたクラリッサは、控えめに彼に戦いへと促していた。
彼女の言葉に僅かに残った大剣の素材を放ったクロードは、解放された両手を打ち合わせて埃を払う。
彼の能力を考えればその手の平が大して汚れるとも思えないが、その動作は一仕事追えた満足感を彼に与え、気持ちを切り替える切欠となっていた。
「にゃー!!腕が鳴るにゃー!!!」
「・・・ティオ、うるさい」
クロードの言葉は、戦いに向かう事を示唆していた。
その言葉に気合を滾らせるティオフィラは、イダの背中に圧し掛かりながら、その両手を高く掲げている。
彼女の大声を至近距離から聞かされたイダは、それに文句を言いながら背中を伸ばし、彼女をその背中から押し退けていた。
「わ、私も頑張ります!」
「張り切りすぎないでよ?あんたは危なっかしいんだから」
「大丈夫だよ!私だってやれるんだから!」
「はいはい、ほどほどにね」
戦いの気配に両手に握り拳を作って気合を覗かせるアンナに対して、エミリアは懐疑的な視線を向けていた。
アンナは彼女のその態度に唇を尖らせて反論するが、エミリアはそれを適当に流している。
しかしよく見れば、エミリアの両手はその斧を握る力をかなり強めており、待ちきれないというように軽く素振りを繰り返していた。
考えてみれば一行の中で彼女が一番オーデンに痛めつけられている、その復讐の気持ちは誰よりも強いだろう。
「では、行きましょう」
「おぅ!しかし、どう戦ったもんかな・・・」
皆の反応を目にして、その戦意が十分に高まっていると感じたクラリッサは、今度こそはっきりとクロードに戦いへと向かう事を促していた。
彼女の言葉に一行の先頭に立って歩き始めたクロードはしかし、敵の強大さに頭を悩ませる。
そんな彼に、再びぶつかってくる人影がいた。
「おい、シラク!いい加減にしろよ!これのせいで死に掛けたぞ!!」
「えぇ~・・・まだ駄目ぇ?分かった、分かりました!もう一回作り直すから、ほらそれ」
「ちっ、今度はうまくやれよ!」
さらにボロボロになってこちらへと弾き飛ばされてきたレオンは、クロードの肩を掴まえるとその責任を追及して唾を撒き散らす。
彼は声高にクロードが作った剣の質の悪さを主張する、何度も繰り返されたそのやり取りにクロードは眉を顰め辟易とした態度を見せるが、確たる反論も思いつかず渋々ながらそれを受け取っていた。
文句を零しながらも素直に剣をクロードへと手渡したレオンに、クロードは何事か唸りながらその剣を作り直すために能力を発動させる。
彼らはゆっくりとオーデンへと歩みを進めている、その先ではデニスが一人、死にそうな顔をしながらオーデンの猛攻を何とか凌いでいた。