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創りの力

 一度は魔物によって破られた東側の防壁は、前線を後ろに下げて防衛線の維持に努めていた。

 しかし彼らは魔物達が攻勢を弱めたのを見ると反撃に出て、壊れた防壁まで前線を押し上げることに成功していた。

 勢いの乗った彼らも、倒れた指揮官に攻勢に出るまで大胆さはなかった。

 大人しくなった魔物達に、攻勢に出れない彼らは防壁の修復と、怪我人の搬送を淡々と進める。

 その様子は静かなものだった。

 しかし、今そこには多くの人々が集まり、人だかりが出来ていた。


「あぁ~・・・なるほど、こう使えばいいのか」

「すごい、すごいにゃー!!にいやん、にいやん!!今どうやったのにゃ!!?」

「・・・クロード、もう一回。もう一回やって」


 その人だかりの中心には、クロードとそれに纏わり付いている少女達がいた。

 彼は壊れた防壁へと手を当てると、何かに納得するように呟いている。

 いや、正確に言えば、彼は壊れた防壁の中で唯一無事な防壁へと手を当てていた。

 その防壁は激しい戦いを経験したにしては不自然なほど綺麗であり、まるで新品のような輝きを放っている。


「もう一回?ちょっと待てよ・・・これを、一回素材に戻して」


 クロードは身体に纏わり付く二人の少女に、若干難儀しながら隣の防壁へと移動する。

 半ばほどで折れて破損した防壁へと手を当てたクロードは、一度目を瞑ると僅かな光を発し始める。

 その光が防壁へと移ったかと思うと、それは跡形もなく消えていた。


「これと・・・これもか、合わせて・・・え~っと、この位置であってます?」

「は、はい!そこでお願いします」


 その場に座り込んで、元は防壁であった木材や釘などを拾い集めたクロードは、近くに転がっていた破損した部分も素材へと作り直す。

 彼はそれらの素材を抱えると、周りを見回して場所の確認を行う。

 破損が酷い箇所に、元々の防壁の形は曖昧だ。

 クロードは近くの兵士へと正しい場所を尋ねる、彼に尋ねられた兵士は緊張し、背筋を正していた。


「それじゃ、形は・・・向こうの奴を参考に・・・これでどうだ?」


 隣にある防壁では不安だったのか、遠方へと視線をやっては無事な防壁の姿を記憶したクロードは、再び目を瞑る。

 彼は素材を抱えた片腕に、もう片方の腕を虚空へと伸ばしていた。

 その腕の先に光が集まり、何かの輪郭を形作っていく。

 彼の腕から伝った光は、彼が取りこぼした壁の素材にもその光を広げていた。


「すごい、すごーい!!なーなー、にいやーん?ティオにも出来る?やりたい、やりたいにゃー!!」

「・・・これはずるい、反則。だからクロード、もう一回やって」


 クロードの突き出した腕の先には、新品の防壁が出来上がっていた。

 元々の防壁の形をしっかりと確認したためか、先ほど作ったものよりも出来の良いそれに、クロードは満足がいったように軽く手の平で叩いてみせる。

 歓声を上げたのは、彼に纏わり付いているティオフィラだ。

 彼女の素直な感動の表現は、その摺り寄せてくる身体の感触がなければ御しやすいものだろう。

 少なくとも、言葉少なに次を要求しては、圧力を掛けてくるイダよりは。


「すごい、すごいですよこれはっ!」「いったいどうやって、魔法か?」「馬鹿な!こんな魔法聞いたこともない!」「奇跡だ・・・奇跡の力だ!」


 クロードの力を目の当たりにした兵士達は、口々に驚愕の声を漏らす。

 それは手作業で破壊された防壁を修復しようとしていた者には尚更だろう、賞賛の声はやがて奇跡を讃える声へと変わっていた。


「奇跡の力、ね・・・確かにそうとしか呼べない程の力だけど、一体何者なのあいつは?あなたはどう思う、アンナ?見た目的には、あなたと同じヒューマンだと思うけど・・・とても人とは思えない」

「勿論、救世主に決まっています!!あぁ、クロード様!癒しの御力だけではなく、このような御力までお持ちなんて・・・!!」

「救世主か・・・確かにそうかもね?まだ、救われてはいないけど・・・」


 人だかりから若干離れた場所に立っていた二人はそれぞれに、その光景の感想を口にする。

 クロードの新たな力を目撃したアンナは、腕を組み祈るような仕草で感嘆の声を上げる。

 その様子をエミリアはどこか呆れたように眺めていた、彼女は奇跡じみたクロードの力にも今の状況を楽観視はしていなかった。

 その視線の先には、包囲の網を広げている魔物達の姿が映っている。


「なんだ、この騒ぎは!?アンナ、エミリア!なにが起こっている?」

「おじ様、クラリッサ。これは―――」


 騒ぎを聞きつけて、ここまで走ってきたのだろうトゥルニエとクラリッサの息は荒い。

 彼らの姿に今、目の前で起こった光景を説明しようとするエミリアは、横目でクロードの姿を見つめては言葉を迷わせていた。

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