協力者 1
周りの魔物達の攻勢が鈍り、ようやくティオフィラは目的の場所へと抜け出していた。
「にゃ~・・・やっと抜けだせたにゃぁ。にいやん!無事かにゃ!?・・・なにやってるにゃ?」
オーデンの声にそちらへと注意を向けていた魔物の顔を踏みつけて、その包囲から抜け出したティオフィラは、ようやく目的だったクロードの救援へと向かう。
しかし彼女が向かった先で目にしたのは、予想していた姿ではなかった。
『俺はあいつの、レオンの救援に向かう!!ここでオーデンを倒して、仲間達を解放するんだ!!』
『何を馬鹿な!!見ろ、あいつも一方的にやられてるじゃねぇか!!確かにとんでもない腕前だが、それだけだ!俺達が加勢した所でどうなるもんじゃない!!!』
「ま、まぁまぁ二人とも!とりあえず、皆でここから逃げましょうよ。お、ティオ!お前も何とか言ってくれよ」
取っ組み合うゴブリン達の間で右往左往しているクロードは、何とか彼らを宥めようと言葉を重ねていた。
しかしその内容は、どちらかといえば彼らをうまく利用して、この場を切り抜けようとしているものだった。
確かに目の前の三人のゴブリンは明らかに強者であり、彼らを味方にするメリットはあるだろう。
しかしクロードが狙っているのは、それだけではなかった。
今この部屋の隅っこには、かつて一緒に戦ったゴブリン達がレオン達と一緒に這い出てきていた。
彼らは今は戦いに加わろうとせずに日和見を決め込んでいるが、目の前のゴブリンを味方にすることが出来れば、彼らも仲間に引き込む出来るかもしれない。
クロードはそう算段して、何とか目の前のゴブリンを説得しようとしていたが、一向にうまくいく気配はなかった。
「にいやん・・・今はそれ所じゃないにゃ!!皆がレオにぃが危ないのにゃ!にいやんも早く来るのにゃ!!!」
クロードからすれば皆を助けるための必死の行動であったが、ティオフィラから見ればどこか暢気にじゃれついているだけのようにも感じる。
クロードの振る舞いに怒りを募らせたティオフィラは、クロードの腕を掴むと無理やり引っ張って連れて行こうとしていた。
「いや、違うんだってティオ!これもちゃんと皆を助けるために・・・」
「レオにぃ、危ない!!」
クロードの言い訳じみた言い分は、それを言い切る前にティオフィラの叫び声によって掻き消されてしまう。
その視線の先には丁度、吹き飛ばされたレオンに向かって、オーデンが大剣を投げつけているところだった。
「うおっ、危ねぇ!?あー・・・何とか凌いだか、流石に強いなあいつ。あ、でも剣が・・・」
「にいやんにいやん!!レオにぃが、皆が危ないにゃ!!すぐに助けに行くにゃ!!!」
オーデンの攻撃を何とか凌いだレオンの姿を目撃したクロードはその強さに感心するが、彼が武器を失ったことに懸念を漏らしてもいた。
武器を失ったレオンへと、オーデンが突撃を開始する。
それに従うようにして周りの魔物達もアンナ達に襲いかかり始め、その様子にティオフィラは焦りを加速させてクロードを引く手を強くしていた。
「ま、待て待て!それより怪我してるじゃないか、ティオ!治してやるから、腕出せ、腕!」
「にゃー!そんな事より、早く行くのにゃ!!」
手を引くティオフィラの腕に巻かれた包帯に気がついたクロードは、それを治そうと空いている方の腕を伸ばす。
そんな傷などなんてことないと声を上げる彼女は、それを無視して進もうとするが、指摘された事で思い出した痛みがその歩みを遅くしていた。
「これでよし、と・・・そうだティオ、いい方法があるんだ!これを使えば一気に向こうまでいけるぞ!!」
「にゃ!?そんな方法があるなら、すぐに言って欲しいにゃ!早く、にいやん早くするにゃ!!」
ティオフィラの治療を終えたクロードは、レオン達の下へと駆けつけるいい方法を思い出すと、そわそわと落ち着かない様子で足踏みをしている彼女にそれを提案する。
その言葉を聞いたティオフィラはクロードの身体を激しく揺すると、早く早くと急かしたてていた。
その動きはクロードにその方法の説明も、実行も許さずに、ただただ悪戯に時間を消費させただけだった。
『待て。それはあの時使った方法か?なら、俺も一緒に運んでくれ!俺も、あいつと一緒に戦う!!』
「あ、やべ・・・そのまま喋っちゃってた。いやそれより、一緒に戦ってくれるのか?いやでもなぁ・・・」
ゴブリン達を説得するために能力を行使し続けていたため、彼らにも聞こえる言葉で喋っていたクロードは、ティオフィラとの会話の内容を彼らにも漏らしてしまう。
それを聞きつけたデニスは、かつての戦いの折のクロードの姿を思い出し、それを使うのなら自らも運んでくれとその肩を掴む。
彼の振る舞いに会話の内容が漏れていたことに気づいたクロードも、その提案には僅かに喜びを覗かせる。
しかし混乱している状況で、ゴブリンをその場に送り込んでも大丈夫なのかと、彼は首を捻っていた。
「何を喋ってるのにゃ?そんなことより早く運ぶのにゃ!!にいやん、早く早く!!!」
『早く運んでくれ!あいつがやられちまう!!』
言葉の通じないはずの二人は、奇しくも同じ内容を繰り返してクロードの身体を揺すっていた。
左右から引っ張り、彼を急かす二人の力にクロードの服も破れ始めてしまう、その破滅の音を耳にした彼は、諦めたように両手を床につける。
「あー!!もう、分かった!分かったから、放せ二人とも!!向こうに送ってやるからしっかり立ってろよ!!」
やけくそ気味に大声を上げたクロードは、床についた両手から黄金の光を溢れさせ始める。
彼の振る舞いにその力の予感を感じ取った二人は、それぞれに身構え準備を整える。
ティオフィラは何をするか良く分かっていないながらも、クロードへの信頼からリラックスした姿を見せ、デニスは一度見た力に姿勢を低くしてそれに備えていた。