分の悪い戦い 1
激しい戦いの音はしかし、一方的に暴力を叩きつけるものだった。
巨大な体躯を、それでありながら器用に動かすオーデンの攻撃を、アンナとエミリアの二人はどうにか凌いでいた。
しかしそれもやがて限界を迎えるだろう、攻勢に回れない彼女達は徐々に追い詰められていった。
『おらおら、どうしたぁ!!防御が間に合ってねぇぞ!!そんなことじゃすぐに死んじまうぞぉ!!!』
「ぐっ!リーンフォース、がぁっ!!?」
オーデンの圧倒的な破壊力を持った攻撃に、アンナは追い詰められ強化魔法に頼ってしまう。
すでに掛けられている魔法は、まだ効果時間も切れておらず重ね掛けしても意味はないだろう。
しかしあまりの苦しさが、藁をも縋るように腰に括りつけられた杖へと手を伸ばしていた。
その隙か、もしくは甘さをオーデンが見逃す筈もない。
構えた盾ごと吹き飛ばされたアンナは、床へと叩きつけられていた。
「アンナ!?こんのぉぉぉ!!!」
『力で俺様に勝てるとでも思ってんのか、ごらぁ!!!』
床に叩きつけられ気を失っているように見えるアンナの姿に、激昂したエミリアは振りかぶった斧をオーデンへと叩きつける。
しかしその大振りは、オーデンからしても対応しやすい一撃となっていた。
彼の技量を考えれば、その一撃を躱してから攻撃することも容易だっただろうが、彼はあえてそれを迎撃することを選ぶ。
利き腕に握った大剣をエミリアの斧へと打ちつけたオーデンは、それを弾き飛ばすように振り切っていた。
「ぐぅ!?なんて力・・・きゃぁ!!?」
オーデンの圧倒的な力に弾き飛ばされた斧は、その勢いにエミリアの手から抜け落ちる。
戦う力を奪われ、それを取り戻そうと駆け出そうとしたエミリアは、その最初にオーデンに捕まえられていた。
『いてて・・・思ったよりも力あんじゃねぇか、あぁん?お、なんだ!よく見りゃいい女じゃねぇか、こりゃ中々楽しめるかも知れねぇなぁ!!』
エミリアを捕まえるために放った大剣は、床へと鈍い音を立てている。
それを手放したのはエミリアを捕まえるためだろうが、思った以上に威力のあった彼女の一撃に、腕が痺れてしまった事も一因ではあった筈だ。
彼女の身体を鷲掴みにしたオーデンは、彼女の容姿をまじまじと眺めると、その美貌に舌なめずりをしていた。
「くっ!半端な真似を・・・殺しなさい!覚悟は出来てる!!」
完全に戦闘能力を奪われて、生殺与奪の権利を握られたにも拘らず、一向に締め付けようとしないオーデンに、エミリアは嬲られていると感じ、挑発の言葉を吐く。
その表情は鋭く、覚悟を決めたものであったが、唇だけは震えていた。
『あぁ、なんだ?おいおい、早く殺せとでも言ってんのかぁ?いいねぇ、高潔で結構なもんだ!こういう女を泣いて懇願するようにするのが楽しいんだよなぁ!!お願い、もう殺してってなぁ!!!』
エミリアの言葉は、オーデンには分からない。
しかしその態度や表情から、彼女の言っていることを察した彼は興奮に唇を吊り上らせていた。
彼のその特殊な性癖は、特に高貴な存在を好む所にもあった。
そんな彼にとってエミリアの態度はその匂いを感じさせるもので、彼の性的興奮を昂ぶらせていた。
「なにを・・・まさか、お前!?くっ、この!やめろ、やめなさい!!やめろぉぉぉ!!!」
一向に締め付けようとしないオーデンの態度に疑問を感じたエミリアは、首を傾けてその表情を窺う。
オーデンの下卑た表情を目にしても、エミリアは一瞬その意味を理解できなかった。
トロールであるオーデンとエルフのエミリアでは、あまりに見た目が違いすぎる。
そのため自分がまさか、目の前の醜い生き物の性の対象になっているなどと、考えもしなかったのだ。
しかしオーデンが空いた片手で自らの衣服に手を伸ばしてくるのを見れば、嫌でもその意図を理解し悲鳴を上げて暴れ始める。
オーデンの圧倒的な膂力の前に、その抵抗はまったくの無意味でしかなかった。
『うぇへっへっへ・・・いいねぇ、その反応!おじさん興奮してきちまうなぁ・・・ほらほら、その綺麗な肌を見せてみなぁ!!!』
掴んで拘束している状態で、エミリアの服をうまく摘んで破るのは難しい。
それが不器用なトロールの指でとなれば尚更だ、しかしオーデンはトロールの中でもかなり器用な方であり、僅かに掛かった時間でその服の裾だけを摘み上げていた。
「きゃぁぁぁ!!」
オーデンが摘んだ衣服は、エミリアの太ももの辺りを覆う布地だった。
それを引き裂いて覗いた肌は白く、傷一つない白磁のような美しさであった。
戦場に身を置く彼女の肌がそれほどまでに美しいのは、どんな傷を負ってもそれを逐一クロードが癒すからだろう、彼の力は神の御技だ、傷跡一つ残す訳はない。
『おっほぉ!!綺麗な肌だな、おい!!こりゃ、ますます興奮してくるなぁ!!!』
露出させたエミリアの肌の美しさに、興奮を加速させるオーデンはその口元から涎を垂らす。
彼はもっと露出させようと指を急がせるが、興奮がその動きを荒くさせて中々うまく掴めない。
彼女を使って楽しみたい彼にとって、乱暴に扱って怪我をさせるのは本意ではなかった。
それはもっと後の楽しみとして、取っておくものなのだから。
「辱めを受けるぐらいなら、死んでやる!!」
オーデンの振る舞いは、はっきりと性欲を滲ませているものだ。
その振る舞いは、言葉が通じずともエミリアにこれから辱めが待っていると教えていた。
それを知った彼女は、そのまま辱めを受けるぐらいならと死を選ぼうと大口を開ける。
それは自らの舌を噛み切ろうとする動きだ、待ち受ける痛みと死の気配に彼女の目には涙が浮かぶが、その覚悟は揺らいではいなかった。
『あぁ?ちっ!つまんねぇ真似してんじゃねぇよ!!』
大声を上げてもその口を閉じようとしないエミリアの様子に、何かを察したオーデンは舌打ちと共に指を急がせる。
覚悟した死にも躊躇ってしまう時間はある、その僅かな遅れが彼女には致命的になってしまっていた。
オーデンの太い指では、エミリアの口に噛ませて舌を噛み切れなくすることは出来ない。
であればどうするかというと、彼はただその力に任せてエミリアの頭を強打し、その意識を奪ってしまっていた。
『ったく、せっかくの綺麗な顔が台無しじゃねぇか・・・あ~ぁ、楽しみが減っちまったなぁ』
強く叩かれたエミリアの顔の皮膚は裂け、所々に腫れ上がっておりその美貌を損ねてしまっている。
その姿を目にしたオーデンは、せっかくの楽しみを自らの手で潰してしまった事に溜め息を洩らす。
意識を失った彼女の口からは留める事ができなくなった涎が溢れ続けていた、それを目にしたオーデンは顔を顰めると、それがついてしまいそうだった指を引っ込める。
『他の奴も中々上物っぽいし、こいつはもういいかな?』
床に倒れたままのアンナと、部下の魔物達に囲まれながらも何とか凌いでいるクラリッサとイダをねっとりと観察したオーデンは、掴んだままのエミリアと彼女達を見比べると、そんな感想を漏らす。
どんなに傷つこうとも、クロードの力があればそれを癒すことは出来る。
しかしそれを知らないオーデンにとっては、エミリアはすでに彼の欲望を満たす存在ではなくなっており、その代わりすら目の前にいる状況で、彼女に拘る理由はなくなっていた。
オーデンはゆっくりとエミリアを掴んだ手に力を込め始める、痛みに意識を取り戻した彼女はその喉も始めはうまく使えなかったが、徐々に悲鳴を上げ始めていた。
「・・・ぁ・・・エミ、リア?エミリア!!?」
打ちつけた頭に、意識を失っていたアンナがそれを取り戻して始めて目にしたのは、親友が握り潰されようとしている姿だった。
定まらない焦点がエミリアの姿にピントを合わせると、アンナは驚きと怒りの叫び声を上げる。
しかし取り戻した意識にも、身体すぐについてくる訳もない。
すぐに起き上がりオーデンに飛び掛ることをイメージするアンナは、その実ふらつく足に再び床へとその身体を叩きつけてしまっていた。




