救世主はその力を持って、こき使われる
「クロード様、先にこの方をお願いします!思ったよりも血を失ってしまっています!!」
「おぉ、わかった!!ひぃ、グロい!?」
運ばれてきた怪我人を見渡したクラリッサは、一番重篤だと思われる怪我人に目をつけるとクロードに声を掛ける。
彼女の下へと駆けつけたクロードは、その内臓をはみ出させた男の姿に、怯えて胃液を戻しかけてしまう。
「・・・クロード、早く」
「わ、分かってるって!・・・ここか?ここで合ってるよな?」
「・・・ん」
怪我人を運ぶのを手伝っていたイダの静かな注意に、クロードは慌てて両手を前へと差し伸べた。
しかしやはりその状態の男を直に見るのは怖いのか両目を瞑っている彼は、手探りで男の身体を探っている。
確認の言葉を投げるクロードに、短い返事を返したイダの声は肯定ではない。
彼女はクロードの両手を掴んでは、男の身体へと押し付けていた。
「ひぃ!?うぅ・・・なんか、ぬるぬるしてる」
「・・・早くする」
「もう、やってるから!・・・大丈夫か?内臓、はみ出したままじゃない?」
「・・・戻したから、大丈夫」
血と体液に塗れた男の身体に、クロードは思わず情けない悲鳴を上げてしまう。
彼はイダから促されるまでもなく、その癒しの力を発動させている。
イダとクロードの様子に、ここを任せても大丈夫だと判断したクラリッサは、次の怪我人を探しに駆け出していった。
「ふんっ!もうちょっと効率よく出来ないものかしら!私があの力を持っていれば、もっとうまく使ったのに!!」
「にゃーにゃー、にいやんも頑張ってるのにゃー。エミリアも皆が助かってほんとは嬉しいにゃ?」
「誰も嬉しくないなんていってません!!ただ私はもっとうまく使うべきだと思うだけよ、あの力は・・・奇跡そのものなんだから」
「難しい話はティオには分からないにゃー、にゃははは」
少し離れた場所からクロード達の様子を眺めていたエミリアは、口惜しそうに唇を歪める。
彼女が体重を預けている段差の上に胡坐を掻いているティオフィラは、左右に身体を揺らしながらクロードの事を擁護していた。
彼女の指摘に顔を赤らめて声を荒げたエミリアは、何も出来ない無力な自分こそを恥じているようだった。
「ティオちゃん、エミリアちゃん!あなた達も手伝って!!」
「はいはーい!ティオ頑張るにゃー!!」
「ちょっと!?・・・もう、仕方ないわね」
声を掛けてきたクラリッサに、ティオフィラは飛び跳ねるようにして駆けていく。
あっという間の出来事に、置いていかれたエミリアは渋々といった様子でそちらへと向かっていく、その頬はどこか緩んでいるようみえた。
「クロード様、次はこちらの方をお願いします。イダ、疲れてない?休憩してもいいのよ?」
「・・・まだ、頑張る」
クロードに新しい怪我人を運んできたクラリッサは、先ほどから働き詰めのイダの顔色を気遣うように覗き見る。
その表情には疲労の色が浮かんでいたが、少し考えたイダはその申し出を断っていた。
小さく拳を握って強がってみせる彼女に、クラリッサは心配そうに瞳を細めるが、最後には諦めて彼女の頭を撫でていた。
「あれ、俺は?」
「あんたはまだ働くのよ!ほら、さっさと手を当てて!」
「にいやーん、頑張れ頑張れー!!」
トゥルニエを癒してから働き詰めのクロードは、自分は休めないのかと疑問の声を上げるが、クラリッサは目を逸らす。
救いを求めてさらに視線を巡らせるクロードも、無理やり腕を掴まれて怪我人に当てられてしまえば、力を使うしかない。
エミリアに押さえられるクロードの姿に、ティオフィラは無責任な歓声を上げる、彼女は終始楽しそうな笑顔を振りまいていた。
「エミリアちゃん、ここはお願いね」
「わかったわ。ほらそっちはもういいから、こっちに・・・イダ、そこにお願い。ほらあんた早く動いて!」
「ひぃぃぃ~」
「にゃははは、エミリア楽しそうにゃ!ティオもやるにゃー!!」
「・・・ティオ、邪魔」
怪我人の治療とクロードの面倒をエミリアに託したクラリッサは、アンナの方へと駆けていく。
彼女に軽く頷いたエミリアは、柔らかい物腰でクロードを動かしていた彼女とは違い、厳しい態度で彼を働かせていく。
そんな状況にクロードが上げた悲鳴は、すぐにティオフィラの歓声に上書きされて、消えていった。