集う者たち 2
『はーはっはっは!!まさか本当に人間と組んでいたとはなぁ!!サリス、ゴブリン共!これが見えないのか、動きを止めろ!!こいつを殺すぞ!!!』
玉座の後ろから躍り出て、アンナを捕まえたオーデンは彼女を高く掲げると、揉み合っているゴブリンとサリスに対して命令を下す。
彼の声には驚きの色も混じっていた、それはサリスやゴブリン達が本当に人間を引き連れてやってきたからに他ならないだろう。
彼からすればそれは真っ先に切り捨てた選択肢だった、そのため彼は驚き戸惑っており、今まで登場するタイミングを逸してしまっていた。
「・・・放せ!アンナを放せ!!さもないと・・・」
『おっと。こいつに当たってもいいのかな?』
「・・・ぐっ」
捕らえられたアンナは中空で何とか逃れようと暴れているが、掴まれた拍子に落としてしまった装備に大したことは出来はしない。
彼女を捕らえられてしまったイダは、伝わらない言葉で大声を張り上げて解放を要求するが、それがオーデンに通じる訳もなく、ナイフを取り出して実力行使に出ようとする。
しかし言葉は通じずとも、その動きでやりたい事などすぐに伝わる、オーデンは大げさにアンナの身体を掲げて見せると、イダのナイフを牽制していた。
『止めろ!!彼女を放せ!!』
『オーデン様!?オーデン様見ててください、今ここで私がゴブリン共を縊り殺してみせます!!』
サリスに押さえつけられながら捕まえられたアンナを目撃したデニスは、彼女を解放しろと大声を上げる。
彼の声に何事かと視線を向けたサリスは、そこにオーデンの姿を見つけ、これ幸いと自らの汚名を雪ごうと動き出す。
彼はデニスを組み敷くために押さえていた両手を彼の首へと向け、その息の根を止めようと力を込めていた。
『それはいけねぇぜ、旦那ぁ!!』
『放せ!!私はこれで一族の汚名を!!』
捕まえられているアンナへと注意を割いていたデニスには、サリスの動きに対応できない。
万力のような力で首を締め付けられるデニスの顔色は、元々の茶色から赤みがかった色へと変わりつつあった。
その様子を見て流石に一線を越えていると判断したアクスは、サリスを後ろから羽交い絞めにしてデニスから遠ざける。
彼によって拘束されたサリスは、必死に自らの一族の名誉について主張していた。
『その、オーデン様。これはなんと説明したらいいか・・・ともかくこれは私達だけで決着をつけますので』
今度はアクスとサリスで揉み合いだした二人の様子に、ヴァイゼは一人冷静にオーデンへと事情を説明しようと試みていた。
しかし複雑かつ自らも把握し切れていない状況に、彼もうまくそれを言葉に出来ずにお茶を濁すような言葉を告げることしか出来なかった。
『なんだぁ・・・?なんか予想と違うな、おい!』
「くそっ!!放せ!放せっての!!」
何だか思った反応とは違うリアクションをみせるゴブリンとサリスに、オーデンは首を傾げては疑問を漏らす。
彼の目の前では、腰をしっかり掴んで拘束しているアンナが、どうにか逃れようと暴れまわっていた。
『あぁ?よく見りゃ、牢屋の女じゃねぇか。ひひっ、こりゃいい!ちょっと味見といきますか!!』
目の前に現れた人間をとりあえず捕まえていたオーデンは、それが彼が牢屋で犯そうとしていた少女だと今まで気づいていなかった。
それに気がついたオーデンは、あからさまな喜びを下卑た笑みに表現すると、舌なめずりしてその身体を顔の前へと近づけていた。
「止めろ!!いや、いやぁぁぁ!!!」
その長くて大きな舌をアンナへと近づけるオーデンは、破れて露出している彼女の肩へと向かってそれを伸ばす。
それに舐められた所でどうなるものでもないが、生理的な嫌悪感からアンナは悲鳴を上げて必死に身体をよじっていた。
それで稼げた猶予は幾許か、しかしその僅かな時間に間に合うこともあった。
「・・・させない」
『痛ってぇ!?そういや、もう一人いたなぁ!!』
オーデンの足元まで潜り込んでいたイダは、彼の足へとナイフを思いっきり突き刺した。
彼の皮膚は硬く、思ったよりも浅くしかそれは刺さらなかったが、彼に遊んでいる場合ではないと思わせる事には成功していた。
足元に潜り込んだイダに、痛みで足を跳ね上げたオーデンはそのまま、その足で彼女を蹴りつける。
「・・・ぐっ!」
『あぁ!?痛ってぇなぁ、おい!!』
咄嗟に背中に背負った大盾を向けようと身体を動かしたイダは、ギリギリ間に合わずにオーデンの蹴りを脇で受ける。
それでもどうにか背中側の方が接触面積が大きかったらしく、大分軽減された痛みにオーデンの方が硬い感触を嫌がっていた。
「イダ、逃げて!!あなただけでも!!」
「・・・やだ」
二人ではどうする事も出来ない実力差を悟ったアンナは、せめてイダだけでも逃がそうと声を張り上げる。
幸いなことに彼女はオーデンに弾き飛ばされて、彼との間には距離が開いていた。
今なら逃げられるかもしれない、それは希望的観測に塗れた願いだったが、心からの声でもあった。
しかしその願いはむずがるように首を振り、その場に留まったイダの姿に蔑ろにされてしまう。
『はっはっは!私はいいから、あなたは逃げてってか?人間どもは、本当にそういうのが好きだな!!』
伝わらない言葉にも、伝わる態度はある。
アンナとイダのやり取りから、その内容を想像したオーデンは愉快そうに笑い声を上げている。
彼は暴れるアンナを捕まえたまま、どしどしとイダの方へと近づいていっていた。