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謀略の城

『リ、リザードマンの部隊が裏切りました!!』


 息を切らして司令室へと飛び込んできた獣人は、その一言目に衝撃的な事実を報告していた。

 その報告に部屋の一番奥の席で、苛々と何かを口にしていたオーデンは、それを取り落としてしまう。


『リザードマン?リザードマンだと!?ゴブリンの間違いではないのか!!?』


 城内で人間達と協力しているゴブリンは、すでに目撃されていた。

 それは彼がこれまでゴブリン達にしてきた仕打ちを考えれば仕方なくも思え、それほど衝撃を受けなかったが、どちらかといえば厚遇していたリザードマンの裏切りには、流石の彼もショックを受ける。

 そんな彼がその報告を信じきれずに聞き返すのは仕方のない事だろう、しかし報告にやってきた獣人は静かに首を振るだけだった。


『ま、間違いありません!!リザードマン達は場外で遭遇した人間達と合流し、こちらに攻撃してきています!!』


 獣人は、彼が確かに見た事実に基づいて報告する。

 彼の身体の震えはオーデンの迫力に怯えているからか、それともリザードマンの裏切りという事態が齎す効果を恐れているのか。


『馬鹿な、一体何故・・・サリス、サリスはどこだ!!』


 リザードマンが裏切った理由に見当がつかないオーデンは、頭を抱えて疑問の声を漏らす。

 彼は迷わせる視線の中に、腹心と言ってもいい男の姿がない事に気づくとその名を叫ぶ。

 彼の右腕とも言えるリザードマン、サリスは獣人の報告が届くと共に素早く姿を消していた。


『裏切ったな・・・お前も裏切ったなサリス!!誰か、あいつを・・・サリスを捕まえろ!!!』


 あまりに素早いサリスの動きに、彼もまた他のリザードマンと共に裏切ったと判断したオーデンは、金切り声を上げて彼を捕まえろと叫び始める。

 その声には狂気すら混じっている、オーデンの迫力に押しやられた魔物達は慌てて部屋の外へと駆け出していった。


『ゴブリンが裏切り・・・今度はリザードマンだと?それにどこかから侵入してきた赤毛の人間・・・謀られていたのか?』


 次々に連鎖する裏切りに、彼は陰謀の匂いを嗅ぎつける。

 どこかから潜入した人間は、おそらく最初に牢屋に現れて、今は人間達を放り込んでいた一室へと立て篭もっている。

 彼がその潜入に気づけたのは偶然だ、その見事な潜入は中から手引きをされていたと考えるのが妥当だろう。

 そう考えれば彼らは事前に周到な計画を立てていたことになる、それはすなわち陰謀だ。

 そうして疑いの目で周りを見てみれば、皆一様に挙動不審であり、怪しい動きをしているように見えていた。


『・・・出て行け』


 この司令室にいた下の立場の者達は、いち早く逃げ出したサリスを追って退室している。

 ここに今だに残っている者達は、この城の幹部といっていい魔物達だった。

 彼らはどこかそわそわと挙動不審な様子を見せていたが、それはあからさまに機嫌の悪いオーデンに怯えているからだ。

 しかしそれも疑心暗鬼に陥ったオーデンからすれば、陰謀の気配を感じさせる仕草に変わる。

 彼は静かに呟くと、彼らに退室を命令する。


『は?何か仰いましたか、オーデン様?』

『出て行けといったんだ!!さっさとこの部屋から出て行け!!!』

『は、はいぃ!!』


 オーデンが呟いた声は小さく、その言葉を聞き取れた者はいない。

 一番近くにいた虎の頭を持つ獣人が彼に聞き返すと、オーデンはテーブルに拳を打ちつけて怒鳴り散らしていた。

 その声に反応する幹部達の動きは速い、それはそのボリュームは怯えたというよりも、この場から一刻も早く立ち去りたいという感情の表れだろう。

 疑心暗鬼に陥り苛立ちを募らせるオーデンは何をするかなど分かったものではない、幹部達も本心ではすぐにでも立ち去りたかったに違いない。


『ふぅ・・・これで少しは安心できるな。いや、待てよ・・・こんな場所にいては居場所がバレバレか。どこか、予想もつかない場所は・・・』


 広い部屋に一人となったオーデンは、椅子に深々と座りなおすと安堵の溜息をゆっくりと吐き出した。

 彼は溜まった緊張を解すように一度背筋を伸ばしていたが、すぐに何かから身を守るように身体を折り曲げる。

 誰が裏切るかも分からない状況に、居場所が知られている今の場所に留まるのは不味いかもしれない。

 彼の実力を考えればそうそう遅れは取りはしないが、それも絶対ではない。

 陰謀の規模によってはこの城の全てが敵に回るかもしれないのだ、オーデンはより安全な場所を求めて部屋の出入り口へと向かっていた。

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