逃亡の終わりは突然に 3
『なんだ?今だ、隙だらけだぞ!!』
ティオフィラの方へと意識を向けていたキュイに、魔物の一人が声を上げる。
動き回るキュイの巨体は暴力となるが、止まっていればただの的に過ぎない。
幾ら強固な鱗を持つキュイとはいえ、度重なる攻撃を受ければいずれダメージは蓄積するだろう。
隙だらけなキュイに気づいた魔物の声を切欠に、多くの魔物が彼へと襲い掛かっていた。
『竜神様!?戦いから注意を逸らしては危険です!!』
「キュ?キュー・・・」
魔物達の攻撃は、キュイの周辺に集まっていたリザードマンによって防がれる。
特に多くの攻撃を弾き返し、逆に襲ってきた魔物を仕留めても見せたブレントは、キュイに対してその軽挙な行動を窘めていた。
その言葉の意味は分からなくても、怒られている事は伝わっている。
ブレントの声に頭を項垂れさせたキュイは、改めて戦場に向き直ると気合を込めた鳴き声を上げた。
「まぁ、なんか大丈夫そうだな・・・で、どうするんだ?城に入るのか?」
「それは・・・クロード様の安全を考えると・・・」
キュイとその周辺に侍るリザードマン達の姿に、大丈夫そうだと判断を下したクロードは、この後の事をクラリッサに問いかける。
彼は崖の上の城に視線をやって、そこに行くのかと問いかけるが、クラリッサは難色を示していた。
「いやでも、城にはレオンもいるぞ?アンナも捕まってる筈だし・・・そうだ村の兵士の人も何人か助けたんだ」
「えっ!?レオン君も?いえそれより、他にも人がいたんですか!?村の・・・誰か分かりますか!?」
「いや、ちょっと名前とかは・・・」
なんて事もないような雰囲気で、次々と衝撃的な事実を告げるクロードに、クラリッサは混乱して目を回している。
まだクロードと一緒に行動していた筈のレオンが城にいるのは分かるが、兵士を助けたなんて初耳だ。
ましてやあの村の生き残りが自分達以外にもいるなんて彼女は考えてもおらず、その衝撃に思わずクロードの肩を揺すってしまう。
「ん、んっ!その、すいません興奮しちゃって。とにかく、そんなに人がいるのなら見捨ててはおけません。クロード様、城までの道を作ってくれますか?」
ついつい興奮しすぎてしまった自分に気づいたクラリッサは、気まずそうに咳払いをすると、仕切り直してクロードの考えに同調する。
とはいえ彼女達には城に潜入する手段など思いつきもしないため、クラリッサは控えめにクロードにその方法を頼っていた。
「おぅ、任せとけ!一回やったから、ちょっと自信あんだよな」
「ちょっと!?一人で動かないでよ!まったく・・・」
クラリッサに頼られたクロードは、自らの腕を叩くと意気揚々と崖へと向かっていく。
一人で勝手に走り出した彼の姿に、驚きの声を上げたエミリアは軽く頭を抱えると、その後ろを追いかけていく。
そんな二人の姿を見て顔を見合わせたティオフィラとクラリッサは、どこか邪魔しないようにゆっくりと歩き始めていた。
「あれ、なんか開けた所に出たぞ?おーい、なんかこっから行けそうかも」
崖にまで辿り着いたクロードは、早速力を発動させてそこに穴を開けている。
すると彼の目の前には、ぽっかりと空洞が広がっていた。
長い距離を掘り進むために、多少は広い範囲に力を発動させていたが、それが出来るほどではない。
どうやらそれは、元々あった通路の類のようだった。
「なんでしょう?秘密の脱出路とかでしょうか?」
「なんでもいいでしょう?こんな所に無意味な通路なんて掘る訳ないんだから、少なくとも城には繋がってるんでしょ?さっさと行きましょ」
クロードの声に集まってきた少女達は、それぞれにその通路を見ては感想を漏らす。
どこかまだその通路を疑っているクラリッサに、エミリアはさっさと一歩を踏み出していた。
「にゃははは!!なんか面白そうにゃー!!」
「おい、ティオ待てって!!危ないかもしれないだろ!!」
先に通路へと踏み出したエミリアも、その薄暗い通路にうずうずを爆発させたティオフィラには敵わない。
一気にエミリアを抜き去ったティオフィラは、そのまま通路の奥へと駆けていく。
どうやらその通路は傾斜とカーブが掛かっているようで、あっという間に見えなくなった彼女の姿にクロードは慌てて追いかけていった。
「ちょっと!?もう・・・私達も急ぎましょ!」
「えぇ、そうね」
駆け出していった二人に、残った二人も足を速める。
その後ろではキュイとリザードマン達が、存分に魔物達を蹂躙し始めていた。