弱る父親に、娘は容赦しない
「彼が私を・・・?本当なのか、その・・・格好以外は普通の青年にしか見えないが・・・?」
「えぇ、間違いありません。あの方がお父様を癒して下さったのです!その力の素晴らしさといったら、もう・・・!お父様にもお見せしたかったです!!」
防壁での戦いの喧噪がまだ聞こえる場所で、適当な瓦礫へと腰を下ろしたトゥルニエは、娘の看病を受けていた。
その目の前には、続々と怪我人が運ばれてきている。
ここは臨時の病院というか、救護を行う場所として設けられた所なのだろう。
彼の視線の先には、チラチラと藁を纏った青年の姿が映っている。
その姿に彼は疑問に首を捻るが、アンナは感極まったように両手を組んで見せた。
「あ、あぁ・・・そうか。いっつつ!?アンナ、その・・・鎧はもう少し優しく剥がしてくれないか?」
両手を組んでクロードの凄さを力説する彼女は、直前まで握っていたものの存在を忘れている。
彼女によって勢いよく剥がされた鎧の一部は、融解して張り付いた鉄が再生した皮膚に癒着してしまったものだ。
無理やり剥がされたその裏には、当然トゥルニエの肌が張り付いている。
死んでしまうことよりはましな痛みも、復活した神経が鋭敏に痛みを伝えて、娘に弱い所を見せたがらない彼も思わず弱音を吐いてしまう。
「あら?何か言いましたか、お父様?」
「いや、なんでもない。しかし凄い力だな、この力があればもしかすると・・・」
話に夢中だったアンナには、父親の苦言は耳に届かなかったようだ。
彼は剥がれた皮膚に痛む身体よりも、今無事に動けている命を噛み締める。
それを齎した力の凄まじさに、彼はこの絶望的な状況を切り開く希望を見出していた。
「えぇ!!本当に素晴らしいお力です、なにより―――」
「アンナ、その話はまた今度に・・・」
父の言葉は、自らの意見を賛同するものだった。
アンナはそれを受けて意気揚々と、クロードの事を喋ろうと声を高くする。
これは長くなりそうだと素早く察したトゥルニエは、機先制してアンナの演説を止めさせる。
彼女は不満げに唇を尖らせていたが、渋々ながら父親の言葉に従っていた。
「ほら、シラク殿が帰ってきたぞ。お前も行かなくていいのか?」
「いいえ、お父様。私にはお父様を面倒見る役目がございます。まずはこれを終えませ、んと!」
若干様子のおかしい娘を遠ざけようと、この場に帰ってきたクロードの姿を指し示したトゥルニエに、アンナは粛々と自らに課せられた責務を果たす。
彼女に課せられた責務とは、トゥルニエの看護、つまり癒着した鎧を剥がす事だった。
「いったぁぁぁぁぁ!!?」
容赦のないアンナの動きに、トュルニエの悲鳴が轟く。
彼女は一刻も早くクロードの下に向かおうと、その手つきを弱める気配を見せなかった。