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ゴブリンと人間達 2

「あーもう、これほっといたら死んじゃうでしょ?仕方ないなぁ・・・」

「シラク様!?何もそこまでしなくても!!」


 思った以上に酷い状態のゴブリン達に、クロードは癒しの力を発動させて彼らを治療していく。

 その奇跡の力を敵にまで施すクロードの姿は、兵士達から驚きと反感を買ったが、意識を取り戻したゴブリン達には神のようにも見えていた。


『・・・こ、これは?痛みが消えていく・・・?』

「おっ、目が覚めた?えーっと・・・『とりあえず簡単に治してみたけど、痛いとこはない?』」


 身体から消えていく痛みに、目が覚めたゴブリンは戸惑いの声を上げる。

 彼の反応に迷いながら声を掛けたクロードは、打算もなしの自然に自らの力をアピールしていた。


『俺達の言葉を!?本当にいたのか・・・。それより治しただと!?俺達を、そんな事が・・・いや、それよりどうしてだ!!』

「あー・・・その、『情報が欲しいんだ。女の子の居場所を知らない?俺達と同じ種族の、こう金髪の子なんだけど?』」


 噂レベルでゴブリンの言葉を話すヒューマンの話を聞いていたゴブリンは、実在したクロードに驚きの声を漏らすと、それ以上の驚愕によって叫び声を上げる。

 癒しの力など見た事も聞いた事もない、そんな力を惜しげもなく披露したクロードに、ゴブリンは警戒の態度を見せていた。


『そいつなら知ってる、仲間が捕まえた。城の地下の牢屋に入れられてる筈だ』

「えぇ~、いなかったんだけどなぁ・・・『間違いないか?』」

『間違いない』


 尋ねたアンナの居所に、得られた情報はすでに見てまわった場所だった。

 落胆を隠せないクロードは、ゴブリンに重ねて確認するが、彼に嘘をついている様子は見られなかった。


「おい、何か情報は得られたのか!?」

「う~ん、アンナはあの牢屋に入れられてたって話なんだけど・・・」

「・・・やはりな。アンナはもう・・・」


 ゴブリンの言葉で話すクロードが得た情報は、レオンや周りの兵士には伝わらない。

 その状況に苛々していた彼は、クロードの腕に肘をぶつけると説明するように急かしている。

 彼に急かされてようやく情報を独占した事に気がついたクロードは、しぶしぶ説明するがその口は重い。

 その内容に、レオンは自らの考えは正しかったと、喜びも見せずに俯いていた。


「それが分かったなら、こいつらにはもう用はないな。シラク、そこをどけ。俺が処理してやる」

「いやいやいや、まだ分からないだろ!?」


 知る必要があり、同時に知りたくなかった情報を得られたことで、もはや必要なくなった彼らを始末しようとレオンが剣を抜く。

 その動きに迷いはなく、クロードは慌てて彼らの間に割り込んで、さらに情報を求めていた。


『そいつを遠ざけてくれ!殺されちまう!!』

「ほら、レオン!一旦剣を収めてくれ!頼むから!!」

「ふんっ」


 レオンの強さは、一太刀でゴブリンの首を跳ね飛ばした時に目撃している。

 そんな彼が剣を手に近づいてくれば恐怖も感じるだろう、ましてそれがはっきりとした殺意を漲らせていれば。

 怯えるゴブリンにクロードはレオンに剣を収めるようにお願いする、彼の言葉にレオンも渋々剣を収めていた。


「えーっと、『その、実は牢屋にいなかったんだけど。その子はもう処刑されたって事かな?』」

『いない?それは分からないが、ヒューマンの女だろう?それならオーデン様が殺すとは思えないがな・・・』

「えっ、本当!?ほら、やっぱり殺されてないって!!」


 明らかに苛々しており、いつまた剣を抜くか分からない様子のレオンを気にしながらクロードはゴブリンに問いかける。

 ゴブリンは、アンナの事を直接見た事がある訳ではないだろう。

 しかし若い女という情報は伝わっており、そうであるならば特殊な趣味を持つオーデンが、彼女を簡単に殺すとは思えなかった。

 その言葉を鵜呑みにしたクロードは、素直に喜びの声を上げる。

 しかしレオンは、どこか冷めた態度を崩すことはなかった。


「どうせ口から出まかせだろう。ゴブリンなんて助かるためならなんでもする・・・もういいだろ?」

「いや、そうだ!クラリッサ達のことも何か知ってるかも・・・『他の人間の事を知らないか?同じ年頃の女の子達なんだけど?』」


 静かに再び剣を抜いたレオンは、もう十分だろうと視線でクロードに語りかけてくる。

 そのプレッシャーに押されながらも、食い下がったクロードはゴブリンを彼の視線から庇いながら質問を続けていた。

『だ、大丈夫なのか?他の人間と言われても・・・そういえば―――』

『おい、ゴブリン共!!この壁はなんだ!?中で何をやってる!!』


 レオンの姿に怯えながらも何事か思い出したゴブリンの言葉は、外から響いてきた大声にかき消される。

 その声の響きは、ゴブリン達のそれとはどこか違うものだった。


「ちっ!時間切れだ、シラク!!暴れられたら面倒だ、こいつらは処理するぞ!」

『ま、待ってくれ!!俺達ゴブリンはここじゃ扱いが悪いんだ!!あんな奴らに仲間意識なんてない!協力するから、命だけは助けてくれ!!』


 剣を手に近づいてくるレオンの迫力に、言葉は通じずとも自らの命が危険なのは分かる。 

 今度やってきた敵の声は始めから敵意に満ちており、数も多そうだ。

 それを対処しながらゴブリン達の面倒もみる訳にはいかない、レオンは彼らを処理すると決めていた。

 その様子にゴブリンも必死に命乞いをする、彼らのこの城での扱いの悪さを考えれば、忠誠心など皆無だろう。

 縛られ一纏まりにされた彼らは大して動く事などできないが、その表情と声で精一杯助けてくれと主張していた。


「協力するって言ってるぞ!流石に殺すのは可哀想だろ!!」

「口ではなんとでも言える!!・・・いや、一匹なら構わない。交渉させよう」


 ゴブリンの言葉にどうにかレオンの行動を止めようとするクロードも、その力には敵わない。

 彼の提案を一蹴したレオンはしかし、何かを思い直すと先ほどからクロードと会話していたゴブリンを拘束する縄を切る。


『い、いいのか?』

「さっさと行け!!」


 レオンの突然の行動に戸惑うゴブリンは、彼を見上げて混乱するが、彼はゴブリンを蹴りつけると出入り口の壁の方へと急がせた。


『どうした!!返事がなければ、この壁を破壊するぞ!!』

『ま、待ってくれ!なんでもないんだ!!そ、そう!処刑で血が飛び散るから、そのために壁を作ったんだ!中は今汚れてるから、掃除が終わるまで待ってくれ!!』


 返事がなければと話しているその声の主は、すでに壁をガンガン叩いて破壊を始めている。

 その様子に、慌てて言い訳を開始したゴブリンの話の内容は適当だ。

 彼らの言葉をレオンに通訳してやっているクロードも、それは無理があると顔を顰め、レオンは静かに壁へと歩みを進めていた。


『それで壁を作っただと!?意味が分からんぞ!!大体こんな壁をどうやって作った!!ええぃ、話にならん!!この壁を破壊しろ!!オーデン様が城内に侵入者がいると仰られている、ここを狙ったとしてもおかしくはないぞ!!』


 無理のある言い訳は当然通じる訳もなく、向こう側にいる指揮官と思しき人物は疑いを強めて、壁を破壊するように命令を下す。


『ま、待ってくれ!!そうだ!病人を殺したから、変な病気に―――』

「下がってろ」


 交渉の失敗に、必死に食い下がろうとするゴブリンは、壁に張り付いて言葉を続けようとする。

 そこにはすでに強い衝撃が響いてきている、零れてきた石の破片は彼の頭を叩く事はなかった。

 彼を後ろへと引き戻したレオンは、剣を構えたまま壁へと向かっていく。


『さっさと壊さんか!!なに、私が邪魔だと?確かに、な・・・?』

「突っ込むぞ!ついてこい!!」


 壁ごと突き破った剣先は、そのすぐ近くにいた指揮官の胸を貫いて沈む。

 自らの胸に突き刺さった剣先を不思議そうに眺めていた彼も、すぐに支えを失って倒れ付した。

 崩れ始めた壁を蹴破ったレオンは、引き抜いた剣を今度は振り払う。

 その軌跡は壁を壊すために鈍器を振り上げていた魔物達の、腕を払って落としていた。


「「俺達も続くぞ、うおおぉぉぉ!!!」」


 レオンが崩した先頭を埋めるように、兵士達が雄叫びを上げて駆けてゆく。

 指揮官をいきなり失った混乱から魔物達はまだ立ち直っていない、その中をレオンが圧倒的な力で蹂躙していた。

 数の力では、これから幾らでも増援がやってくるであろう彼らの方が圧倒的に上だ、レオンは混乱している今の内に出来るだけ優位な状況を作ろうと、剣を奔らせる。


「あー・・・結局こうなっちゃうかぁ、アンナを早く探しに行きたいんだけどなぁ。なんか作れるもんでも探すかな・・・」


 始まってしまった戦いに溜息を吐くクロードは、部屋の中を探しては何か有用なものは作れないかと思案を始めた。

 彼の横で交渉を行っていたゴブリンが、魅入られたようにレオンの戦いぶりを眺めていた。


『す、すげぇ・・・』


 彼は呆けたように、レオンの姿を見詰めている。

 それも突撃した兵士達と、それともみくちゃになっていく魔物達によってすぐに見えなくなっていく。

 彼の後ろでは今だに拘束されたままのゴブリン達が、必死に解いてもらおうと報われないアピールを続けていた。

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