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ゴブリンと人間達 1

「そうですか、そんな事が・・・」


 クロードの力によって回復し、意識を取り戻した兵士達はレオンによる経緯の説明に、納得の声を漏らしていた。

 彼らは皆一様に、粗末な布で局部を覆っているだけの服装だった。

 素材があれば服を作ってやることも出来たが、ここには碌に素材に出来そうなものがなく、そのままの状態となっていた。


「あぁ、俺達はアンナの救出にやってきたんだ。誰か彼女の居場所を知らないか?何か情報でもいい」


 取っ組み合いをして割には、レオンには何のダメージもなさそうだ。

 それはクロードによって治療されたからだろう、その証拠に流石にそこまでは手が回らなかったのか、彼らの服装は若干ボロッちくなっていた。


「いえ、私は・・・皆は?」

「いや、見てないな」

「俺も」


 アンナの情報を求めるレオンの言葉に、兵士達は次々に首を横へと振る。

 レオンは彼らの一人一人へと視線を向けるが、有益な情報が得られることはなかった。


「そうか、悪かったな」

「うーん、困ったな。さっきの牢屋と、ここぐらいしか捕虜がいそうな所はないんだろ?どうしたものか・・・」


 得られなかった情報に、クロードは手詰まりの状況だと首を捻る。

 うんうんと唸りながら頭を悩ませている彼と違い、レオンは暗い表情で一度顔を俯かせると、クロードへと詰め寄っていた。


「シラク、ここは逃げるしかない。彼らを置いていく訳にはいかないだろ?今ならまだ、混乱に乗じて逃げ切れるかもしれない。お前の力なら可能な筈だ」


 クロードの力によって病気や怪我からは回復した兵士達も、粗末な環境や拷問のような責め苦によって削られた体力や精神は癒された訳ではない。

 彼らには一刻も早い休息が必要だろう、逃亡を勧めるレオンの言葉に、兵士達も頷いていた。


「いやいやいや、アンナを見捨てる訳にはいかないでしょ!!大体お前の考えだと、クラリッサ達も捕まってるかもしれないんだろ?余計に放っておけないよ!!」


 アンナや他の少女達が一番大事なクロードは、当然その提案には反対を示す。

 彼の直情的な言葉は、兵士達の胸中にも気まずさを生み出していたが、レオンの心は揺らぐ事はなかった。


「今はそんな状況じゃないんだシラク!!頼む分かってくれ!!俺は一人でも多く救いたい!そのためにはお前の・・・」


 クロードの肩を掴んで、必死に訴えかけるレオンの表情は切実だ。

 彼はもしかすると、この戦争によって死んだすべての命を背負っているのかもしれない。

 彼が自らの父の裏切りをこの戦争の切欠だと考えているなら、それも不思議ではない。

 自らの父親と同じ、殺すべき存在だと考えているクロードの力を頼らざる得ない彼の胸中は如何ほどだろう、少なくともその言葉には偽りはないように思えた。


『なんだぁ、この壁は?おいどうした、処刑はどうなってる!?』


 しかし、それも間に合う事はない。

 外から聞こえてきた声は、明らかな不審を喋っている。

 クロードが取り合えずで作った石の壁はそれほど頑丈な造りではなく、ガンガンと叩く音にそれほど間もなく壊れてしまうだろう。


「くそっ、嗅ぎつかれたか!!」

「レオン!俺達はどうすれば!?」


 結論が纏まらないまま悪化した状況に、レオンは舌打ちをする。

 ほとんど裸のままの兵士達に戦う術はない、彼らは戸惑うように互いの顔を見合わせると、レオンに指示を求めていた。


「シラク、何か出来ないか!」

「ええっと、とりあえず武器だけでも・・・」


 彼らに指示を求められても、レオンには対応など思い浮かばない。

 彼はクロードの力に、その活路を求めていた。

 彼は何か材料になるものはないかと室内を探すが碌なものはなく、仕方なしに床や壁の素材を使って、石の武器を作り出す。


「おおっ!?久しぶりに目にしましたが、やはり凄まじい力ですな!!」

「えっと皆さんの得意な武器なんです?言ってくれればたぶん作れますけど・・・?」


 取り合えずで作った石の剣を、最初に歓声を上げた壮年の兵士へと手渡したクロードは、他の兵士達に視線を向けると武器のリクエストを受け付ける。

 彼らはそれを受けて、次々に得意の武器を告げていた。

 その大半は剣であったが、中には斧や槍もおり、クロードをそれらを作っては手渡していく。


「破られるぞ、覚悟はいいか!!」

「「おうっ!!」」


 激しい打撃音に、ミシミシと崩壊の音も響いてくる。

 その様子にレオンは、壁が破られる事を察して中の兵士達へと発破を掛けた。

 彼らは疲れ消耗していただろうか、それ以上に魔物たちへの恨みが溜まっていたのだろう、粗末な武器を掲げ、意気揚々と声を上げていた。


『おらぁ!・・・なにっ!?人間だとっ!?どういう―――』

「こういうことだよ!」


 仲間の仕事の様子を窺いに来たのだろうゴブリンの集団は、破った壁の向こうから現れた武装した人間の集団に驚きの声を上げた。

 彼の疑問には、レオンが剣で答えている、

 壊された壁はまだ一部で剣を振るうには邪魔だろう、彼はそれを纏めて吹き飛ばしながら、先頭のゴブリンの首を跳ね飛ばしていた。


「俺達も続くぞ!!」

「「うおおぉぉぉ!!!」」


 レオンが破壊した壁を、さらに破壊して兵士達が続いていく。

 突如現れた武装集団に混乱しているゴブリン達は、彼らに為す術なく飲み込まれてしまっていた。


『なんだこいつらっ!?何でこんなに元気に?いたっ、やめ、いてぇ!?』

「おい!!お前ら下がれ、俺が止めを・・・!?」


 石の武器と弱った兵士達では、ゴブリンを仕留めるほどの威力は出ない。

 しかし数の暴力にはゴブリン達も為す術がなく、一方的に殴られ続けてしまう。

 それはレオンにも同じで、通路にみっちりと広がった彼らによってゴブリン達に近づくことが出来ずにいた。


「待て!情報が欲しい!!殺さないでくれ!」

「っ!?そうだ、殺すな!!何匹かこっちに連れて来るんだ!!」


 結果的に生かしたままゴブリン達を囲んでぼこっている状況に、クロードは生け捕りにするチャンスを感じて声を上げる。

 その声にレオンも賛同して生け捕りの指示を出す、彼自身が真っ先にゴブリンを殺した事はきっと忘れてしまったのだろう。


「生け捕り、何故だ!?こいつらから情報なんて・・・!」

「シラクなら聞きだせる!あいつはゴブリンの言葉を喋れるんだ!!」


 ゴブリンを囲む輪の中でも、比較的こちら側に近かった兵士がレオンの指示に反感を示す。

 彼らは虐げられて時間に、仕返し出来ている今を楽しんでいた。

 そのためその言葉にははっきりとした不満が滲んでいた、しかし少しでも情報が欲しいレオンとクロードにとってそれは看過できない。

 石の武器といえ殴られ続ければ致命傷にもなるだろう、猶予のない時間にレオンは必死に彼らに呼び掛けていた。


「言葉を!?本当ですか、シラク様!!」

「本当本当!いいから早くこっち連れて来て!壁、もう一回塞いじゃうから」


 初めて聞く事実に驚く兵士達に、クロードはぞんざいに肯定しては壊された壁へと近づいていく。

 すでに気を失い抵抗する事がなくなっていたゴブリン達を、とりあえず部屋の中へと運び始めた兵士達は、どこか半信半疑な表情をしている。

 彼らはクロードの能力を信じた訳ではなく、単に場所を移した方がいいと考えて従っただけだろう、レオンが注意深く彼らの動きを監視していた。


「ほら、適当に縛っといて。さっきまで使ってた奴があるでしょ」

「ふんっ!きつくしてやる」


 彼ら自身を拘束していた縄ならば、そこらへんに転がっている。

 クロードはそれでゴブリン達を縛るように指示を出すが、兵士達は日頃の恨みを込めてゴブリン達をきつく縛り上げていた。

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