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処刑を止めろ 1

 拘束された人々が並べられ、横にされているその場所は、牢屋というより病室のようだった。

 それは横になっている人間達が一様にボロボロで、健康そうな者が一人もいなかったからかもしれない。

 そんな部屋には二人のゴブリンがいた、彼らの片方は大柄な斧をその肩に担いでいた。


『処刑ってのはどうもなー・・・戦って殺すんならまだしも、なんか気持ち悪いよな』

『仕方ないだろ、誰もやりたがらないんだから。俺達がやるしかないんだよ』


 彼らはそれぞれに、処刑に対しての文句を零している。

 一方的な殺害ですらなく、ただの処理に過ぎない処刑は戦いを好む彼らにしても、あまり好ましい行為ではないようだ。

 しかしこの城で地位が低い彼らにそれを断れる筈もなく、彼らは嫌々ながらもその役を買って出ていた。


『殺して食ってもいいならまだしもさぁ・・・食っちゃ駄目なんだろ、こいつら?』

『病気の奴が多いからな。食って変な病気にならないようにって配慮だろ?』


 地位の低い彼らは、当然の事ながら食事の配給も少なくなっている。

 空腹な腹を押さえるゴブリンは、これから処刑する人間達を眺めては涎を垂らす。

 彼らにとって新鮮な人肉はご馳走にもなる、しかしそれは口にしてはならないと釘を刺されていた。


『よく火を通しても駄目か?はぁ・・・ヴァイゼの旦那、早く帰ってこないかなぁ。あの人よく獲った肉とか分けてくれるんだよなぁ・・・』

『それよりアクスさんだろ?あの人手懐けてる獣使ってその餌を獲ってっから、余ったのをよく分けてくれるぜ?』

『あの人がくれるのはさぁ、なんか獣臭いんだよなぁ・・・』


 人肉への未練が断ち切れないゴブリンは、最悪焦げ焦げになってもいいと、もう一人に問いかけるが彼は黙って首を振る。

 飢え死にしかねない彼らの食事事情であったが、それは最悪の状況になる前に食い止められていた。

 それは彼らの中でも実力者である二人が、積極的に獲ってきた食料を分け与えていたからである。

 しかし出払っている二人に、彼らの食事は最悪へと戻っている、彼らが目の前の食料と二人の帰還に焦がれるのも仕方のない事であった。


『さっさとやっちまおうぜ?』

『これ、殺した後はどうすんだ?例の通路を使って捨てにいくか?』

『まぁ、その方が早いからなぁ・・・血は、どうすっかなぁ』


 空腹からか、重たい斧を床へと立て掛けていたゴブリンは、それを担ぎ直すと近くの人間の下へと歩み寄っていた。

 やる気の起きない仕事に、いつまでもぐだぐだとくっちゃべっているのは楽しかったが、それが他の魔物に見つかっては面倒だ。

 斧を担いだゴブリンは気を失ったように眠りこける人間を見下ろしながら、その後処理について思い悩む。

 もう一人のゴブリンもそれには頭を悩ませていたが、二人とも処刑行うことには決めてしまったようだった。


『ここでやっていいのか、どっか運ぶか?』

『どうせ汚れちまうし、そこでいいだろ?一人殺ったら交代な』


 床に直接横にさせられている人間に、斧を振り上げたゴブリンは、ここで殺してしまっていいのかと手を止める。

 もう一人のゴブリンは面倒臭そうに手を振ると、そのまま殺ってしまえと促した。

 どうせこの場の掃除も彼らか、その仲間のゴブリンがやらされるに決まっている、そう考えれば面倒に大差などなく、別段手順を気にする必要もなかった。


『おぅ。せーの・・・っと』


 小柄なゴブリンの身体と比べると、若干大き過ぎるきらいのある斧を振り上げたゴブリンは、その重さに僅かにふらついていた。

 しかしそれは狙いを違えるほどのバランスの悪さではない、振り下ろされた斧は寝込んだままの人間の首へと迫る。


「やらせるかっ!!」


 部屋の入り口から響いたその声を追かけるように伸びてくる石の壁が、斧の刃を受け止めて弾く。

 その威力は石の壁を砕いて寝込んだ人の顔を叩いていたが、それは彼の意識を覚醒させるほどの衝撃にはならなかった。


『なんだっ!?これ・・・なんだ?』

『て、敵だ!!敵が来てるぞ!!?』


 どこかから伸びてきた石の壁が斧を受け止めた、最初こそそれに驚きの声を上げたゴブリンは、その得体の知れない状況に不思議そうに首を捻っていた。

 もう一人のゴブリンはその得体の知れない石の壁の元へと視線を向け、そこに二人のヒューマンがいるのに気づくと、慌てて何か武器になるものを探し始める。


「レオン!!」

「分かってる!お前は皆を守れよ!!」


 床へと両手をついているクロードの横から駆け出したレオンは、剣を抜くと斧を持ったゴブリンへと飛び込んでいく。

 彼から弱っている人間達を守れと言われたクロードは、脅威となる相手を探すが斧を持ったゴブリン以外見つからず、とりあえず横槍が入れられないよう出入り口を壁で塞いでいた。


『敵だと!?城門に行った奴らはなにやってんだ!!?』


 城の奥まった場所にあるこの一室にまで敵がやってきたことに驚くゴブリンは、それを迎え撃ちに行った筈の仲間へと不満を訴える。

 彼は自らへと突っ込んでくるレオンに対して、斧を構え直していた。


「失せろ!!」

『ぐっ!?重、なんだ、これ!!?』


 斧を持つゴブリンへと近づいたレオンは、雑に彼を振り払おうと剣を振るう。

 ゴブリンは何とかその一撃を受け止めていた、しかしその剣は重く彼は体勢を維持できずに、抱えた斧を自らの身体に食い込ませてしまう。


「あぁ!?粘ってんじゃねぇよ!!」

『ぐっ!!?』


 必殺を狙った一撃ではないにしても、防がれてしまった事にプライドが傷ついたレオンは、怒りに任せて追撃を放つ。

 その剣は鋭く、態勢を崩していたゴブリンには反応する事すら出来ない。

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