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間の悪い二人

 アンナとデニスが立ち去った後の牢屋には、静寂が訪れていた。

 それも当たり前の話である、ここにはアンナ以外の囚人はおらず、彼らが去った後には無人となっていたのだから。

 しかしそんな牢屋に、カタカタと小さな振動が響き始める。

 それは徐々に大きくなっていくと、牢屋の廊下の一部から眩い光が迸っていた。


「よし、抜けた!今度こそ牢屋だろうな~?」

「うるさいぞ、シラク!俺だってこの城には一回しか行った事ないんだ!!構造なんて憶えてるわけないだろ!!」


 牢屋の廊下に開いた穴から、賑やかな話し声が響く。

 その穴からひょっこり顔を出そうとしたクロードは、その頭を掴んでレオンに戻されていた。

 ここに来るまでに、幾つか別の場所に辿り着いていたのか、その手には僅かな返り血が付着しており、彼らの苦労を物語っていた。


「大体お前が先に行くなと、さっきも言っただろうが!!」

「えぇ~?俺の方が死に辛いんだし、先に行くべきじゃない?」

「ふん!それは自分で自分の身を守れるようになってから言うんだな!!大体さっきも・・・!!」


 お互いの主張をぶつけ合って騒いでいる二人は、それぞれに穴から顔を出そうとしている。

 しかしそれは単純な身体能力の差によって、レオンに軍配が上がっていた。

 彼は牢屋の景色を見渡すと、小さく拳を握り喜びの声を上げる。


「ほら見ろ!!牢屋じゃないか!!」

「ここに辿り着くまでに、三回も間違えて勝ち誇られても・・・大体、誰もいないぞ?」


 まだ穴の中にいるクロードに向かって勝ち誇った表情を見せるレオンに、彼は冷たく突っ込みを入れる。

 安全が確保された事で頭を押さえつける力が消えたクロードは、穴から這い出すと牢屋の中を見渡し、そこに人がいない事を知るとがっかりした声を漏らした。


「ふん!一発でアンナを見つけられるなんて、そんな都合のいい事を考えていたのか?これだから、変な力しか取り得のない奴は・・・」

「おい、てめぇ!!その力に助けて貰っといて、その言い草はないだろ!!」

「はっ!俺なら一人でもなんとかなったね!!お前に合わせて、付き合ってやってたんだよ!!」


 売り言葉に買い言葉で揉め始める二人は、ついに取っ組み合いを始めてしまう。

 体格では圧倒的に勝るクロードも、その身体能力ではレオンと比較にもならない。

 彼はすぐにレオンに組み敷かれると、完全に制圧されようとしていた。


『なんだお前ら!?一体どこからっ!!?』


 彼らの言い合いは、声を潜めることなど頭のないボリュームだった。

 当然それは牢屋の外にも響いており、それを聞きつけた魔物が現れる。

 どこか湿ったような地肌を持つその魔物は、おそらくリザードマンだろう。


「シラク!!」

「おうっ!!」


 魔物の登場にすぐさま取っ組み合いを止めたレオンは、クロードへと合図を送る。

 素早くクロードの身体から飛び退いたレオンは、床へと着地するとすぐに剣を抜く。

 彼の足元からは、石の塔が伸びていた。

 彼はその勢いを身体に乗せると、そのまま彼らの動きに戸惑い立ち尽くしているリザードマンへと切り掛かる。


『なっ!?早っ!!?』

「っと、他には?・・・いないか?とりあえず大丈夫そうだな」


 その速過ぎる動きに、ほとんど反応らしい反応も出来なかったリザードマンは、あっさりと両断されて口を封じられてしまう。

 着地と共に周りを窺ったレオンは、どうやらこちらに向かう気配はないと判断すると、剣を鞘に収めていた。


「その死体どうするー?また適当に穴でも掘って、埋めとくか?」

「ここまで来た穴に放り込めばいいだろ?」

「いやー、あそこって帰りにも使わない?」


 レオンの見事な手腕を眺めていたクロードは、決着がついたのを見るとトコトコと彼に近づいていく。

 その途中で伸ばした塔を元に戻した彼は、リザードマンの死体を二人で運びながら、その処理について検討していた。

 ここに来るまでに訪れた場所でも同じような処理をしたクロードは、その時と同じ処理の仕方を提案する。

 レオンはそんな面倒くさい事をせずとも、通ってきた穴を使えとそこを指し示すが、クロードはそれに難色を示していた。


「そうか?それなら適当にそこいらに埋めろよ」

「そうするわ。よっと、あー・・・そっち持って」

「ほらよ」


 牢屋に適当に穴を作ったクロードは、そこにリザードマンの死体を埋めていく。

 両断したとはいえ重たいその身体に、一人で運ぶのは難しかった彼はレオンにも助力を頼み、彼も軽く頷いて了承していた。


「これでいいだろ?急ごうぜ」

「ちょっと待って、血痕も消しとこう・・・あぁ、こっちも塞がないと」


 血の付着した床を作り直していくことで血痕を消していくクロードは、その作業を手早く済ませると、自分達が通ってきた穴も塞いでおく。

 彼が作業を済ませる間、牢屋の入り口の脇に潜み近づいてくる気配を窺っていたレオンは、作業の終わった彼に顎をしゃくってこちらに来るように要求していた。


「・・・なにやら城内が騒がしいな」

「え!?潜入がばれたかな?」

「いや、それにしては騒ぎが大きいな・・・まぁいい、とにかく別の牢に向かうぞ」


 響いてくる物音から城内がかなりの騒ぎになっていることに気がついたレオンは、それに怪訝な表情を見せる。

 彼らは目的とは違う場所に潜入しては、そこにいる者を殲滅してきたが、その証拠は綺麗に抹消している筈だ。

 そのため彼らの潜入は、魔物の行方不明という形でしか露見しない筈である、それは長期的には大問題だが、短時間でそこまで大きな問題になるとは思えなかった。


「え?俺の能力使っていく方が良くない?」

「いや、やはり普通に城を歩いた方が構造に当りをつけやすい。一刻も早くアンナを助けたいからな」

「ふーん、そういう事なら任せるよ」


 そのまま外に出ようとしていたレオンに、クロードは疑問をぶつける。

 彼からすれば、自らの能力を使った方が効率よく探索できる気がしていた。

 しかしそれはレオンの感覚によって否定される、事実としてここに辿り着くまでにかなり時間が掛かっており、彼の言葉には一定の説得力があった。


「行くぞ」

「あぁ」


 短く出発の言葉を告げたレオンは、先行して物陰へと走っていく。

 クロードは、なるべく急いでその後ろへとついていった。

 彼らはアンナとデニスが進んだ方向とは、真逆の方向へと進んでいく。

 城内の騒動は、収まる気配を見せなかった。

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