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戦いと、少女達 2

「まずいっ!!お前達は逃げろ!!」

「お父様!?くっ、リーンフォース―――」


 壁に張り付いていた兵士達の動きに、その最前線にいたトゥルニエ達は満足に動くことが出来ない。

 飛来してくる岩の塊に、彼は自らが盾になろうと少女達の前に立ちふさがる。

 彼に突き飛ばされたアンナは悲鳴のような声を上げるが、すぐに父親に対して強化魔法を掛けようと杖を握る。

 彼女の脇を、小さな人影が走っていく。


「・・・アンナ、こっちに」

「っ!アーマー!!」


 トゥルニエの前へと滑り込むように身体を入れた小さな人影は、その全身を覆うかのような巨大な盾を構えている。

 盾を構えた少女は、追い抜きざまにアンナへと魔法の対象を変えるように要求する。

 咄嗟の事に、アンナが反応できたのは杖の方向を変えることだけだ。

 それでも少女の全身は薄く発光し、対象の変更の成功を告げていた。


「・・・おじさん!」

「っ!?イダ!踏ん張れ!!」


 イダと呼ばれた少女は、崩れた防壁の残った部分に大盾を嵌め込むと、足を大きく広げて力を込めた。

 彼女から声を掛けられたトゥルニエは、その肩へと手を添えると、もう片方の腕と肩で大盾を支える姿勢を取る。

 飛来する岩石は、もうすぐ傍まで迫っていた。


「ぐっ!ぐぐぅ!!」


 響く重い衝撃に、イダは噛み締めた奥歯からくぐもった声を上げる。

 魔法によって強化された大盾は、その厚い鉄板に飛来した岩石の威力を吸収するが、それが齎した衝撃は、軽いイダの身体を吹き飛ばしていてもおかしくはなかった。

 軽く宙に浮いた彼女の身体は、トゥルニエによって地面へと戻される。

 斜めになった大盾にぶつかって跳ね返った岩石は、そのまま転がっていき追撃の機会を窺っていたゴブリンを弾き飛ばしていった。


「助かったよ、イダ」

「・・・ぶい」


 岩石の転がっていく顛末を眺めていたトゥルニエは、その終わりを知るとイダの茶色い髪を梳かすように撫でる。

 イダもその感触に気持ちよさそうに頭を揺すると、指を二本立てては小さく笑顔を見せていた。


「お前達、いつまで逃げているつもりだ!!奴らがいくらでも岩を投げつけられる力があるからといって、その岩が無限にあるわけではない!過剰に恐れるな!!今すぐ防壁が破損した箇所を確認し、報告しろ!!」


 周りを見回し、ざっと防壁の破損状況を確認したトゥルニエは、大声を上げて逃げ出した兵士達を叱咤する。

 幸い、見る限りではそれほど防壁の被害を大きくない。

 岩石を投げつけた魔物のコントロールが悪かったのか、ほとんどの岩石は手前や見当違いの場所に着弾しており、早くに気付けた事もあって人的被害もほとんどなさそうだ。

 彼の言葉を受けた兵士達は、慌てて持ち場へと帰っていく。

 中には怯えてその場を動けない者もいたが、それは少数の者だった。


「イダ!すごかったよ!!でも、いつの間に来てたの?」

「・・・クラリッサについてきた。置いて行かれたけど」

「ご、ごめんねイダちゃん。ティオちゃんが飛び出して行っちゃって・・・」

「イダが遅いのが悪いにゃー!ティオは悪くないのにゃ!!」


 皆の命を守った、イダを中心に少女達が集まってくる。

 アンナはその小さな身体に抱きつくようにして飛びつくが、彼女にはイダがいつの間にやってきたのかが疑問だった。

 その質問にイダは恨み言を漏らす。クラリッサは彼女の言葉に申し訳なさそうに肩をしょげて、ティオフィラは逆に文句を言っては開き直っていた。

 一人、輪に加わっていないエミリアだけが、鋭い視線を防壁の向こうへと向けていた。



「――――――ファイヤー・ボール」



「っ!?まずい、皆早く逃げてっ!!」


 エミリアが上げた声に、反応できた者がどれくらいいただろうか。

 彼女達の前へと、その身体を投げ出した男以外に。


「お父様!?お父様ぁぁぁぁぁぁ!!!」


 自らの父親が、その身体を投げ出すのを目撃したアンナの悲鳴が響く。

 彼の身体を丸ごと飲み込むような火球が迫り、着弾する。

 奔る閃光に、その音は聞こえもしなかった。




 うごめく瓦礫が、起き上がって人の形と変わる。

 舞った土埃は起き上がった時と、今も必死に辺りを探している動きのせいだろう。

 何かを見つけた人影は、それを必死に揺り動かしては声を掛けた。


「アンナ、アンナ!!」

「・・・イ・・・ダ?な、に・・・よく、聞こえない・・・」


 イダは近くに倒れていた少女達の中から、真っ先にアンナを目覚めさせようとその肩を揺する。

 その理由は彼女の視線を先を見れば分かる、黒焦げの身体に僅かに息があるだけのトゥルニエが、そこに横たわっていた。


「おじさんがっ・・・おじさんが死んじゃう!!」

「お、とう・・さま、が?お父様っ!!?」


 近くで炸裂した爆発に耳をやられたアイナは、朦朧とした意識もあり中々言葉を聞き取れない。

 それでもイダの必死な様子は何か感じるものがあったのか、導かれるようにその視線の先へと顔を向ける。

 彼女の表情の変化は激烈だった。まだダメージの残る身体にも、飛び起きたアンナはイダの身体を跳ね除けて、父親へと縋りつく。


「お父様!!お父様!!いや、いやです!私を、私を置いていかないでっ・・・お父様ぁぁぁぁ!!!」


 トゥルニエへと縋りついたアンナは、その身体を必死に揺する。

 爆発の熱に溶けた鎧は、彼女の手をも焼き付けて鈍い音を響かせる、アンナはそんな痛みを感じないように父親の身体へと縋りついて絶叫していた。


「そんな、おじ様・・・」

「私達を庇って・・・」


 イダによって起こされた少女達が、トゥルニエの状態を目にして悲痛な声を漏らす。

 彼女らの身体も瓦礫に汚れて酷い状態であったが、大きな怪我をしている者はいなかった。


「なんにゃ・・・?おっちゃんはなんで寝てるのにゃ?アンナは・・・」

「ティオちゃん、いいの・・・今はそっとしておいてあげて」


 状況を理解できないティオフィラだけが、どこかぼけっとした顔で周りを見回している。

 彼女は泣き叫んでいるアイナへと近づこうとするが、クラリッサがそれを抱きとめて制止していた。


「お父様、お父様ぁぁぁぁぁぁ!!!」


 沈黙が訪れた空間に、アンナの悲痛な絶叫がだけが響く。

 それを止める術を持つ者は、ここにはいなかった。



「あのー・・・もしかして。手助けとかって、いります?」



 その間の抜けた声を掛けてきた者、以外は。

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