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ぼっち旅 韓国編  作者: 紀々野緑
4/5

トンカツ大国、大韓民国

サブタイトルが「城之内死す」のようにネタバレです。

韓国といえば、「トンカツ」というような話です。

韓国二日目の記憶はほとんどなくて、かすかに憶えている記憶を頼りに書いたので今回は少なめです。

 朝はいつものように早起きせず、午前10時くらいまでぐっすりと眠った。今は春休みだから早起きして授業を受ける必要はない。うるさい目覚まし時計に起床を強いられず、自然に目が覚めて一日を始めるというのは名状しがたいほど清々しい。

 顔を洗い、ぼさぼさの髪を整えて出かける支度をした。カンボジアに向けて出発するのは明日の夕方なので、それまでは思う存分韓国を観光することができる。部屋を出る前に、カーテンを開けて外の様子を確認した。雪だ。雨ではないのでありがたいが、どちらにせよ部屋に閉じこもっていたい気持ちになった。

 朝食は何にしよう。日本のセブンイレブンは革命的で、食材から日用品まで取り扱っており、まさに近代という感じだ。憲法学者の木村草太は、近代のことを「百貨店」と表現していたが、コンビニはその代表といっていい。しかし、韓国のセブンイレブンの品ぞろえは昭和の駄菓子屋レベルで、朝食にふさわしい商品はない。

 東大門のバス停がある通りに、人型の巨大な模型があった。顔とか服といった飾りつけは一切なく、レゴブロックのような白い立方体をいくつも組み合わせて、歩いている人の様子を模型として展示してあった。その歩く人の隣にある商業施設のなかにパン屋が見えたので、そこでブレークファーストにしようと思った。

 パン屋の隣にはカフェが併設されており、そこでイートインできるようだ。パンを三つほど購入してからカフェに移動した。メニューは英語表記もあったので、思いもよらないものが提供されることはないだろう。男性店員に「カフェラテをホットで」と日本語で注文した。しかし驚いたことに、日本語であるにもかかわらず通じてしまったのだ。「カフェラテ・オブ・ホット・デ」という風に、英語とフランス語が混じった奇妙な文章として、店員は聞き取って理解したのかもしれない。

 カフェを出た瞬間、冷たい風とともにさらさらとした雪が全身にぶつかってきた。韓国は福岡より少し北に位置しているだけなので、気温は福岡と差はないと思っていた。しかし、スマホで確認したところ、ソウル市内の気温は氷点下なのだ。緯度が少し変化するだけで、体感でわかるほどに気温が変化するということなのか。

 昨日はバスの進路に沿って歩いたらよくわからない大学にたどり着いた。それなら、今日は大学とは反対方向に、つまり、空港から東大門までバスが走った道を徒歩で行けるところまで行ってみようと決めた。歩いて移動するのは大変疲れてしまうが、面倒な交通ルールに縛られたり駐車場を探したりしなくてすむので、ある意味自由なのだ。

 道なり進んでいくと大きなトンネルが現れた。バスに乗っていたとき、この短いトンネルを通った憶えがある。歩道は設けられておらず、トンネル内には侵入できない。トンネルの脇に、山道へ続いている歩道があった。どうやら、トンネルの向こうに行くためには、この小さな山を越える必要があるようだ。まさか、韓国で登山をすることになるとは。

 山というより、丘といったほうがより正確だろう。山道はとても緩やかで、以前登ったことがある福智山や九重山に比べれば、どうってことない。そういえば中学生の時、学年主任の趣味と恣意的な判断のせいで二回も登山をさせられたのだ。

 中腹あたりに来ると、少しずつ道幅が広くなり、やがて広場のようなところが見えてきた。ここには、公園によく設置されている運動器具があった。おじいさんが、必死に何かを回している。鉄棒の握る部分がS字に曲がっており、それが回転するのだ。腕の運動のための器具なのだろう。ほかにも腹筋用のベンチなど様々なものがあった。

 筋トレエリアを抜けてしばらく歩いたら少し傾斜がきつくなってきた。もう少しで頂上なのか。突然現れた石階段駆け上がると、古風な建築物に迎えられて登頂に成功した。つい先ほどは、運動器具といった韓国らしさを感じないものに触れてきた。しかし頂上では韓国風の建築物をみることができたので、わざわざ登山をした甲斐があった。柱が何本かあり、雨をしのぐための屋根がある。そんな風貌だ。ほかには、日本でみたことがない鳥が木の枝に止まっていた。生物や植物の名称がわからないと気持ち悪くなる。暇なときに勉強しなきゃ。

 小さな山と思っていたが、周囲を一望できるくらい標高は高いようだ。ホテルの方向を眺めてみると、東大門という町はスケールが小さい田舎町だということがよくわかる。東大門の反対方向は、高層ビルだけで構成されているかのような、規模の大きな都市が確認できる。ソウルの中心地だろう。ちょうど雪はやんで太陽が雲の隙間からみえてきた。今日は散歩日和だ。

 山を越えて、韓国の中心地を目指して歩き出した。周囲は高級住宅街のようだ。高そうな車や家がいたるところにある。

 小学校もあった。少しカルチャーショックを感じたのは、グラウンドが芝生だったことだ。きっと私立の学校に違いない。韓国政府に学校のグラウンドを芝生にする余裕はないはずだ。

 それから道なりに進んでいくと、少しにぎやかで騒がしいところに来た。フリーマーケットが行われているようで、Tシャツや懐中電灯など、家庭で使われなくなったとみられる雑貨がビニールシートの上に陳列されていた。

 フリーマーケットが行われている通りに面したところに、神社のような空間があった。敷地内には南京錠で施錠されている、長屋のような建物がいくつもあった。赤の塗料で染められた壁に、瓦屋根だ。日本の京都にもありそうだ。

 なかなかソウルの中心地にたどりつけない。むしろ離れている。午前中にホテルを出て、日が沈み始めるまでひたすら歩いたのに、目的地とは違った方向に進んでいる。予定通りに物事が進まないのも旅の醍醐味ということにしよう。

 あてもなく歩く。すると、布で作られた国の国旗が小さな棒に接着されていて、それが柱にくくりつけられている。韓国はもちろん、アメリカやイギリス、日本など見慣れた国旗は当然のようにあった。一方で、見たこともなくどこの国なのかもわからない国旗もたくさんあり、自分の教養のなさが思い知らされた。それにしてもこんな場所を訪れるのは初めてだし、日本には存在しないかもしれない。韓国は友好の証として、諸外国の国旗を掲げているのだろうか。白々しいなあ。

 歩きすぎておなかが空いてきた。パンを食べてから何も食べてないし飲んでもいない。周囲には飲食店がたくさんあったので、どこを選択しようか迷った挙句、綺麗な外観をしたお店の中に入った。辛い物が食べたいと考えていたので、本場のキムチ料理があればと期待した。

 この店も地域住民をターゲットにしているためなのか、残念ながらメニューはハングルのみで構成されている。全く読めない。入店してから挨拶さえしない女性店員に、メニューを適当に指さして注文した。そしてしばらく待って、目の前に運ばれてきたのはトンカツ定食である。

 二日連続のカレーは大歓迎だが、トンカツとなれば話は別だ。揚げ物を二日以上続けて食べると、生活習慣病を患うリスクが上昇すると考えているので、この日の夕食はトンカツだけ残したかった。でもたまにはこんな日もええじゃないか、ええじゃないか。普段は健康的な食生活を意識しているのだから、たまにはね。

 この店のトンカツもおいしい。チェーン店のクオリティは安定しているが、安定しているだけだ。一方で個人経営の飲食店は当たりはずれがあるが、当たりを引いたときの感動は大きい。二日連続で違う店のトンカツを食べ比べてみたが、どちらもおいしい。食レポの旅ではないので、貧弱な感想を許してほしい。おいしかった。韓国はキムチなんか捨てて、トンカツ産業に力を入れたほうがいいのではないか。大韓民国はトンカツ大国なのだから。

 夕食をすませてから目的もなく歩いていると、宿泊しているホテルが見えてきた。どうやら山を越えた後Uターンして、東大門のほうまで戻ってきたらしい。どこで道を誤ったのだろうか。やはりある程度現地を事前に調べておかないと、旅行を楽しむことはできないことを学んだ。

 部屋に戻ってから、明日の準備をした。このホテルに宿泊するのは今日までなので、チェックアウトまでには荷物を整理しておく必要がある。その際に、夢枕獏の『神々の山嶺』を発見した。出国前に友人から借りていたものだ。岡田准一主演で映画化されており、登山欲求が高まる作品だ。エベレスト登頂には死の危険が伴うにもかかわらず、エベレストに魅了されて何度も挑戦する男たちの物語。登山をしたくなる半面、ネパールには決して行くまいと決意させられる。そんな小説を読んでいると、時間が経過するのも忘れて日付が変わる直前まで読んでいた。

 明日は早起きしなければならない。そのためシャワーを一瞬で浴びて、歯も雑に磨くことであっという間に就寝の準備を終わらせた。そしてベッドに飛び込む。それも、昨日と同じ中央のベッドへ。慣れというものですかね。ドトールでいつも同じ席に座るのは安心するからだ。人間にとって変化はストレスだ。だからこの日も昨日と同じベッドを選んだのかもしれない。

 明日はいよいよ韓国を離れ、カンボジアへ飛び立つ。発展途上国なので治安は良好ではない。それでもカンボジアに行く理由がある。きっとカンボジアでもなんとかなるだろうという根拠のない自信を持っていた。なんとかならなかったのに。


ひたすら歩きました。

建設中の歩道に侵入したり、小学校の周りをうろちょろしたり、いろんなところをみてきたのですが忘れてしまいました。

人間、忘れやすい生き物なので日記を習慣化しなくてはいけませんね。

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