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ローリン・マイハニー!  作者: 田中 義男
10/28

電車にて☆

 丘陵地から都市に向かう電車に、二人の少女が揺られている。一人は紺色のワンピースに身を包み、肩から白いポシェットを下げ、脚を揃えて座席に座っている。高い位置で結われた後ろ髪には、透し彫りの蝶の髪飾りをつけていた。彼女の向かいには、学生服を纏い、三つ編みを肩に垂らした背の高い少女が、吊革に掴まり、黒縁の眼鏡を掛けた眼を細めて、楽しげな表情を浮かべている。傍目からは、歳の離れた姉妹のようにも見えるが、関係性は定かでは無い。

「今日は楽しかったかな?」

 眼鏡の少女が、髪飾りの少女に声をかけた。髪飾りの少女はコクリと頷いてから、その問いに答えた。

「はい。お二人のおかげで、貴重な体験をすることが出来ました。時に師匠」

 髪飾りの少女が問いかけると、眼鏡の少女は優しげな笑顔で、なあに、と聞き返した。髪飾りの少女は、黒縁の眼鏡を覗き込み言葉を続ける。

「ひがみん氏は、悪辣な輩なのでしょうか?」

 そう問われると、眼鏡の少女は視線を外して、学生鞄を手にした手で器用に頬を掻くと、バツの悪そうに答えた。

「んー。まあ、悪い事をしてたのは事実だし、本人に聞いても、自分は悪人だ、と答えるだろうね」

 髪飾りの少女は、眼鏡を覗き込んだまま、更に問いかける。

「しかれども、果たしてそれが真実なのでしょうか?さり気なく奥方様や小生を危険な状況から遠ざけようとなさったり、何よりも小生の無茶な頼みを可能な限り聞いてくださったり……小生には、とても悪人には見えませぬ」

 眼鏡の少女はしばらく考えた後、何かを閃いたらしく、頬から指を外して視線を髪飾りの少女の目に戻し、にこかな笑みを浮かべて答えた。

「ひと言で表すと、めんどくさい奴、って感じだね」

「それは、泥酔した時の師匠よりもですか?」

 間髪入れずに髪飾りの少女がそう問うと、眼鏡の少女は網棚の上に学生鞄を置いてから、笑顔で手刀を落とした。とは言っても、極軽くではあるが。

「何をなさるのですか師匠!」

 髪飾りの少女が前髪の上から額をさすり、抗議する。眼鏡の少女は、網棚から鞄を下ろしてから、笑顔で答えた。

「制裁のウルトラ課長チョップ★」

「必殺技の名前を聞いている訳ではありませぬ!……それよりも師匠、これからいかがいたしましょうか?今日の一件で、浦元とやらはひがみん氏に対しても、何か良からぬ事を仕掛けてくるのでは?」

 不安げな表情を浮かべる髪飾りの少女の頭を優しく撫でてから、眼鏡の少女は口を開いた。

「多分そうだろうけど、ひがみんも、それは分かってると思うよ?」

「なれば、捨て置く訳には参りませぬ!小生も助太刀いたさねば!」

 髪飾りの少女が、座席から立ち上がらんばかりの勢いで憤り、眼鏡の少女はそれをなだめた。

「そんな事して、繭子が危険な目に遭うのは、ひがみんも本意じゃないんじゃないかな?それに、ひがみんにはひがみんの考えがあるだろうし」

 眼鏡の少女は穏やかな笑顔で、諭すようにそう言った後、その表情を含みのあるものに変えて続けた。

「まあ、アタシにアタシの考えもあるしね」

「……程々になさってくだされ」

 髪飾りの少女は嘆息を吐いてから、そう言う。眼鏡の少女は満面の笑みを浮かべて、オッケー、と返した。

 それから二人は他愛ない会話を続けながら電車に揺られて、目的の駅にたどり着いた。ホームに降り立つと、不意に眼鏡の少女を呼び止める声がする。俄かにおびえた表情となる彼女がゆっくりと振り返ると、そこにはトライプが入った灰色のブラウスを着て、黒いタイトスカートを履いたスラリとした女性が、腕を組み立っていた。纏め上げられた髪型のおかげで、その表情が怒りを堪えているものだと、はっきりと判断できる。

「アンタは業務を抜け出して、何をやっているのかしら?」

「あ、えーと……メンゴね★」

 少女は片手で自分の頭を小突いて、ウインクをする。

「部長!師匠が申し訳御座いませぬ!これも小生が至らぬばかりに起きたこと故、処罰は何卒師匠では無く小生に!」

 髪飾りの少女が二人の間に割って入り、頭を下げる。女性は切れ長の目を細めて笑顔になると、その頭をそっと撫でた。

「繭ちゃんが謝ることじゃ無いのよ。今日はこれから、お宅にお邪魔して、こうなった原因と、その対策についてゆっくりとミーティングしましょうか」

 そして、ゆっくりと逃げ出そうとする眼鏡の少女の制服の後ろ襟を掴むと、そのまま引きずるように歩き出した。

「ごめんなさいなりー。よ!管理部長!美しき美貌のクールビューティ管理職★」

「訳の分からないゴマすりをしない!いいから行くわよ!」

「お二人ともお待ちくだされ!」

 そうして三人は、騒つく人混みを掻き分けて、改札口に向かっていった。

 ミーティングの大半が眼鏡の少女への説教であったことは、言うまでも無い。

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