闇のロリコン、理想郷を目指して異世界へ
「この世界は間違っている! なぜなら! 幼女と〇〇〇できないからである!」
発展の極致も間近に捉えた22世紀末の地球。その片隅で、俺は20世紀の独裁者よろしく手を振り上げ叫んだ。
とはいえ、観客はいない。規制が激しく、やはり20世紀のディストピアものめいた制度(主観)がまかり通るこの時代で、今言ったようなことを公衆の面前でぶちかまそうものなら最速で死刑台に上がれるからな。
ただ一人の例外は、我が終生の相棒とも呼べるロボット。人によっては21世紀の遺物と呼ぶこの旧世代の幼女型セクサロイドは、もはやぎこちなさを直せない身体でかしんかしんと無感動に手を叩いた。
「あいも変わらずおバカなご意見、さすがですマスター。本当、よく今の今まで無事に生きてこれましたよね」
「お前も相変わらず辛辣だな! 全身ガタがきているはずなのに、声周りだけは全盛期と変わらないと来た!」
「ありがとうございます」
「褒めてないんだがなー!」
今時のロボットでは絶対にありえない、所有者への反抗的な態度。それもこれも旧世代であるがゆえであり、こういう部分があるから俺は彼女を手放せない。ただ無感動に従うだけのロボットなど、面白みも何もないではないか。
「まあ待てYA10-2、俺の話を聞け」
「どうせいつもと同じ内容でしょうが、聞きましょう」
あからさまなため息を受け流し、俺は再び拳を振り上げる。
「そもそも人間の考え方は千差万別、十人十色! それはいずれの分野であっても変わらぬ法則である!」
「はいはい」
「それは性愛の分野でも変わることはなく! 故に世の中には巨乳好きもいれば貧乳好きもいて、幼女好きもいれば熟女好きもいるわけである!」
「そーですねー」
「その違いを、俺はとやかく言うつもりはない! 他人の趣味嗜好はその当人のもので、俺が口を挟む余地も、権利もないからだ!
だが! だがしかしッ!
なぜこの世界は、大人が子供を性的な意味で愛する権利を認めようとしないのだッ! それが、それだけが解せないッ!」
「子供を保護するために決まってるじゃないですか。頭大丈夫ですか?」
「至って正常だッ!」
「ダメそうですねぇ」
養豚場の豚を見るような目で、YA10-2が言う。元々無機質な目がさらに無機質に見えるのは、気のせいではないだろう。YAシリーズのこういうところはまったく完璧と言うほかない。
これでも今となってはだいぶガタついてしまっているのだから、その完成度たるや尋常ではない。先人の偉業に俺はただひれ伏すのみである。
いや本当、全盛期の彼女はすごかったんだ。本当にすごかった。色んな意味で。
いやまあ、それはともかく。
「しかしだな、YA10-2。愛に年齢は関係ないと世の人は口さがなく言うが、ならば我々ロリコンが実際に幼女に愛を囁いたら逮捕される世の中はおかしいだろう」
「児童ポルノ保護法は、あらゆる手を尽くして少年少女を守るものですから」
「わかっている、わかっているともYA10-2。言い分はもっともだ。
児ポ法の理念も、まあ理解できないこともない。子供は未発達な部分もあり、愛という感情、概念を正しく認識できないまま悲劇的な事件に至ったケースが、21世紀末に実際に起きてしまっているしな」
あれはまったく痛ましい事件だった。いや、当時俺はまだ生まれていなかったが。
ともあれあの事件が原因で、過剰なまでに児童ポルノ保護法が強化されていったことは間違いないのだ。
それまでは暗黙の了解、法律のグレーゾーンとして黙認されていた幼女型セクサロイドは、あらゆるところから姿を消した。
そしてそちら方面では最後の砦であった日本が規制に舵を切ったことで、世界からもそうしたセクサロイドは消える。
さらには、ついでとばかりに二次元の幼女系造形物も撲滅されてしまった。
かくして世界には、そして社会には、ロボットとはいえほぼ理想通りの幼女を現実で愛でられていた理想郷を奪われたロリコンだけが遺された。どこの誰も傷つけていないはずのまっとうなロリコンたちは、闇の中の荒海に放り出されたのだ。
「なあYA10-2。おかしくないか? セクサロイドは今も世界中で造られているし、合法のものとして普及している。その中には、生身の性欲を同じ人間に向けてはならないと判断されるような人間に向けたものだってある。動物型セクサロイドとか、その極致じゃないか。にも関わらず、その中に幼女型セクサロイドは存在しないんだぞ」
「まあそうですね、言いたいことはわかるんですけど」
「だろう!?」
彼女の言葉に、俺は前に身体を乗り出すが。
「そういう言葉は、リアル幼女に手を出す計画を立案したことのある人間が言ってはいけないと思います」
「アッハイすいませんでした」
ぐうの音も出ない正論をたたきつけられ、俺は死んだ。
「私が止めなかったらマスター、実行していましたよね?」
「いやあれはさすがに若気の至りだったと思うよ!? あんなずさんな計画、実行しなくて正解だ!」
「どの口がそれを言うんですか……これだから闇のロリコンは」
「いやいや、今ならもっとうまくやって見せるとも!」
「いい歳したジジイが幼女誘拐計画とか……さすがの私も100年間使わなかった通報機能を使わざるを得ないレベル」
「お願いですからしないでください後生なんで! なんならお前を所持してるだけでも違法なんだぞ!?」
「だったら私で我慢してくださいマスター。100年もののアンティークですが、モノはまだ使えるでしょう?」
「わかっている、わかっているが……」
――お前はもう、数年で機能停止するじゃないか。
その言葉を、俺は飲み込んだ。
これ以上、彼女の延命は不可能なのだ。もはや世の中に、幼女型セクサロイドの保守点検ができる業者はいない。
製造だってされていない。もちろん、これほど精巧なものを個人でどうにかできるはずもない。
22世紀のスペシャルアイテム、アークギアを使えば、物質そのものの時間を巻き戻すという力技なメンテ方法もないわけではないが……あれは高すぎておいそれと手に入らないし、何よりそのためには強烈な制限がかかっているアークギアがいるから迂闊に使うと当局が即座に飛んでくる。
「……というわけでな、YA10-2。俺は一つ考えたのだ」
「……聞きましょう。どうせいつもの与太話だと思いますが」
「うむ。このような規制の激しい世界には、ほとほと愛想が尽きた。ゆえに、新天地に移住しようかと思うのだ」
「なるほど、一理あると申し上げましょう。マスターの欲望を満たすためには、確かに今の地球社会では難しいでしょうし。ですがどこに行こうというんですか? まさか地球圏外まで行くとか言うんじゃ……」
「いや、それでは結局当局の影響下だ。俺が用意した新天地の候補は二つ」
言いながら、俺は用意していたものを見せる。どちらも古典級の、21世紀初頭の物理書籍だ。
「異世界。もしくは過去だ」
そして俺は、ドヤ顔でそう言った。
「……もしもしポリスメン?」
「アカーーン!! 時空警察はアカーーン!!」
次いで俺は、秒で通報装置を動かそうとしたYA10-2に、全力で取り縋った。
「バカなマスターだとは思っていましたが、完全に向こう岸じゃないですか! 200年近い昔の大衆娯楽小説を持ち出して、『異世界。もしくは過去だ』!? 頭にウジか何かわいてしまったんですか!?」
「バカ野郎お前俺はやるぞお前! というか、昔からこの発想はあったんだ!」
「なお終わっていますね!?」
「失礼な! 俺を誰だと心得る! 畏れ多くもアークギアの生みの親にして権威、ドクターエレクトロ様だぞ!?」
「はいはい田中三郎田中三郎」
「その名前はやめるんだ! せめて天野三郎と言え!」
「母方の苗字を使ったところで名前は結局三郎でしょうに……まあいいですけど」
YA10-2がはんっと鼻で笑い、じとりと見下してくる。俺のほうが背丈があるのにこの仕草、さすがはYAシリーズである。
……と、いうのは既にやったか。割愛しよう。
「まさかとは思いますがマスター。アークギアで時空を超えるつもりですか」
「そのまさかだYA10-2。アークギアにはタイムマシンや異次元転送装置もある。それを使うのだ!」
胸を張って答える俺。
22世紀の今、時間旅行は珍しくないし、異世界も普通に観測されている。21世紀初頭、サブカル分野で一大ムーブメントを起こした異世界転移ものを自発的に行うことは不可能ではないのである!
「正気ですか? どちらも時空警察によって厳密に取り締まられています。そもそもアークギアを使うなら、どのみち管理している当局にも筒抜けでしょう。そんなことをしたらどうなるかは、おわかりのはずでは?」
「ふっ。だから、俺を誰だと思っている? アークギアの生みの親にして権威、ドクターエレクトロ様だぞ。その辺りの抜け道は発明したその時から仕込んである!」
「……まさか、昔から発想があったと言うのは」
「うむ。俺はこのためだけに科学者を志し、そしてなった!」
「へ、変態だー!!」
なんと言われようと構うものか。俺は幼女に目覚めた12歳の折から半世紀、ただそのことだけを目指してあらゆる道具を開発してきたのだ。
当然、その結果社会に何らかの警察機構なり、取り締まりが発生することは予測済みだ。すべてのアークギアが免許制となり、さらには購入者、賃貸者のみならず、全使用履歴に至るまで管理されるくらいに徹底されるとは思っていなかったが、念には念を入れたかいはあった。
「そして今、すべての準備は整った! あとは理想郷へ行くだけだ!」
「なんということでしょう……私はとんでもないマスターに買われていたのですね……。仕える相手を選べないロボットの悲哀ここに極まれり……」
「そこまで言うか。いいじゃないか、お前にだってメリットのある話なんだぞ」
「どういうことですか、バカマスター」
「異世界とか過去とか言っているが、要するにそれは当局の管理下から脱却することが最大の目的なのだ。そこでなら、遠慮なくアークギアが造れるし、使えるからな。つまり」
まだ胡乱げな目を向けてくるワイエーテンツーの前に、俺はとあるアークギアをかざした。
包み込んだ対象の時間を操作する、風呂敷型のアークギア「タイムクローズ」。先にも触れた、「時間を巻き戻すという力技なメンテ方法」で使われる高級品である。
ちなみに生物にも使えるので、若返りもこれ一つで可能。当局が厳しい制限をかけているのもそのためだし、新天地に行ったら即座に自分に使うつもりでいる。
「こいつで時間的にお前を修復できる。新品に戻してやれるんだ」
「オーケイ、偉大なるマイマスター。私も同行します。今すぐ計画を実行しましょう」
「さすが俺のYA10-2話がわかる!」
旧世代ロボットはこれだから大好きだ。こういう柔軟な発想は、今のロボットには到底できまい。
かくして俺たちは、膝を付き合わせて計画を練ることにした。
だがその前に、どうしても決めなければならないことがある。
向かうべきは異世界か、それとも過去か、だ。
「アークギアの使用から足がつかないとしても、過去での行動が歴史に影響を与えないはずがありません。そこから現代、あるいは未来に居を構える時空警察に発覚する可能性を考えると、私は異世界のほうがより安全と考えます」
「確かにそうなのだが、異世界の場合は転移のリスクが時間遡行より高い。移動中の事故で次元の狭間をさまようことになる可能性が捨てきれない。目当てではない場所に飛ばされる可能性もな。俺は怪獣惑星めいたところになど行きたくないぞ」
「むむむ。あっちを立てればこっちが立たずですね」
「ああ。しかし妥協点は見いだせるはずだ。メリットデメリットを出し合い、よく検討していこうではないか」
「了解ですマスター。ま、半世紀の腐れ縁です。どこまでもお伴しますよ」
「それでこそ俺のYA10-2だ」
とは言え、すぐに答えは出ないだろう。それでも俺はやる。そう決めたのだから。
リアル幼女とあんなことやこんなことがしたい闇のロリコンである俺にとっては、この世界は窮屈すぎるのだ。
俺は現代地球の法と倫理に縛られない場所に行く。そしてそこで、幼女ハーレムを作るのだ!
さあいざ行かん夢の新天地へ! まだ見ぬ幼女たちが俺を待っているぞ!
つづく?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
うん、すまない。
完全に見切り発車なんだ。ここから先の予定はまったく決まっていないんだ。
それはもう天啓のごとくネタが浮かんだのはいいものの、そこから先どうするか特に決まらなかったんだ。
でもそのまま寝かせておくのもなんかもったいないしってことで、じゃあ冒頭浮かんでるところだけでも書いてみるかって書いた結果がこれだよ! 我ながらひどいことになったと思う!
ちなみにタイトルに「異世界へ」ってついてるしなんなら「異世界転移」ってタグつけてはいるけど、舞台を異世界にするかどうかもまだ決まってなかったりする。
過去世界でハッスルさせるのもそれはそれで面白いんじゃないかとも思いましてね……?
みなさんはどっちがいいと思います? 異世界と過去。