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前話を修正いたしました。大きな変更ではありませんが、この話で矛盾が出る為、確認だけお願いいたします。
私とクルシュは、クルシュの所属するゴブリンの村へと、案内されるままに付いていくと木の棒の片方を削っただけの粗末な槍もどきを持ったゴブリンに、その穂先を突き付けられ、囲まれた。
「ぐぎゃぎゃ。」
「な、何?」
囲んでるゴブリンが鳴き声を上げるが、勿論クルシュではないので、私には分からない。
「ぐぎゃぎゃ?!ぎゃぎゃ!」
私はよく分かってないが、クルシュにはどういう状況か理解できるもののようで、困惑しつつも取り囲んでいるゴブリンに声を上げる。
「ぐぎゃぎゃ。ぐぎゃぎゃ。」
声を荒げるクルシュに対して、周りのゴブリンは冷静に鳴く。それは、理解していない子供に説明するような、優しいものでは無いと思う。私にはゴブリンの表情は分からないけれど、彼らの鳴き声に込められた感情は分かる。
何故なら、私がこの体になる前に、散々向けられた感情だからだ。
侮蔑。
感情を表す言葉は沢山あるけれど、これはそれだと思う。
私は覚えている。何度も何度も向けられてきた感情だ。
私は覚えている。処刑の際に民から向けられた感情だ。
彼らの目に私は、どう映っているのだろうか?
気付けば私の体は、震えていた。一緒に沈むものかと、決意をしたはずだった。
それでもまだ、震える。
腕が、体が、心が。
怖くて、悔しくて、情けなくて。
「ぐげ、げはは。」
聞こえた。聞こえてしまった。沢山のゴブリンが囲まれてもなお、その声は私に確かに聞こえた。
今更だが気付くべきだった。その存在に。
何故なら、ゴブリンが集落を作っているのだから。
何故なら、ゴブリンが粗末とはいえ武器を持っていたのだから。
何故なら、クルシュが見回りを命じられたのだから。
何故なら、集落に着くまでゴブリン以外に魔物に遭遇していないのだから。
それは、現れた。
それは、私達を囲むゴブリンよりも大きかった。
それは、クルシュより一回り大きかった。
それは、悠然とその弛んだお腹を揺らしながらゴブリンを押しのけてき現れた。
「ゴブリンキング…。」
恐怖に潰れそうな私の口が人知れず呟く。体から力が抜け、座り込んでしまう。
ゴブリンキング。ゴブリン達の王。ゴブリン達を従え、集落を形成するゴブリンのリーダー。色々呼び方はあるけれど、前世の私はその存在を文献で見たことがある。
――――――――――――
ゴブリンキング。対軍級の魔物である。それ一個体のみの脅威度は、初心者を抜けたCランクの冒険者が五人程で討伐ができると言われる存在だ。だがそれが、軍隊で討伐をすべきと言われる所以は、王を冠する魔物に共通する同一系統の下位の存在に対する命令能力である。それらは、ある程度の知能を有する為に大きな群れを成すのである。つまり、―――――
モンテギュース・フレンダー著「魔物を率いる上位存在。」より。
――――――――――――
「げはは、げへへ。」
そんな対軍級の魔物が、私の前にいる。ゴブリンの王が、もう一度声をあげると“私の傍に居た彼が、私を囲んでいる仲間の元へと入っていく。”
「ク、クルシュ?」
呟いた声も震えてくる。仕方ない事だと私でも分かる。彼は進化したと言えどゴブリンなのだ。当然彼等の王であるゴブリンキングには逆らえないのだから…。
それでも…、そうであっても私の体は先程から震えが強くなるばかりだ。
震えるしかできない私の前に、ゴブリンの王は歩いてくる。
私はどうなるのだろうか?
王であろうと、ゴブリンキングは魔物だ。食べられてしまうのだろうか?
ゴブリンキングであろうと、その本質はゴブリンだ。苗床とされてしまうのだろうか?
分からない。不安だ。恐怖が襲う。私は…、私は…。
気付けば、私は顔を俯かせて地面を見ていた。頬の何かが伝って地面に落ちる。私は、泣いているのだろうか?
大きな影が近付いて、私の上にそれが来た気がする。多くの命を救えなかった私の末路がこれか…。神様がいるなら、どうやら神様は私に民の前での処刑では足りなかったのだろう。私の罪を清算するには、苦行がいるのだろう…。
そうと分かったのであるならば、私は前を見るべきだ。救えなかった彼らの分も私は、これから我が身が受けるそれを、受け入れよう。それが私にできる贖罪なのだから。
「え…?」
頬を伝う涙を乱暴に拭った私が顔を上げた時、視界に入ったのはゴブリンキングとは比べも無いほど小さい“彼の背中だった。”
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