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【世界の声】。それはこの世界で、一般的にそう言われている声である。その声は、無機質で感情が感じられない平坦な声であることが、多くの人種の証言を得ている。ここでの人種とは、我らヒューマ、エルフ、ドワーフ、獣人の四種のことを指す。
【世界の声】を聞いた者に共通することは、“称号を得た”ということだ。
称号とは、それを持つことで、体に新しい力を得るようになる。
ある者は、反射神経が良くなった。
ある者は、驚異的な自然治癒能力を得た。
ある者は、新しい魔法の属性適正に目覚めた。
ここで、…。
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私は、頭に流れた【世界の声】について、貴族であ…、この体になる前の体の時に父の書斎の、大賢者グレヴェース・グドュリアス著『世界の理』という本に書かれていた一節を思い出していた。
端的にいえば、【世界の声】とは、称号を得たことを知らせるものだ。これは誰が何の目的でどのようにして、発しているかは未だに答えは出ていない。
だが、今重要なのはそんなことじゃない。
【世界の声】が正しければ、いや【世界の声】に間違いはない。ならば、先程【世界の声】が告げたことが事実で、私は精霊で、彼…、ゴブリンジェネラルとなった元ゴブリンフェンサー(どうやら只のゴブリンではなかったようだ。)に【精霊の祝福】を与えたようだ。
どうやら、気を失うまでも感じていた、すべてが大きいと思っていたのは私が下位の精霊であったためであると予想が付く。これは噂に聞く転生というものだろうか?
下位の精霊であると、判断したのは【世界の声】で、只の【精霊の祝福】出会ったためだ。本来ならば、【火精霊の祝福】などその精霊が司る属性が頭に付くからだ。それが無いということは、属性を冠せないほどに下位であると―。
「ぐぎゃ?」(あるじ?)
「へ?」
自分の思考に埋まっていたら、急に頭に声が響いた。【世界の声】とは違い、どこか困惑した様子の声は、目の前の彼が鳴き声を出すと同時に聞こえた。
「もしかして、さっきの声はあなた?」
確証はある。【世界の声】言っていたではないか、“思念話が可能になる”と。
「ぐ!ぐぎゃ!!」(な!あるじ!!)
「やっぱり。」
私の問いに、目の前の彼は戸惑い気味の返答を返してきた。戸惑う彼が可笑しくて、笑みがこぼれる。
「それで、主ってどういうこと?」
「ぐぎゃ?ぐぎゃぎゃ?」(あるじは?あるじです?)
「…、うん。まぁいっか。」
どうやら彼はゴブリンジェネラルになったと言っても、元々がゴブリンであったからか知識はそんなに高くないようだ。
「そうだ、あなた名前は?」
私が事故とはいえ祝福を与えたのに、いつまでも“彼”呼びというのも、どうかと思う。
「ぎゃぎゃ?」(なまえ?)
ああ、そうだった【世界の声】は何と言っていたか。本当に私は…。
「いえ、落ち込むのは後ね。個体名が無い。つまり、名無しなのよね。」
「?」
ゴブリンなのに、首を傾げる様はどこか愛くるしいわね。
「じゃあ、私が名前を付けてあげるわ。」
「!!」
名前…。ゴブ太、ゴブ造、ゴブ之新…。いやいや、それはいくらなんでも…。一旦ゴブリンから離れましょう。そう言えば、彼の目綺麗な金色なのよね。他のゴブリンの瞳を注意深く見たことなんて無いけれど、綺麗だと思った。それと彼の特徴は口元から伸びる、その犬歯かしら。なんかそれだけ聞くとヴァンパイアみたいね。
「決めたわ。あなたの名前は、クルシュよ。」
「ぐぎゃぎゃ。」(くるしゅ)
「そう。どうかしら?」
「ぐぎゃぎゃ!!」(うれしい!!)
良かった気に入ってもらったみたいだ。
『あなたの祝福を受けた個体、個体名なし。種族名ゴブリンジェネラル。その個体が、個体名クルシュとして、ネームド化しました。』
彼、クルシュが喜ぶと同時に【世界の声】が聞こえた。魔物中には、通常よりも強い個体には名前が付くとは知っていたが、まさか【世界の声】はそれさえも知らせるとは…。
そのことに驚いている私の魔力が、抜けていく感覚がある。気付けばその抜けていく魔力は加速度的に増えているようだ…。
「ま、待って、これ何?」
「ぐぎゃ?!」(あるじ?!)
私の魔力は、徐々にクルシュの方へ流れていくのが分かる。止める方法が分からない。そうして、膝をつく様にしていると魔力の流れが止まった。
気を失うほどの消費ではないけれど、今度は当分動きたくないような倦怠感に包まれる。体が金属の様に重い。支えられない…。
「ぐぎゃ?」(あるじ?)
そう言って、前に倒れるそうになった私をクルシュが優しく支えてくれた。
「あ、ありがとう。」
情けなくて、小声になってしまったがお礼を言ってクルシュから離れようとする。
「ぐぎゃ、ぐぎゃ。」(あるじ、あぶない。)
そうしようとしても、彼から離れる前に私の体はクルシュによって抱き上げられ…?
ま、待って、私の体を抱き上げる?目覚める前はクルシュの手の平大しかなかった私を?クルシュが縮んだ?
いや、違う。
私が、クルシュの腰のあたりまでの身長にまで大きくなっている…?
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