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すごく短いですが、ゴブリン視点です。
咄嗟に、彼女を自分の胸に抱くようにした。そこからは、地獄だった。
襲いかかる衝撃は、痛い。
襲いかかる衝撃は、僕を殺そうとする。
襲いかかる衝撃は、僕の弱さを示してる。
その間僕にできるのは、僕を救ってくれた彼女が食べられないようにすることだけだった。
ひたすら、耐える。
ただ、耐える。
痛みに耐える。
赤い血が流れる。
それでも僕には何もできない。
彼女はそんな僕に、またあの魔法をかけてくれる。
彼女を守りたい。弱くて、何もできない僕だけれど…。
意識が落ちそうになると、奴らの噛み付きや体当たりの痛みで、現実に引き戻される。
どれほどの血が流れただろう?
どれほど耐えただろう?
僕の体は動けなくなってきた。終わらない地獄に精神がまいってきたのかもしれない。それでも、構わない。
僕を救ってくれた彼女が無事ならば、僕にとってはそれ以外はどうだっていい。
衝撃が弱くなってきた。
それでも僕は彼女を守りたい。
…
衝撃が完全に止まった。
最弱でも僕は彼女を守りたい。
…
奴らの音が遠ざかっていく。
僕は彼女を守れるようになりたい。
…
血の匂いが周囲に漂う。
彼女を守りたい。
…
僕は動けない。
守るために、“強くなりたい”。
…
“強くなりたい。”
『個体名なし。種族ゴブリンが、称号【精霊を守りしもの】を得ました。』
動けない僕に、そんな声が聞こえた。
それが意味するところは、僕には分からない。
けれど、力が漲るような感覚は分かる。
それから、数分ほどで体が動くようになった。
彼女は無事だった。でも、その顔は辛そうだった。
ここからまず離れよう。辺りに漂う血の匂いに釣られて、別の奴が襲いに来るだろう。
全身がまだ痛いが、彼女を守るために立ち上がる。
彼女を両手に乗せて、僕は歩く。
一度だけ、彼女の目が開いた。
すぐに閉じてしまったけれど、さっきまでの辛そうな顔はしてない。
呼吸はゆっくりだがしているので、一息ついてまた歩く。
しばらく歩くと、大きな湖に出た。
彼女を、一際大きな木の根の近くに寝かす。
この湖は、大きな奴が近付こうとしない。僕も正直ここには近付きたくない。
理由は分からない。でも今は、都合がいい。
僕は、横に置いといた剣を見る。
この剣は、ここに来る時に緑のウネウネの群れの近くに落ちていた物だ。
僕はその剣を持つ。
最初に僕を殺そうとしたあいつらを思い出す。
あいつらは嫌いだが、あいつらのおかげで、彼女に会えたのは良いことだ。
あいつらの中で、これと同じような剣をもっていたあいつの動きを思い出す。
真似るように剣を振る。
振り続ける。
なぞるように振る。
振り続ける。
『個体名なし。種族ゴブリンが、種族ゴブリンフェンサーになりました。』
また、声が聞こえたが構わず振る。
振り続ける。
行動の余分を削るように振る。
振り続ける。
無駄を省きながら振る。
振り続ける。
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