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「ご結婚おめどうございます。」

 今日だけで何度も言われただろうその言葉を、子飼いにしている騎士にも言われた。誰からの目から分かるほどに、これは政治的な結婚だ。

 そうでなければ、国境を守護するこの僻地の領主の下へ嫁いでくる王族がいるだろうか。


 大方、中央での権力争いに妹姫を巻き込みたいたくないあの王子の考えだろう。巷で人気のある姫を王位継承権から降ろすために、下位の貴族の下へ嫁がせる。よくある話だ。


 それだけなら嫁がせる相手を間違えている。ここは、常に隣国との小競り合いが続く紛争地帯。兵はこの国でも精鋭中の精鋭。

 もし仮に、嫁いできた姫がこの地からクーデーターなど起こしたらどうする気なのだろうか?


 その心配も、夫となったものが私であれば、するだけ無駄というものということか…。

 頭の緩い王族からは、この国に忠義を尽くす騎士。

 貴族連中からは、政治のできない脳筋。


 評価としてはそんなところか。

 他人の評価など当てにはしてないが、他人にはそう見られているだろうし、そう見えるようにしてきた。


 私がそう見えると言うことは、その下に集う人間もその評価に似通った者が集まりやすくなる。

 人は自分に近い考えのと話す時安心し、そして好意を抱くのだから。


 そんな訳だから、私の子飼いの騎士は実力は確かだが、残念ながら頭はそれほど良くない。

 それだから、この結婚に対して嬉しそうに言うのだ。

 政治的なこの結婚に。

 愛などないこの結婚に。


「嬉しそうだな。」

「はい!」

 嬉しそうに言うのだ。

 こちらの気も知らずに。


 自分の主人が結婚することを喜んでいる。

 無邪気に。


 はたまた、自分が守ると誓った相手がそばに来たことを喜んでいるのか。

 私には分からない。


 私を脳筋だという評価は間違いではない。

 なぜなら、私は人の機微に聡くはないのだから。

 なぜなら、私は考えるよりも身体が動くのだから。


 だからなのか、自然と私の両手はこの憎たらしい子飼いの頬を引っ張っていた。

 目の前の子飼いの驚く顔に正気に戻る。


 何をしていたのだろうか?慌てて手を離す。

「主。」

 後ろからそんな声が聞こえてくる。


「なんだ?」

 声は、我が家に仕える執事だった。長年この辺境の脳筋の血筋に仕えてきた優秀な人間だ。

 そんな人間に対してそんなぶっきらぼうに答えてしまう。


「姫様がみえました。」

 姫。誰かと問う必要もない。


「そう、か…。」

 行くか。めんどくさい。姫だ。元とは言え、正式にこの国の王族の血を引く姫だ。


 いつも通り仮面を被ろう。脳筋には過ぎた仮面だ。

 優雅なれは貴族たれ。誰の言葉だったか。

 まさしくその仮面を被ろう。着飾ろう。


 私は貴族だ。

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