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彼女は戦場へと赴き、兵を癒し。
彼女は治療院へと赴き、病人を癒し。
彼女は孤児院へと赴き、心を癒し。
彼女は貧民街へと赴き、人を癒した。
彼女はまさしく東奔西走。東に西に走り回った。そんな彼女が一番多く訪れた場所は、北の国境。
そこは、北の隣国が絶え間なく攻めてくる激戦地。
常にその場所は戦場だった。
争いは傷を産み
争いはさらなる争いを産む。
絶え間なく続く戦いの負の連鎖は、切れる事なく紡がれ連なっていく。
そしてそこを治める領主と姫はなんの因果か結婚する事となった。
実に政治的で戦略的な結婚だった。
領主は貴族でありながら武勇に優れ、自ら軍を率いて、戦う武闘派の男であった。
武勇だけでなく、戦ばかりのこの地に未だに多くの人が集まるのを見るに、男は領主としても優秀なのだろう。
しかしながら、姫は確かに愛されていた。
それは姫の夫となった領主からも…。
もちろんのことだ。
傍から見れば愛のない政略結婚なぞに見えるかもしれないが、確かに領主は姫を愛していた。
姫も領主として自領の為に走り回る男の事を確かに好いていた。
互いに互いを愛し、大切にしていたからこそ、二人に夫婦の営みは行われず、戦いに明け暮れる国境で時々訪れる平穏を大切に壊れ物に触れるが如く…。
そうその時を大切にしていた。
平穏の中で男が領主としての勤めを果たすのを、姫は同じ部屋で本を読みながら、一時を過ごす。
姫の読む本が医学書であるのは、この際ご愛嬌だ。
そんな時を過ごせるのは、年に一回…。いや、一回もあれば多い方だった。
それでも男と姫は夫婦だった。
男は姫の為に凄腕の"元精霊騎士”を護衛に雇った。
精霊騎士とは、読んで字の如く精霊を使役する事ができる王国に仕えし騎士の総称だ。
その護衛に雇われた騎士は訳あって、王直属の騎士の座を退き、男の治る土地に流れ着いた騎士だった。
姫は男の為にお守りを作った。
傷薬を首からかけれる程の小さな袋に入れた彼女お手製のお守りだ。
男は姫の為に花を送った。
戦の激しいこの地で育てられた薔薇の花だ。
姫は男の無事を祈った。
男が戦場より…、ただそう…、ただ無事に生きて帰ってきてくれる事を。
その願いは、無情にも叶うことなどなかった。
男が戦場に出ていった数日後、男は男の従者の騎士によって、姫の前に帰ってきた。
片腕は切り落とされ、膝には矢が刺さり、片方の目は光を映していない。
もはや、男の命は風前の灯としか言えないそんな状態で。
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