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とある国にとある姫がいた。
姫は、三人の王子と五人の王女のうちの、四番目の王女であった。
一番目の王女には、魔法の才能があった。
二番目の王女には、類い稀なる美貌があった。
三番目の王女には、王女には勿体無い戦闘センスがあった。
四番目の王女には、そんなものはなかった。
一番目の王女のように、魔導師として教鞭を振るうことはできない。
二番目の王女のように、老若男女を魅了するほどの美貌があるわけではなかった。
三番目の王女のように、兵の指揮を執り自ら戦闘を行うほどの武勇があるわけでもない。
その国の末の姫は、愛くるしい見た目と仕草で民とそして家族からも愛情を注がれた。
末の姫と四番目の年の差は五つ。末の姫が産まれた時に、周囲の注目は末の姫に注がれた。
彼女にとっては、愛情も末の姫にとられたと感じるほどに、周囲のそれは彼女から離れていった。
彼女は、幼いながら考えた。
彼女は、魔法について学び始めた。長女のように優秀な魔導士となるために。
彼女は、化粧等の美容について学び始めた。次女のように社交界の華となるように。
彼女は、鍛錬を始めた。三女のように人々を守れるように。
しかし、彼女には魔法の才能はなかった。そんな彼女が努力の末に手に入れたのは、回復魔法。
しかし、彼女には社交界の華となるための会話が分からなった。そんな彼女が努力の末に手に入れたのは、貼り付けた笑顔の仮面。
しかし、彼女には誰かを守るための覚悟が足りなった。そんな彼女が努力の末に手に入れたのは、傷付いた者へ素早く駆けつける為の足。
彼女を愚かだという者もいるだろう。彼女は確かに愛されていたのだろうから。
彼女を無能だと断じる者もいるだろう。彼女には姉たちのような才能など何一つ無かったのだから。
彼女を弱者だと罵る者もいるだろう。彼女の回復魔法では重傷者は救えなかったのだから。
彼女は、愛されていた。
彼女の望みは愛されること。愛情を向けられること。
その望みは変わらず心の奥底に留まり、彼女を形作っていく。
彼女の回復魔法では、重症の患者は救えなった。
だから彼女は魔法だけではなく医療技術も磨いた。
多くの人を救うために。
彼女の笑顔の仮面だけでは、彼女の思いは伝えられない。
だから彼女は誰からも愛される言葉を使うようになった。
その言動から、彼女は聖女だと言う者もいた。
彼女の足だけでは、遠くの者を救えなかった。
だから彼女は騎乗の術を学んだ。
足掻く為に。
全ては、愛されるための偽善。
全ては、自分のための偽善。
偽物の願い。
その偽善に救われた命がいた。
その偽善に救えなかった命がいた。
「また救えなかった。」
彼女の目の前の灯はやけに眩しく見えた。
燃え尽きる前により一層輝く灯の願いは、美しかった。
王女の偽善と比べそれは何とも美しく眩しいものだと、彼女は感じた。
その美しさを、眩い灯を消したくないと彼女はそう願うようになった。
その偽善はいつしか望みになった。
その偽善はいつしか目的になった。
そのいつしかは彼女の中では明確ではないが、確かに彼女の多くの者を救いたいという願いは、彼女の願いになった。
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