18
そこからは、荒れ狂う様な剣戟の嵐だった。
「ぐらぁ!」
右から左からと魔物の黒い剣がクルシュを襲う。
その剣戟の対処に集中し始めると、今度は蹴りが飛んできてクルシュを吹き飛ばす。
“クルシュが立ち上がった”タイミングで接近して、暴風を作る。
「また君は死んだ。」
そう言って、今度は足払いを繰り出し、体勢が崩れた所を剣で吹き飛ばした。
「また死んだね。」
そう言って、魔物はまた笑う。嘲笑う。
クルシュを見て。
「ウ、ルサイ…。」
「口ではどうだって言えるよ。でも限界じゃない?」
「ウルサイ。」
「へ~、じゃあ黙らせてみれば?」
魔物は挑戦的な笑みを含んだ声音でそう応えた。。
「君“たち”のその力でさ!!!」
再びの嵐。
「守るだけじゃ…。!!」
ただその嵐の中で、クルシュが蹴りを繰り出した。
「でも残念。」
蹴りを繰り出した。つまり、片足になったということだ。それでは魔物の剣は受け止めきれない。
クルシュは、また吹き飛ばされる。
「それじゃダメだよ。そんなんじゃ…、守れないよ?」
クルシュは、ただ黙って立ち上がる。
「考えなきゃ。」
魔物はそう呟きながら、その距離を詰めていく。
「二の舞だ。」
その言葉を皮切りに、魔物が一息にそれをゼロにする。
クルシュは、やっとの思いで立ち上がった体に鞭を打つ様に迎え撃とうとする。ただ、その足は僅かに震えていた。
△△△
守れない。
それが悔しかった。
それが情けなかった。
それが溜まらなく嫌だ。
△△△
見ていることしかできない。
まただ。
また。
▲▲▲
それじゃダメだ。
それじゃ同じだ。
君は私に似ている。
それじゃ守れないんだよ。
△△△
この足が震える。
悔しさで震える。
これじゃまた同じだ。
考えろ。
△△△
傷付く彼を見ていることしかできない。
私にできることは…。
考えろ。考えなきゃ。
“また”繰り返してなるものか。
▲▲▲
考えなきゃ。
考えて。
私を倒して。
そしてーーー。
△△△
また来る。
まずは防ぐ。
防ぐ。
そしてーーー。
▲▲▲
驚いた。
まだこの剣に耐えるのか。
何度吹き飛ばしても立ち上がれるのは、守る決めた存在か?
いや。
△△△
体は熱い。
ただ、頭は冷静だ。
身体の震えは止まった。
後は隙を見つけて。
…。
今!!
▲▲▲
驚いた。
剣がぶつかる度に、彼女の力が強くなっていっている。
最初は些細な変化だった。
でも、明らかにその最初から彼女の力が強く感じる。
これは…。
!!
△△△
荒れ狂う斬撃の中で、クルシュは隙をついてリリアルノーツを振るった。それは、振るうというよりも右手の手首を返すだけの攻撃。
それは、今のクルシュが持てる最速の一撃だ。威力はいらない。必要なのは、殺す、ただそれだけのための一撃。
その狙いは良い。確かにその一撃は、斬撃の雨を降らす魔物の赤く光る箇所があったであろう“空間”を切った。文字通り空を切った。
つまりは、避けられたのだ。
その殺すためだけの一撃は、クルシュが持てる最速の一撃でありながら、クルシュが今まで一度も放ったことが無い一撃だった。残念ながらクルシュに非凡なる剣の才能があるわけではない、その才能が有れば、結果は変わっていただろう。
これが現実。
これがその結果だ。
クルシュの一撃は僅かに、ずれていた。
クルシュの一撃は僅かに、魔物の反応より遅かった。
クルシュの一撃は僅かに、魔物のその左肩を“切った”。
その一撃は、確かに本来の目標を外れた。
だがその一撃は、確かに目の前の魔物の鎧を切ったのだ。
魔物の切られた鎧から黒い煙が噴き出る。
「ハ…。フハ。フハハハハハ!!!!!」
魔物はただ嬉しそうに笑う。
「この鎧を切るのか!!そうだ!!そうだそうだそうだそうだ!!!」
「ハズシタ。」
確かに外した。絶好の隙を外した。今度は隙ができるかも分からない。
「それが、君達の力か!!」
それでも、状況は好転した。
「ああ。そうだ!!もっとだ!!もっとぉぉお!!!!」
リリアルノーツで、目の前の魔物は“切れる”。
「はぁぁああああ!!!」
魔物は、噴き出る煙を無視して、クルシュに切りかかる。先程よりも早く重たい剣戟だった。
「グッ。」
「もっとぉおおお!!」
重たい。
まるで、かの魔物のありったけをぶつけるように。
目の前の魔物は我武者羅に振るっているように見えた。
しかし、そのリリアルノーツと打ち合う黒い剣が響かせる音は、どこか嬉しそうな音色を響かせているようだった。
明るい。
先程、魔物を切る際にリリアルノーツは微かに発光していた。
切り結ぶ回数が増えるほどに、その発光は輝きを増している。
偶然でも気のせいでも無く。
確かに。その刀身は輝きを増すばかりである。
ピキッ。
そんな音がした。
そんな音が微かに紛れた。
そして、黒い剣は二つに折れた…。
二つに折れた剣と共に、魔物のその鎧には横一文字が刻まれた。
黒い剣が無ければ、背中まで切れていたそんな一撃だった。
「ガッ!」
「ッ…。」
ただクルシュの息も絶え絶えだった。
「クルシュ!!」
リリアルノーツの刀身が、一段と輝いたと思ったら、精霊がその姿を現しクルシュに駆け寄った。
「そうか…。やはり…。」
そう魔物は呟いた。その声に先程までの覇気も狂気もない。
そこにあるのは…。
「私の、私たちの負けだな。」
魔物は、ふらふらと立ち上がるとダンジョンコアへと近づいていく。
「まだやるの?」
「そう警戒をするな。」
そう言って、魔物はダンジョンコアのそばに腰を下ろした。
「そうだ。私はもうすぐ死ぬ。」
魔物はダンジョンコアを愛おしそうな、そんな風に撫でる。
「どうだ冥土の土産に昔話を聞いてかないか?」
魔物の赤い光が揺らめき、魔物は、彼は話し始めた。
「大切なものを守れなかった騎士の話だ。」
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