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 そこからは、荒れ狂う様な剣戟の嵐だった。

「ぐらぁ!」

 右から左からと魔物の黒い剣がクルシュを襲う。

 その剣戟の対処に集中し始めると、今度は蹴りが飛んできてクルシュを吹き飛ばす。


 “クルシュが立ち上がった”タイミングで接近して、暴風を作る。

「また君は死んだ。」

 そう言って、今度は足払いを繰り出し、体勢が崩れた所を剣で吹き飛ばした。


「また死んだね。」

 そう言って、魔物はまた笑う。嘲笑う。

 クルシュを見て。


「ウ、ルサイ…。」

「口ではどうだって言えるよ。でも限界じゃない?」

「ウルサイ。」

「へ~、じゃあ黙らせてみれば?」

 魔物は挑戦的な笑みを含んだ声音でそう応えた。。


「君“たち”のその力でさ!!!」

 再びの嵐。

「守るだけじゃ…。!!」

 ただその嵐の中で、クルシュが蹴りを繰り出した。

「でも残念。」

 蹴りを繰り出した。つまり、片足になったということだ。それでは魔物の剣は受け止めきれない。

 クルシュは、また吹き飛ばされる。


「それじゃダメだよ。そんなんじゃ…、守れないよ?」

 クルシュは、ただ黙って立ち上がる。

「考えなきゃ。」

 魔物はそう呟きながら、その距離を詰めていく。

「二の舞だ。」

 その言葉を皮切りに、魔物が一息にそれをゼロにする。


 クルシュは、やっとの思いで立ち上がった体に鞭を打つ様に迎え撃とうとする。ただ、その足は僅かに震えていた。


△△△


 守れない。

 それが悔しかった。

 それが情けなかった。


 それが溜まらなく嫌だ。

 

△△△


 見ていることしかできない。

 まただ。

 また。


▲▲▲


 それじゃダメだ。

 それじゃ同じだ。

 君は私に似ている。

 それじゃ守れないんだよ。


△△△


 この足が震える。

 悔しさで震える。

 これじゃまた同じだ。

 考えろ。


△△△


 傷付く彼を見ていることしかできない。

 私にできることは…。

 考えろ。考えなきゃ。

 “また”繰り返してなるものか。


▲▲▲


 考えなきゃ。

 考えて。

 私を倒して。

 そしてーーー。


△△△


 また来る。

 まずは防ぐ。

 防ぐ。

 そしてーーー。


▲▲▲


 驚いた。

 まだこの剣に耐えるのか。

 何度吹き飛ばしても立ち上がれるのは、守る決めた存在か?

 いや。


△△△


 体は熱い。

 ただ、頭は冷静だ。

 身体の震えは止まった。

 後は隙を見つけて。

 …。

 今!!


▲▲▲


 驚いた。

 剣がぶつかる度に、彼女の力が強くなっていっている。

 最初は些細な変化だった。

 でも、明らかにその最初から彼女の力が強く感じる。

 これは…。

 !!


△△△


 荒れ狂う斬撃の中で、クルシュは隙をついてリリアルノーツを振るった。それは、振るうというよりも右手の手首を返すだけの攻撃。

 それは、今のクルシュが持てる最速の一撃だ。威力はいらない。必要なのは、殺す、ただそれだけのための一撃。


 その狙いは良い。確かにその一撃は、斬撃の雨を降らす魔物の赤く光る箇所があったであろう“空間”を切った。文字通り空を切った。


 つまりは、避けられたのだ。


 その殺すためだけの一撃は、クルシュが持てる最速の一撃でありながら、クルシュが今まで一度も放ったことが無い一撃だった。残念ながらクルシュに非凡なる剣の才能があるわけではない、その才能が有れば、結果は変わっていただろう。


 これが現実。

 これがその結果だ。

 

 クルシュの一撃は僅かに、ずれていた。

 クルシュの一撃は僅かに、魔物の反応より遅かった。

 クルシュの一撃は僅かに、魔物のその左肩を“切った”。


 その一撃は、確かに本来の目標を外れた。

 だがその一撃は、確かに目の前の魔物の鎧を切ったのだ。


 魔物の切られた鎧から黒い煙が噴き出る。

「ハ…。フハ。フハハハハハ!!!!!」

 魔物はただ嬉しそうに笑う。

「この鎧を切るのか!!そうだ!!そうだそうだそうだそうだ!!!」

「ハズシタ。」

 確かに外した。絶好の隙を外した。今度は隙ができるかも分からない。


「それが、君達の力か!!」

 それでも、状況は好転した。

「ああ。そうだ!!もっとだ!!もっとぉぉお!!!!」

 リリアルノーツで、目の前の魔物は“切れる”。


「はぁぁああああ!!!」

 魔物は、噴き出る煙を無視して、クルシュに切りかかる。先程よりも早く重たい剣戟だった。

「グッ。」

「もっとぉおおお!!」


 重たい。

 まるで、かの魔物のありったけをぶつけるように。

 目の前の魔物は我武者羅に振るっているように見えた。

 しかし、そのリリアルノーツと打ち合う黒い剣が響かせる音は、どこか嬉しそうな音色を響かせているようだった。


 明るい。

 先程、魔物を切る際にリリアルノーツは微かに発光していた。

 切り結ぶ回数が増えるほどに、その発光は輝きを増している。

 偶然でも気のせいでも無く。

 確かに。その刀身は輝きを増すばかりである。


 ピキッ。

 そんな音がした。

 そんな音が微かに紛れた。

 そして、黒い剣は二つに折れた…。

 二つに折れた剣と共に、魔物のその鎧には横一文字が刻まれた。

 黒い剣が無ければ、背中まで切れていたそんな一撃だった。


「ガッ!」

「ッ…。」

 ただクルシュの息も絶え絶えだった。

「クルシュ!!」

 リリアルノーツの刀身が、一段と輝いたと思ったら、精霊がその姿を現しクルシュに駆け寄った。

「そうか…。やはり…。」

 そう魔物は呟いた。その声に先程までの覇気も狂気もない。


 そこにあるのは…。

「私の、私たちの負けだな。」

 魔物は、ふらふらと立ち上がるとダンジョンコアへと近づいていく。

「まだやるの?」

「そう警戒をするな。」

 そう言って、魔物はダンジョンコアのそばに腰を下ろした。


「そうだ。私はもうすぐ死ぬ。」

 魔物はダンジョンコアを愛おしそうな、そんな風に撫でる。

「どうだ冥土の土産に昔話を聞いてかないか?」

 魔物の赤い光が揺らめき、魔物は、彼は話し始めた。


「大切なものを守れなかった騎士の話だ。」


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