17
熱い。右の胸が燃えるように熱い。
ああ、やっと。やっとだな。
“殺してやる。”
△△△
熱い。僕の胸が燃える様に熱い。
「クルシュ。」
彼女の声が聞こえた気がした。
分かっている。彼女はここだ。ここにいる。右手に握られた剣を見る。
彼女の力だ。彼女の…。
握っている剣を振るう。剣が当たる度に目の前の奴らが、消える。
消えていく。
目の前の奴らは、いつの間にか居なくなっていた。
いや正確には、彼女の力で一匹残らず殺した。
彼女の嬉しそうな感情が伝わる。
僕はそれが嬉しい。
奴らがいなくなった開けた場所には、二つの道がある。
うん、分かってる。行こう。
僕らは、先に進んでいく。
そこからの一本道は変わらない。ただ出てくる奴は、彼女の力で殺していく。
そして僕らは、また開けた場所にたどり着いた。
そこには、大きな赤色の宝石と――――――――
「こんばんは。小さな騎士。」
一人の騎士がいた。
△△△
クルシュ達が踏み入れた場所は、ダンジョンの最奥。大きな赤い宝石はダンジョンのコア、心臓であり、それは、クルシュ体が通ってきた通路の反対側の壁に固定されていた。
そして、ダンジョンの最奥、ダンジョンコアのある所には一般的に、そのダンジョンの主と呼ばれる魔物がダンジョンコアを守っていることがある。
このダンジョンも例に漏れず、そのような存在がクルシュ達の目の前に現れた。それがクルシュが騎士と評した魔物である。
「ん?どうしたんだい?」
その男は、頭の先からつま先まで真っ黒の鎧に包み、その鎧の目があるらしき場所は赤い光を放っていた。
その魔物の声はどこか厳格といううより友好的なそんな男の声に聞こえる。
「ダレダ?」
「これは驚いた。言葉を使えるのかい?」
ヒューマとして生きた記憶を持つ精霊であれば、その魔物を生きた鎧と呼んだだろう。
その魔物は、死した騎士が何かの後悔の下に死にきれなかったために魔物になったと言われる魔物である。
「ダレダ?」
「おいおい、そんな怖い顔をしないでくれよ。」
「ダレダ?」
「はぁ。やれやれだね。じゃあ自己紹介だ。僕は…、うんまぁ、簡単に言うと、これを守る騎士さ。」
目の前のその魔物は、ダンジョンコアを右の親指で指し示しながら、そう続ける。
「君はダンジョンコアを壊しに来た。つまりダンジョンの敵ってことだね。じゃあ…、うん。死ね。」
目の前の魔物の様子が変わった。
一瞬の事だった。
その魔物が手に持った黒い刀身の剣でクルシュに切りかかってきた。
クルシュも彼女、リリアルノーツをもって咄嗟に対抗する。
「あれ?あれれ?反応できるんだ。でもまだ遅いね。」
黒の剣を持った魔物は、右から左からクルシュに切りかかる。
「そんな実力で、大切なものとか守れるのかな?」
魔物の声は、最初の友好的なものからかけ離れたどこかおちょくるようなものに変わっていた。
「ウルサイ。」
クルシュも魔物が振るう黒の剣に、剣を合わせる。
「そう?でも弱いな~。そんなじゃ面白みもないねぇ。」
魔物が突きを放てば、クルシュはかろうじてその身を捩じり大きく躱す。
それが隙になって魔物が返す剣を繰り出してくる。咄嗟に反応した剣で防御するが、クルシュは大きく飛ばされてしまう。
「弱い弱いよ。そんなんで騎士が務まるのかい?」
「ウルサイ。」
クルシュが悪態をつきながら、立ち上がる。
「あれ立ち上がるの?まぁでも、この程度じゃあ、ね!!」
立ち上がったクルシュに、魔物がまた突きを放ってくる。
さっきの繰り返しだ。
クルシュが辛うじて避けて、剣で吹き飛ばされる。
「そうでなくっちゃ。次、行くよ?」
吹き飛ばしたクルシュに対して、また突きを放つ。
今度の突きにクルシュは、合わせるように騎士の黒い剣の突きを下からリリアルノーツで弾く。
「そう!!そうだよ!!」
弾かれた魔物はどこか嬉しそうに…、狂った“ように”笑う。
「ぐ。」
対するに、そんな言葉に反応する余裕はない。
弾かれた黒い剣は、再び上段からクルシュを襲ったからである。
突きを弾くために、高く振り上げたリリアルノーツでは、その黒い剣は防ぐことができずにクルシュは“吹き飛ばされた”。
「これで一回、君は死んだ。」
騎士の魔物は、そう笑いながらそう言った。
「大切なものを守れずに死んだ。」
「ウルサイ。」
「口ではそう言っても、結果は変わらない、よ!!」
魔物の突きが再度クルシュを襲う。
「ナンドモ。」
今度は弾かずに、黒い剣にリリアルノーツを滑らせる様にして躱しながら、魔物のその鎧を精霊の刀身が掠る。
「へぇ~そう。そうか、そこまで馬鹿じゃないか…。」
「カタイ。」
「でも、まだまだ足りない…。」
クルシュは考える。今のままでは魔物のその鎧を切ることは難しい。
「ヒントだ。」
魔物は、楽しそうにそう言った。
「僕のここに鎧なんてないよ。」
そう言って、魔物は自らの唯一鎧に包まれていないその赤い光を指差した。
確かにそこには、魔物を包む鎧はない。
「まぁだからと言って、弱点を突かれる気はさらさらないけど。」
自らの弱点を敵に明かす。それは本来愚行である。なぜそれをしたか。
「…。」
「君に弱点を教えた程度じゃ、僕は負けないからね。」
そう魔物は不敵に、ただ狂ったように笑った。
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