16
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
諸説あるが、やはり精霊とは意識を持った魔力であるというのが、通説として有力なのは事実だろう。その事実を証明するのは、やはり精霊術士の奥義として有名な“霊人一体”だろう。
霊人一体を知らない諸氏のため、簡単に説明すると、それは精霊を術師の身に宿す精霊術師の奥義ことだ。霊人一体を行うことで、精霊術師の魔力は飛躍的に向上し、そして精霊が使える魔法を己が意思のままに自由に扱えるようになるのである。まさしく奥義である。
精霊という物に出会えるのも稀で、なおかつ意思疎通を行うのも難しい事も鑑みると、この奥義に辿り着くのはいかに難しいかは想像もしたくない程だ。そもそも…………
リヒト・ベンテン・ザックザール著「精霊の心と体。」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
視界一杯の光が収まったと思ったら、目の前にはクルシュがいた。
目に見える風景には、変わりが無いように見える。
いや、無いように見えたけれど、違う。
光が満ちたと思ったら、目の前から彼女がいなくなった。
クルシュの背が大きくなった気がする。
でも感じる。
目の前に広がるモンスターの数は減ってなどいない。
彼女はここにいる。
さっきまで感じていた絶望的状況は変わらない。
彼女は僕の中にいる。
でも、今は絶望じゃない。
彼女の暖かさが内から全身を駆け巡っている。
戦える。
負ける気がしない。
守れる。
また君に助けられた?
私たちなら。
悔しいな。
私とクルシュなら。
ああ、強くなりたい。
私とあなたの力なら。
もっと。
分かってるんだ。
彼女を守れるぐらい。
私は弱い。
彼女が傷付かないぐらい。
私“だけ”じゃ何もできないくらいに、私は弱い。
彼女がもう泣かなくてもいいぐらいに。
私はもう一人じゃない。
彼女のそばで。
私の騎士。
僕の宝物。
守る力が無いなら、支えればいい。
守るための力が欲しい。
『精霊識別番号1267435881、治癒の精霊の器化の第1段階を確認。』
『精霊識別番号1267435881、治癒の精霊の第2段階に移行します。』
『精霊識別番号1267435881、治癒の精霊の器化及び名を決めてください。』
リリアルノーツ。それが私の新しい名前。
『精霊識別番号1267435881、治癒の精霊の意思を確認。』
『治癒の精霊リリアルノーツの名のもとに器化を行います。よろしいですか?』
僕は。
私は。
守るんだ。
戦うんだ。
『治癒の精霊リリアルノーツの名のもとに器化の意思を確認。』
『治癒の精霊リリアルノーツ顕現します。』
体の中から暖かいが溢れる。
溢れ出るこの感情は何だろう?
僕の手にそれが集まっていく。
この思いは何だろう?
暖かいは銀色の光になっていく。
分からない。
一際大きな光が起きたと思ったら、僕の手には剣が握られていた。
でもこれは分かる。
これは彼女だ、
クルシュ。
彼女の力だ。
あなたのおかげだ。
君の力だ。
行こう。
君の暖かさが。
負ける気なんてしない。
こんなにも心強い。
あなたとなら。
「タタカウ。」
救ってみせる。
感想、誤字脱字等お待ちしてます。