表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/24

15

 クルシュと精霊は、ダンジョンという暗闇の中を歩き続けている。二人の間にある隔たりに気づかぬまま歩を進めてきた。そんな彼らの前に現れたの広い、そうただ広い空間だった。二人がその場所に足を踏み入れた瞬間、その広場のような空間は光に包まれた。


 その光に暖かさはない。

 その光に温もりはない。

 

 その光にあるのは、恐怖。

 そんな光。


 その光にあるのは、拒絶。

 そんな光。


 そんな光に照らされたその空間は、どこか寂しそうにも、悲しそうにも感じた。


「ここは?」

 精霊は不思議そうに呟いた。

 クルシュはもただ首を捻るばかり。


 分からない。しかし異様。

 分からない。しかし今までの一本道とは明らかに違う場所。

 それがその空間。


 異様だとしても彼らは進むしかない。なぜなら、ダンジョンに飲み込まれた少女を救いたいから。


 ダンジョンの入り口から、この空間までは一本道。

 彼らがその空間に突入した場所の反対側に先に進む道が見えた。


「行きましょう。」

 精霊はそう呟き、止めていた足を踏み出した。

 その呟きはクルシュか、はたまた自分に対してか。


 それは定かではないが、彼女たちは動き始めた。

 一歩。たかが一歩を慎重に進めていく。


 ちょうど彼女達がその広場のような場所の中心にさしかかった時、それは起きた。

「クルシュ!!」

 精霊は叫んだ。


 壁から。

 地面から。

 それらは現れた。


 麻痺していた嗅覚に容赦ない腐臭が。

 無音を拾っていた聴覚にもおびただしい音が。

 土の壁しか写してなかった視覚にも数えられない程の異形が。


 前も、後ろも周りはゾンビ、スケルトンといった魔物ばかり。

「モンスターハウス…。」

 精霊は思い出した。ダンジョンに存在する罠の中でも最も凶悪な罠の存在を。


 その罠は、多くの命を奪ってきた。

 内容は、単純かつ明瞭。

 物量で攻める。それだけ。


 単純が故に凶悪。

 明瞭が故に困難。 

 それが、クルシュと精霊が嵌った罠である。


△△△

 眼前に広がるのは、魔物。見渡す限りがアンデッド系の魔物が埋め尽くしている。

「ど、どうして…。」

 目に入ってしまった。


「なんで。」

 普通の大きさのスケルトンやゾンビに紛れて、四つの足で立つそれがいるのを。

「う、ウルフ?」

 ああ、分かっている。あれは、まさしく森で見たことがある“それ”のゾンビとスケルトンであるなんて。


 でも、それを私の頭は否定したがる。

 それじゃあ、私の…―――。


「ニゲテ。」

 私の思考を、クルシュのその言葉が遮った。

「ク、クルシュ?」

「アルジジャマ。ニゲテ。」

 突き放す様に言われた。私はそう感じた。


「ボクハ、ダイジョウブ。」

 クルシュがこっちにそう笑顔を向けてきた。


 分かっている。

「で、でも!!」

「アルジ!!」

 私が二の句を繋げようとしたタイミングで、クルシュが私の後ろに庇いながら、私が元いた所に拳を振るった。


 ウルフのゾンビだった。

 それが私の後ろから来ていたのだ。それをクルシュが守った。守られた。


「ニゲテ。」

 分かってる。


 クルシュが拳を振るう。それだけでゾンビは砕ける。スケルトンも時間がかかるが、大差なんてない。

 ただ、ウルフのゾンビやスケルトンはそんな姿であっても、素早く動き回りクルシュの攻撃がなかなか当たらない。

 次々来る魔物をクルシュが“私を守りながら”対処する。


 分かってる。

「クルシュ!!」

 私を守るために、クルシュが怪我をした。即座に回復魔法をかける。私にできることはこれだけ。


 分かってる。

 それでも!!


 私は守るんだ。

 私は救うんだ。

 私は、私は!!


 それでも、クルシュに傷が増えていく。

「私は、もう自分の大切の人が傷付くのを黙って眺めていたくない!!」


 分かっている。

 私は、愚かだ。


 分かっている。

 私は、弱い。

 

 それでも…!!それでも!!

「キャッ。」

「アルジ!!」

 ウルフのスケルトンに押し倒された。

 気付いたクルシュが近づいたタイミングで、離脱していった。けれど…。


 私のせいだ…。

 分かっている。


 私のせいで、また…。

「アルジ、ダイジョウブ。」

 クルシュがそう言った。呟いた。


「アルジハ守る。」

 確かに聞こえた。

 でも…。違う…。


 このままなんて…。このままじゃ…。

 私はまた…。


 守るんだ。私は…。

 戦うんだ。私は…。

 守るために戦うんだ。


「戦うわ。」

 私も。

 立ち上がる。


 あの時とは違う。

 クルシュの後ろに立った。

「アルジ…?」

 

 不思議だ。今なら戦える気がする。

 不思議だ。今なら強くなれる気がする。

 

 私は…。

「私もクルシュと一緒に戦う。」

 そう口にした瞬間。


『精霊識別番号1267435881、治癒の精霊の意思を確認。当該精霊の騎士の存在を確認。』

『精霊識別番号1267435881、治癒の精霊の祝福では発動ができません。加護を与えますか?』

 頭にそんな言葉が響く。

 気付いたら、頷いていた。


『精霊識別番号1267435881、治癒の精霊の意思を確認。』

『あなたの祝福を受けた騎士に加護を与えました。』

『条件の達成を確認。これより精霊識別番号1267435881、治癒の精霊のアーツ化を開始します。』

 

 その言葉を最後に、私の視界は光に包まれた。

誤字脱字、感想などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ