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△△△で地の文の視点が変わります。
私とクルシュは、暗いダンジョンの中を順調に進んでいった。
「アルジ。」
クルシュが、私の前に出て進めていた足を止めた。
「何かいる。」
クルシュが前に出る前に、私も気付いていた。ゾンビのような強烈な死の匂いで、鼻はもう麻痺している。
それでも、暗闇に慣れた目と、音を拾う耳がある。
それが二つもあるのだ。
いやでも分かる。
硬質でけれど軽い物が擦れる様に動く音が、ダンジョンの暗闇の方から響いてくる。
「スケルトン…。」
動く骨と呼ばれるそんな魔物。
ゾンビ同様、アンデッド系統と言われる魔物だ。
やはりこのダンジョンは、アンデッド系のダンジョンなのだろうか?
それなら、この充満する匂いも頷ける。
さっきクルシュに倒されたゾンビの腐った肉の匂いなのだろう。
だけど、ダンジョンの外で漂っていた血の匂いにウルフ達が、集まってこなかった事が分からない。
あ、いや。そうだわ。
「古いダンジョンなんだわ!」
「アルジ?」
「あ…。」
つい、はしゃいでしまった。まだ、スケルトンは倒してないのに。
「ごめんなさい。何でもないわ。」
私がそう言えば、クルシュはスケルトンに視線を戻した。
「タオス。アルジ、マッテテ。」
クルシュは、スケルトンに肉薄して肋骨に一発。
それに対してスケルトンは、ゾンビと同じく痛覚が無いかのように動き続けて、ゾンビ同様の速さの攻撃をクルシュにしようとした。
そう、しようしたのだろうけど、ゾンビと同じスピードでは、クルシュにとって遅すぎる。
スケルトンの手には何も無く。その骨の手によるひっかきの間合いからクルシュは逃れて、振り切ったスケルトンの腕を粉砕した。
それでも、スケルトンは構わず残った腕を振るう。
「クルシュ、頭よ!スケルトンは、頭を壊せばいいの!!」
クルシュはまたも空振った腕を無視して、私の助言通りスケルトンの頭を叩き割った。それと同時に、スケルトンの残った骨は、地面に散らばった。
「やった!」
私はその結果を見て、声を出して喜んだ。
「アルジ。アリガト。タスケラレタ。」
クルシュの言葉に、胸の辺りがほんのり温かくなった。
「ふふふ、どういたしまして。」
私達は、また歩き出した。そこから現れるのは、やはりゾンビやスケルトンというアンデッドの魔物ばかり。
「やっぱり。」
「アルジ?」
「ここはね、大分前からあるダンジョンなのよ。」
これは、確信になった。
「?」
クルシュは、よく分かってないみたいだ。
「いい、クルシュ?このダンジョンは、ずっと昔からここにいたダンジョンなのよ。」
クルシュが、立ち止まって私の話に耳を傾けてくれる。
「その証拠に、ウルフが血の匂いに近付いてきてないし、何より今まで出てきたアンデットは人型のゾンビとスケルトンだけ。」
そうだ。このダンジョンに入ってから、私とクルシュの前には、人型をした魔物しか出てきていない。
「人型以外のアンデッドが、作れなかったからなのよ!」
「ツクレナイ?」
「そう。このダンジョンに出てくる人型のアンデッドは、腐った肉体を持つゾンビと骨だけのスケルトンなんだから、ウルフにとって食べ物になんてならないわ。」
スケルトンは論外として、腐った肉なんて食べたらお腹を壊してしまうわ。
「ウルフにとっても、ここのダンジョンのアンデッドは遅いし、群れで狩れば簡単に倒せると思うの。」
なのに、ここにはウルフが近づいた様子が無い。
「多分、血の匂いに最初はウルフ達も近付いてたのだろうけど、ここが食べる事に適していないと知って、近寄らなくなったの。」
そもそも、武器を持ってない人型のアンデッドなんて弱いに決まってる。多分、これはダンジョンが生み出した魔物なんだと思う。
「しかも、この森中のウルフが血の匂いに釣られていないの。周囲にウルフの気配が一つもなかったの。」
つまり。
「森中のウルフが、ここは旨味が無いと判断するのに十分な時間があったことになるの。」
うふふ。我ながら良い線だと思うし、正しい推測だと思う。
△△△
クルシュには、彼女の言っていた言葉のほとんどが分からなかった。
「ナルホド。アルジ、スゴイ。」
でも、先程まで落ち込んでいた彼女が元気に、そして楽しそうに話しているのを見て、ついそう答えてしまった。
しかし、クルシュは言うべきだった。
だけれど、精霊は気付くべきだった。
互いの認識の、違いについて。
精霊は元人間の立場で考えた。
腐った肉ではお腹を壊すと。
クルシュは、元ゴブリンとして知っていた。
腐った肉でも、肉であると。
精霊は考えた。
このダンジョンは、侵入者が居なくて弱い魔物しか産み出すことができないのだと。
クルシュは、不思議だった。
では、仮に旨味が無いと気付いたとして、そこまでにここで死んだウルフは居ないのかと。
精霊は気付くべきだった。
ゾンビの脅威度が、ゴブリンと同程度であることを。
クルシュは、言うべきだった。
ウルフもゴブリンが二匹いれば、一匹は殺せることを。
そして、二人は忘れている。
ダンジョンは、れっきとした意識を持った魔物である。
その事実に。
二人は、思い知ることになる。
その事実に気付いた頃には、もう全てが遅い事を。
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