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 空は白み、新しい一日が幕を開ける。クルシュと精霊の二人は、目が覚めると同時に行動を始めた。

 ただ、彼らのその歩みに目標は無い。行く当てはない。強いてあげるなら、ゴブリンの集落から離れる事だろうか?


 今の彼らでは、ゴブリンの王には勝てない。オークにも勝てない。それ程に彼らは弱い。

 出会えば、それらは彼女の救いたいと願ったものを奪うだろう。

 出会えば、それらは彼の守りたいと願ったものを奪うだろう。


 それを想像するのは、簡単である。

 簡単であるから、逃げる。

 逃げるために歩いていく。

 彼らに行く当てなどない。それでも、進まねば奪われる。


 日中は歩き、夜中は身を寄せ合い眠る。そんな生活を続ける。

「あれ…。」

 日にちの感覚は曖昧になりつつあった。そんな折に彼らが見つけたのは、森の中に存在する小さな洞窟。

 小さく、されど異様な洞窟。

 異様で、悪臭を放つ洞窟。


 それを形容できる言葉は数あれど、それは一つを表すものでしかない。

 ダンジョンである。

 魔物の一種であり、魔物を産み出す魔物。

 

 ダンジョンコアと言う心臓が動く限り、それは動き続け、その体を大きく肥大化させていく。それに限界は存在せず、物や人を喰らいつくす為の手段を考えるそれは、洞窟や建物でも無く、一つの生物である。


「何かいる?」

 そのダンジョンと思しき洞窟の前。そこには、一人の少女がいた。

 その少女は、精霊とは対照的な少女だった。

 その髪は、全てを吸い込むような夜を匂わせる漆黒。

 その瞳は、宝石の様に輝く紅。

 

 ただ、対照的な色彩の少女と精霊の二人は似ていた。

 顔の造形、髪の長さ、そして彼女の纏う雰囲気が酷く似ていた。

 儚げで、悲しみを抱えて、それでも前へと進もうとする強い意思を感じさせる瞳は、色彩は違えど似た者であることを簡単に想起させる。


 ただ、それを精霊は言った。

 “何か”と。“誰か”では無く。

 それを感じ取った精霊も無意識に発していた言葉。

 小さな違和感。

 いや、大きな違和感だったはずである。


 それに気付かないまま、事態は動いていく。


△△△


 一目見て綺麗な髪だと思った。ダンジョンだと思う洞窟の前で、少女が立っていた。

「こんな所で、何をしているの?」

 遠目で見える少女が、こんな魔物がいる森で何をしているのだろう?

 

「…。」

「!」

 呟きが聞こえたのか、少女がこちらを向いた。表情が遠目では分かり難いけれど、笑っている?


 ざわり。

 瞬間だった。

 洞窟から伸びてきた無数の黒と白の手が、少女を掴んだ。

 まるで、逃がさないぞと言わんばかりに。

 まるで、誘う様に。

 まるで…。


 気付けば少女は、居なくなっていた。

 分かってる。

 ダンジョンに飲み込まれたのだ。


 目の前で起きたことが信じられない。何より、あんな光景を始めて見た。あれは一体なんだろうか?疑問が生まれる。

 だが、疑問は生まれたが、私の体は立ち上がっていた。

「アルジ?」


 クルシュが私に声を掛ける。分かっている。

 それでも…、私は理想を完全には捨てられない。

「助けたい。」

 助けたい。救える者ならば救いたい。それが私の理想で、私が死んでも捨てれはしなかった事だから。


「クルシュは待ってて。」

 ずるいな…。我ながら思う。彼が、こんな言葉で待ってくれるわけがない。でも言わずにはいられなかった。

 あの人は、説得を諦めてくれったっけ?

 あの人は、一緒に来てくれたっけ?

 あの人は、防具をくれたっけ?

 あの人は、笑ってた…。


 ううん。多分、みんな私を笑っていた。

 無能な私を。


「アルジ?」

「え?」

 驚いた。彼は、クルシュは私を見ていた。後ろを振り返る様に。まるで、どうして止まってるんだ?と言わんばかりに。


「イク。タスケル、チガウ?」

 語りかける様に。

 背中を押す様に。

 励ます様に。


 クルシュは、私に声を掛けてくれた。

 捨てられない理想。

 幼い頃から思い描いた理想。

 何度も“わたし”を立ち上がらせてくれた理想。


 ならば、私がする事は、それを貫くだけだ。


 


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