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この話は、第三者目線です。
オーク。単体の脅威度で言えば、それはゴブリンキングと同等の魔物…。駆け出しを抜け出した冒険者が、五人いて対等に戦える存在。それが、ゴブリンキングでありオークである。あくまでも、それは冒険者である彼らが戦える基準である。一般の非戦闘民にとってそれは、ゴブリン同様の脅威でしかない。
「げはは!」
ゴブリンキングが声を荒げる。同時に、先程までの巻き込みの難から逃れたゴブリン達が、一斉にオークに飛びかかった。正面、左右、廻り込んで背面から、それでも数が足りない。精々数匹では、彼らの王と同等のオークにとっては、文字通り物の数ではない。
最初にオークに飛びかかった正面からのゴブリンは、飛びかかった空中でオークの槍で串刺しに。
次にオークに飛びかかった左右からのゴブリンは、左はその腕で薙ぎ払われ胴から二つに分かれ、右は串刺しの二つ目のオブジェになった。
最後にオークに飛びかかった背面からのゴブリンは、串刺された同種がを鈍器の様に振るわれる。さらに、振るわれたゴブリンが抜けて三匹が一塊となって、飛んで行った。
それは一瞬の攻防だった。いや、攻防などではなかった。そこには、圧倒的力量差があった。
「ぶふもぉ。」
四方向からの攻撃を完璧に防ぎ、逆に仕留めて見せたオークは、ゴブリンの王を嘲笑うように鳴く。
「げはは。」
それを受けても、彼の王は挑戦的に、醜悪に、そして野性的に口角を上げてオークに語りかける。ゴブリンの王は下に転がる木を削っただけの槍を拾った。
「げは。」
「ぶふ。」
互いが、互いを“殺すために”彼らの戦いが始まった。
オークとゴブリンの王とでは、武器に違いがある。方や冒険者から奪ったであろう錆びれた穂先の槍。方や、木を削っただけの槍。
力も違う。そもそもゴブリンの王は、成人男性程の大きさに対して、オークはその1.2倍の大きさである。
だが、技量が違う。ゴブリンの王は、産まれながらに王であったのでは無い。ただのゴブリンであった時から進化をする程の戦闘を、殺し合いをしてきたのだ。それこそ、一度も進化をしていない“ただのオーク”に、技量で負けるはずがない。
殺し合いは、拮抗していた。オークの力任せの一撃を、ゴブリンの王はいなすように受け流す。
叩きつけるような一撃を、横に半身ずらすことで躱し。
振り払うような一撃を、後ろに下がることで避け。
捻じ込むような突きを、粗末な木の槍で軌道を逸らし。
ゴブリンの王は足りないものを技量で補いながら、オークと互角に殺し合いをしていた。
しかし、その互角の戦いも終わりの時は近い。
オークは力任せに全力で一撃を振るっていた。その分、オークの体力は自身の攻撃で削られていく。それにつれて、オークの動きが怠慢になってゆく。
それを見逃す、ゴブリンの王ではなかった。
叩きつける様な一撃を躱し、左手に持った木の槍でオークの右目を切りつける。
「ぶひももももぉぉぉぉぉぉ!!!!」
オークは、痛みに絶叫を上げる。余りの痛みにオークは槍を落としてしまった。ただ、ゴブリンの王もその絶叫で、驚いてしまった。一撃を入れた事による慢心もあったのだろう。
だからこそ、次のオークの暴れるような一撃を喰らってしまった。不意打ち気味の一撃で、体勢を崩しながら吹き飛ばされたゴブリンの王を、オークが血走った目で追いかける。
そして、王の喉元に喰らいつく。王の喉から血が吹き出し、それでもオークは止まる事無く王の体を噛み千切らんと、口に含む。何度も。それは王が死んでもなお続いた。
△△△
場所は変わって、森の中を二つの小さな影が動く。
一つは、ゴブリンの王に何度も吹き飛ばされても立ち上がったゴブリン。
もう一つは、回復魔法を操る精霊。
彼らは、オークとゴブリンの王の戦いが始まった際に、彼女が彼を引っ張るようにして、その場から逃げ出した。
「悔しいね、クルシュ。」
「ぐぎゃ。」
彼らは先程の王とオークの戦いを思い出しながら、前へと進む。その足取りは少し覚束ない。彼らはオークと戦っていた王のあれが、王の本気であると分かった。分かってしまった。
「強くなりたいね。」
「ぐぎゃ。」
自分達は手を抜かれていたのだと、強制的に知るはめになった。
精霊は、手を抜かれても恐怖をしていた自分に。
彼は、手を抜かれても手も足も出せなかった自分に。
そして、互いに互いを守れなかった事を。
「強く…。」
「ぐぎゃ…。」
覚束ない足取りは、それでも前へと進む。悔しさを、恐怖を、情けなさを、守りたいと言う意思で以て、前へ。
この世界は、弱肉強食である。強ければ奪い、弱ければ奪われる。奪われないためには、強くなる。単純なことだ。
彼らの思いが、意思が、彼らを前へ、前へ進ませる。止まる事は、失う事であると理解しているから。
『あなたの祝福を受けた個体、個体名クルシュ。種族名ゴブリンジェネラル。その個体が種族名ゴブリンジェネラルから種族名小鬼に進化しました。』
精霊の頭に響くその声は、彼らの道を応援するようだった。
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