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糸結び

作者: 岸和歌子

 わたしは、人と人とを糸で結びつけている。人は運命の赤い糸で結ばれている、なんて表現をすることがあるみたいだけれど、それも半分は間違っていない。ただ、元から赤い色をした糸なんて存在しなくて、わたしが持っているのは真っ白な糸だけ。きっと人の気持ちが糸を様々な色に染める。


 わたしが結びつけるのは恋人や夫婦だけじゃない。親子も兄弟も友達も、みんなわたしの糸で結ばれている。一度結ばれた糸は、その人が生きている間は切れもほどけもしない。縁を切った、なんていうのは人がそう思いたいだけ。何年、何十年と会っていなくても、人が忘れてしまった人とも、糸は結ばれ続けている。


 一人の人が死ぬたびに、色鮮やかなたくさんの糸が相手を失って混乱する。混乱していた糸たちは、やがて色を失って元の真っ白な状態でわたしの元へ帰ってくる。糸は傷ついて悲しんでいるようで、わたしは糸たちを慰めてあげたいとは思うものの、いつも上手くいかない。糸たちを染めていた人の気持ちを、わたしは知らないから。


 わたしは生まれたときから一人で、たくさんの人と人とを糸で結んで、毎日を過ごしている。今まで糸が帰ってこなかった日はないけれど、糸を結ばなかった日は一度だけある。あの日は本当に暇で、糸を結ぶしかやることがないわたしはすごく困った。あまりにも暇だったから、何の関わりも持っていない人と人とを無理に結びつけてみようとしたけれど、結べなかった。


 いつのことかは分からないけれど、わたしがもっと若かったとき、人とわたしとを糸で結んでみようとしたことがあった。結局は結べなかったし、糸をひどく疲れさせてしまったみたいで今でもあのときのことは反省している。実はあのとき、わたしは少しだけ落ち込んでいたけれどそれを知っているのはわたしだけ。人の気持ちに染まる糸たちだって、わたしの気持ちには染まらない。


 時々、本当に時々だけれど、わたしが混乱してしまうくらいたくさんの糸が帰ってくることがある。初めてのときは本当に混乱して糸を絡ませてしまったけれど、最近はさすがに慣れてきたみたいで、人の世界で何かが起こったんだな、って思うくらい。たくさんの糸たちが悲しんでるのは分かるからわたしも少しは悲しくなるけれど、もう糸を絡ませてしまったりはしない。


 わたしの元に帰ってこれない糸もいる。どうやら結び付けていた二人がぴったり同時に死んでしまったら、糸も一緒に消えてしまうみたい。滅多にないことだけれど、滅多にないことだからこそ、わたしもほかの糸もすごく落ち込む。消えてしまった糸はどうなっちゃうのかな、それはわたしにも全く分からなくて不安になる。


 わたしが一番忙しいのは、人が春って呼んでいる季節。たくさんの人がたくさんの新しい人と出会って糸で結ばれたがっているみたい。みんな楽しそうで糸たちも楽しそう。わたしもなんだか楽しくなる。


 わたしは糸たちが好きで、糸たちは人が好きで、だからわたしも人が好き。


 わたしの大切な糸たちが素敵な色に染まってくれるといいな。

こちらもサークルで書いた作品です。新歓の季節に書きました。

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