一方その2
「こ っ そ り」竜がそう言うとコリコリの目の前から竜の大きな姿がすうっと消えてしまいました。
コリコリは竜がいなくなってしまったのかと慌てて今まで竜がいた場所に走り寄りました。
すると目に見えない何かにぶつかり 転んで仰向けになってしまいました。
起き上がれずにあぶあぶしていると、いつものような笑い声が聞こえ大きな鼻先が起き上がらせてくれました。
よくよく見ると、竜はちゃんとそこにいました。周りの木々に紛れて見えづらくなっていただけでした。
安心したコリコリは気配のする方へこっそり向かっていきました。
そこには人間の子どもが泣きながら木の下に立っています。
その様子がとてもかわいそうだったのでコリコリは思わず駆け寄ってしまいました。
人間の子どもはコリコリを見るとびっくりした様でしたが、すぐにうれしそうにコリコリを抱きしめました。
人間の子どもはコリコリに何か言っていますが 人間の言葉が分からないので竜に助けを求めました。
すると竜はとても慌てて姿をあらわして側に寄って来ました。
竜の姿を見ると人間の子どもは驚いて、コリコリを抱きしめたまま、腰を抜かして座りこんでしまいました。
コリコリが竜を見ると、竜がなんだかしょんぼりしているのに気づきました。
人間の子どもは竜を怖がっている様子なのです。
コリコリは 竜は人間の事が嫌いではないのを知っています。
そこでコリコリはその腕の中から抜け出して人間の子どもの顔にすり寄りました。
すると人間の子どもはコリコリと竜が仲良しだと気づき、落ち着いたようです。
やがて 竜が木の間になにかを見つけました。
薄緑色のかたまりが木の枝の間にはさまっています。
竜はそのかたまりを木の間から取り出そうとしています。
でも上手くいきません。
竜の爪はとても鋭いのでかたまりを引き裂いてしまいそうです。
鼻先を使って取り出そうとしますが、大きな鼻先は木の隙間には入りません。
コリコリは竜が困っている姿を見て気づきました。
竜は小さな自分とは違い 何でも上手く出来る、出来ない事は無い、と思っていました。
でも竜にも出来ない事がある。
小さな自分にしか出来ない事がある。
「ぴっ」コリコリは竜に向かって自分に任せて、としっぽを振りました。
竜が任せたと場所を譲ると、コリコリは するすると木に登って薄緑色のかたまりの所までいきました。
かたまりは柔らかくて木にしっかりはさまっています。
コリコリはかたまりがこわれない様に、慎重に 押したり引いたりして木の間から取り出しました。
そのかたまりはコリコリによく似た形をしていました。
コリコリがそのかたまりを人間の子どもに渡すと、人間の子どもはうれしそうにかたまりを抱きしめました。
そのとたん、かたまりの中から白いものが飛び出してかたまりはぐんにゃりしてしまいました。
人間の子どもはまた泣き出しました。
コリコリはどうしたらいいのか分からずにおろおろする事しかできません。
すると竜が魔法を使いぐんにゃりしたかたまりを直してあげました。
人間の子どもは驚いていましたが、やがて立ち上がると晴ればれした顔になり、ふたりに向かって何か言っています。
コリコリには言葉の意味は分かりませんが、その笑顔を見ているうちになんだかこちらの方もうれしくなってきました。
やがて、森の外れから別の人間の声が聞こえてきました。
どうやらこの人間の子どもを呼んでいるようです。
コリコリは頭で人間の子どもをそっと押しました。
人間の子どもはコリコリを撫でて、竜に向かってぺこりとおじぎをすると回れ右をして声のする方へ走っていきました。
コリコリは竜が自分を頼ってくれてとてもうれしく感じました。
こんな小さな自分にも出来る事があるのです。
そして思います。
自分が出来ない事は竜が、竜が出来ない事は自分がすればいいと。
竜が言います。
「行こう、相棒」
コリコリは答えます。
「うん、いこう、あいぼう」