その後
「ふむ」竜は周りの木々を眺めてみました。
すると一本の木の枝の間に何かがはさまっています。それは布のかたまりでした。薄緑でちょっとコリコリに似た色をしています。
人間の子どもはこの布のかたまりとコリコリを間違えていた様です。
この布のかたまりを人間の子どもに渡せば、コリコリを連れて行く事はしないだろう。そう思った竜は枝に顔を寄せました。
まず竜は爪を使って枝の間から布のかたまりを引っ張り出そうとしました。
でも自分の爪はとても鋭いので、このままでは布のかたまりをずたずたに引き裂いてしまいます。
ならばと今度は鼻先で押し出そうとしました。
でも自分の鼻先は大きいので、上手く枝の間に入りません。
竜はどうしたものかと考え込んでしまいました。
「ぴっ」竜が暫し考え込んでいるとコリコリがこちらを見てひと声鳴きます。
自分に任せてとしっぽを振っています。
竜がその場を譲ると、コリコリはするすると木に登っていきます。
あっという間に布のかたまりの所までたどり着くとコリコリは布のかたまりを前足で押したり引いたりし始めました。
布のかたまりは よほどきっちりと枝に挟まり込んでいるらしく、なかなか外れません。
無理に引っ張ったりすると破れてしまいそうです。
コリコリは慎重に作業を進めます。
かなりの時間をかけ、やっとのことで コリコリは布のかたまりを枝から引き離すことができました。
コリコリが布のかたまりを口にくわえて人間の子どものところまで運んでいきました。
人間の子どもはコリコリから布のかたまりを受け取ると、うれしそうにそれをぎゅっと抱きしめました。
ところが、人間の子どもが布のかたまりを抱きしめた途端、中から白いものがあふれて布のかたまりは ぐんにゃりしてしまいました。
人間の子どもはまた泣き出しました。
コリコリはその周りを おろおろと回っています。
竜はその様子を見て、自分にもできることがあるのに気付きました。
さっそく自分の得意分野である 魔法を使い、布のかたまりを直してあげました。
人間の子どもはすごくおどろいたようで、 布のかたまりと竜とコリコリに忙しく目を向けていました。
しばらくして人間の子どもは立ち上がると、とても晴ればれとした笑顔を見せてなにか言いました。
竜とコリコリは人間の子どもがうれしそうにしているのを知ると 自分達もなんだかうれしくなりました。
やがて、森の外れから別の人間の声が聞こえてきました。
この人間の子どもを呼んでいるようです。
コリコリが頭で人間の子どもを押すと、人間の子どもはコリコリの頭をなで、竜に向かってぺこりとおじぎをすると、回れ右をして声のする方へ走っていきました。
それを見送りながら竜は、自分だけではできない事もコリコリと一緒ならできた事を考えていました。
今までコリコリの事は自分が見守っていなければいけないと思っていましたが、竜には竜にしかできない事があるように、コリコリにはコリコリにしかできない事があるのに気付いたのです。
竜はコリコリをただ大事に守るだけではなく、一緒に旅をする仲間として対等の付き合いをしようと思いました。
人間の子どもが去った方をじっと見ているコリコリに、もう行こうと竜は声をかけます。
「行こう、相棒。」