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二、謎の手紙

『いきなりこんなこと申し上げるのはどうかと思ったのだけれど、私言います。

 この子を預かってください。

 私にはこの子は育てられません。私と一緒にいて、この子が不幸になってしまったらいやだから。

 この子には……娘には幸せになってほしいんです。こんな私に、この子を「娘」なんていう資格ないかもしれないけれど。

 でも、私といたらこの子は不幸になる。だからお願いします。

 勝手なことを言ってごめんなさい。それと……ありがとう。どうかお元気で。

                       おけい  』


「お恵…」

 手紙を握りしめたまま、力なく呟く。最後まで目を通してから、これは読むべきではなかったと今更ながら実感した。

 それどころじゃない。これは、途轍もなく重い内容だ。

 どんな理由かは分からないが、この差出人の“お恵”は、私の母――お照に娘の養育を頼んだ。

 母はそれを、引き受けたのだろうか? こんな箪笥の奥に、隠しこむようにしまっていた理由は?

 それに彼女の――「私といたらこの子が不幸になる」という言葉。これは一体どういう意味なの?

「尚、どうし………あっ」

 いつのまにか、背後にはハッとした様子の母の姿があった。

「その手紙……」

 恐る恐る振り向く私と、母の視線がぶつかり合う。私には、母がなぜか、哀しそうな顔をしているように見えた。

「……読んだのね」

 母はそれしか言わない。

「あ、あの、これは…その…。さ、最初はね、読むつもりなんてなかったの。けど、つい、その、出来心というか……」

 声が……手紙を持つ手が震える。

「ご、ごめんなさい…。お母さん宛の手紙なのに、勝手に開けるなんて…。本当に、ごめんなさい…」

 瞳が潤み、息が詰まりそうになりながらも、私は深々と頭を下げる。こういうことになるのは……何年ぶりだろう。

 幼い頃は、子供心ゆえのいたずらで、母を困らせたこともしばしばあった。

 元々女の子と遊ぶより、男の子達とつるんでいる方が好きな子だったから、悪乗りしては近所のおばさんによく叱られていたのだ。

 当時は、そのせいで母が私の代わりに怒られているなんて知りもしなかったが。

「ごめん…。私、もう二度とお母さんを悲しませないって決めたのに…」

 溢れそうになる涙をこらえ、歯を食いしばる。けど母は、ためらいがちに口を開いて、こう言った。

「あのね、尚…」

 母の、下腹の上で握りしめた両手が心なしか震えている。

「いつかは話さなければいけないと思っていたけれど……あなたは、それを知る覚悟はある?」

 知る覚悟――母はこれからとんでもない話をしようとしているのだと、私は悟った。

 いつもならひょうきんな母が(私がひょうきんな性格なのも、この母譲りだと思っている)湿っぽい話をするなんてよっぽどのことだ。

 それに、なぜかは分からないけれど、それが私のことにも大いに関係しているような気がした。

 一度ためらってから、覚悟を決めて頷く。

「……分かったわ。じゃあ話すけど、落ち着いて聞いてちょうだいね」

 母はそう言うと話し始めた―――遠い昔、お恵さんと母との間にあった出来事を。

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