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一、商家の娘

「ただいま」

 私は数ヶ月ぶりに、自宅兼店の戸をくぐり抜けた。私の家は、城下町にある小さな商家である。

「あら、なお。どうしたの? 急に帰ってきて、何かあったの?」

 店の奥から母が顔を出す。彼女が驚くのも無理はない。

 なぜなら私は数ヶ月前、西ノ森にしのもり城の奥方様に頼まれて、姫様の専属女中としてずっと城で暮らしていたのだ。

 姫様を笑わせるという任務を果たせていないから、まだ当分いるものと思っていたが、今朝、奥方様から突然帰省命令を出された。

 彼女がいうには、一度実家に帰れば多少は息抜きになっていいだろうとのことらしい。それならどうせだから楽しもうと思って、思い切って帰って来たわけだ。

「休暇をもらったのよ、今日と明日の二日間しかないけれど。久しぶりにお母さんの娘に戻れるわ」

「まあ、そうだったの。それじゃあ、今晩は尚の好きなおかずにしようかしらね」

 母はそう言って張り切り出す。そういうところも、相変わらずだ。

「嬉しい! ああ……お夕飯が待ち遠しいわ! ――と、先に荷物置いてくるわね」

 店の奥、住居空間へと繋がる通用口に立つ母の横を通り抜け、私はその奥の茶の間へ進む。

 中央の小さなちゃぶ台を箪笥と食器棚に挟んでいる、狭苦しい四畳半の部屋だが、私にはこれが慣れ親しんだ居心地の良い空間だった。

 私は部屋の隅に抱えていた荷物を置き、ふと、脇の箪笥と壁の間に一枚の封筒が挟まっているのに気付いた。

 思わず、封筒を手に取る。破かないように慎重に……わずかな隙間から抜き取った。

 手に取ってみて、今度はその封筒をまじまじと見る。

 鮮やかな花(あとで知ったところによると、この花は※薔薇というらしい)が描かれている、綺麗な封筒。

 その上に、華奢な字で書かれた『おてるさんへ』の文字……母の名前だ。

 母宛の手紙を勝手に開けるのはどうかとも思われたが、どうも気になって、恐る恐る開けてみた。

 するとそこには、封筒と同じ薔薇の絵が描かれた便箋に、宛名と同じ文体でこう記されていた。

※一説によると、江戸時代にも薔薇の花はあったらしいです。

ただし、「薔薇」という名前はまだ浸透していなかったとか…。

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