終章
次の日。お尚は、店まで迎えに来た女中仲間のお清に呼ばれて、元気に走って行った。
お清とお照とは、だいぶ前に一度顔を合わせている。
「あら、お清ちゃん。久しぶりね。どう、尚はお城でうまくやってるの?」
心配そうに娘を見送るお照に、お尚は口を尖らせた。
「もう、大丈夫だって言ったじゃない。お母さんたら、まったく心配性なんだから」
「そうですわ。娘さんは強い方ですし、それに私もいますから」
お清もそう言って宥めたが、お尚は更に不満そうに頬を膨らませる。
「私が強いってどういう意味よ?」
そう呟く彼女の耳に、お清がささやく。
「私達は大丈夫だから、心配しないでね…って意味よ。あなただって、お母様に心配かけたくないでしょう?」
「そ、そうね…」
まだちょっと不服そうだったが、お清の意見に賛同して、彼女はお照と住みなれたこの家に別れを告げた。
「それじゃ、お母さん。行ってきます!」
「頑張ってくるのよ、尚!」
そうして去っていく娘の後ろ姿を見つめながら、お照はふと思う。
娘の背中は、あんなにたくましかっただろうか…と。それと同時に、ふと“あの人”のことを思い出した。
空を見上げ、この同じ空を見ているであろう彼女に向けて心の中で呟く。
――お恵さん。あなたの娘は、こんなに立派に育っていますよ。
彼女の思いに応えるように、どこからか吹いたあたたかい風が、お照の頬を優しくなでた。
制作期間:2011年11月27日~2012年9月8日(約8ヶ月間)
思いつきで書いた『哀しき遊女』の、しめくくり編です。
アナザーサイドということで、今回は、女将が娘を託したある人からの視点でお送りました。
前作は思いつきだったために、結局、最後の方が曖昧になってしまい。。。
これはもっとちゃんとまとめにゃいかん! と今作を作成しました。
話としては「ええっ!?」という展開になってしまいましたが…。
(2012年9月21日付ブログ記事より)




