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悲しい秘密  作者: ゆかれっと


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12/13

十、私のお母さん

 そして自宅に戻った私は、店先で気抜けた表情をして立ちすくむ母にこう告げた。

「お母さん、さっきはごめんなさい。でも私、決めたの。聞いてくれるわよね?」

 母は、何も言わなかった。ただただ呆然として、一つ頷くだけだった。

「私ね、思ったの。あの手紙がある以上、お恵さんとお母さんとの間にあった出来事はみんな本当のことなんだって…」

 母は、それでも何も言わなかった。

「だから私、お母さんと…お恵さん――私を産んでくれたお母さんとの間にあった出来事を信じようと思うの」

 母の眉が、ぴくりと動く。

「それで私、私を産んでくれたお母さんと私を育ててくれたお母さん――二人とも私の本当のお母さんだって認めようと思うの。だって、どっちも私の本当のお母さんとして接してくれていたのでしょう? だったら私も本当の娘として接していたいの。これからもずっとね」

 口角を上げて得意の笑みを送ると、固く閉ざされた母の口が開き、微かなささやきがもれた。

「尚…っ」

 母の小さな瞳から、次々に涙があふれ出す。

「私、あなたを失うのが怖かった…。尚があのままどこかへ行っちゃうんじゃないかって、気が気じゃなかったの…」

 その母の言葉が嬉しくて、私は思わず母に駆け寄ってぎゅっと抱きしめた。

「バカね。私はどこにも行かないわよ。ホント、お母さんは心配性なんだから…」

 そういう私の言葉にも、涙が交じる。

「お恵さんがあなたを誰より思っていた気持ちは本当…。でも、彼女も人間だから、きっと不安もあったわ。

彼女は、自分のせいであなたを『不幸』な道へ巻き込んでしまうと思った。私にあなたを託したのはそのせいね。

彼女が私を信頼してくれていたからこそ、大切な娘を預けてくれたわけだから、私もそれに応えたかった。

だから私はあなたを――尚を、これまでずっと大切に大切に育ててきたの」

「お母さん…」

 私が母の背中をつかむ手に、また母が私の背中をなでる手に、力がこもる。

 私は誤解していた。私はちゃんとどちらにも愛されていた。私は紛れもなくお照の娘であり、お恵の娘なのだ。

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