表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/33

何年後かのエピローグ・香りのお店においでませ

 それから数年の月日が流れた。


 マルティス村の春の野原を、三人の親子づれが歩いている。桃色の目をした男の子が、大きな声でぐずっている。


「ねーまだー? っていうか、こんなぱらにお店なんてほんとにあるのー?」

「あるさ! ほらこの通り、ちゃんと小道が存在するんだ、店もある! あってほしい!」

「あってほしいって、とーちゃんそれは『単なるボー』じゃん!」

「いや! 見えてきたぞ、ほらあそこにお店!!」

「げーっまだあんな遠いじゃんーっ!!」


 ぐずぐずぐずる男の子の背中に手を触れ、若い母親が()()()をかける。


「ほらほら、ニンジャならこんなことでへこたれない! お店につけば、きっとおとっときのこうちゃをごちそうしてもらえるわよ?」

「うおー! せっしゃティーソーダが良いでござるー!!」


 異国のテレビ番組に夢中な息子は、あっさり設定にのっかってきた。


「――んん? ティーソーダをしょもうするニンジャって、はたして存在するのだろうか……?」

「ほらほらあなた! そんなことで妙にマジメに考えない! ほら、フレィズも()()ないの! 歩くのよ、歩けばいつかは着くわ!」


 幼い息子の名を呼んで、母親が()()と晴天を指さした。

「もー歩くのやだー」と嫌がる息子と、考える夫を急かしつつ、店に着くまではあと半時間はかかりそうだ……。


* * *


「ほーら、ついに着いたぞぉ!」

「せ、拙者のどがカラカラでござる……!!」

「うわぁついにやって来たわぁ! 『香りのお店・ファカルナ』よっ!!」


 何やかんやと玄関先で騒がれて、十二歳じゅうにになったカリアが香茶のカップから顔を上げた。


「何かおもてがにぎやかだね。お客さんかな?」


 接客するはずの両親は、週末恒例のデートに出かけている。少女の夢見る『王子様』のような容姿に成長したカロンが、ほんのちょっぴり緊張気味に席を立つ。


「店番、接客はちょっと苦手なんだよなぁ……」

「大丈夫! ちゃんとあたしもいるからっ!!」

「はいはい」


 生返事をしたカロンが扉を開ける前に、親子連れは弾けるように店内になだれこんで来た。男の子が汗だくになって、カロンのひざにがぶり寄る。


「おお、これはお若いご主人! 拙者、ティーソーダ所望でござる!!」

『あぁこら、フレィズ!!』


 両親にダブルでたしなめられて、フレィズが()()()とほおをふくらませる。男の子の名を耳にして、カロンの表情がぱっと一気に明るくなった。


『フレィズ』。


 ここよりずっと海に近い、アルミッレ町の方言で、うみいちごという意味だ。


「あぁ、あなた方もしかして……っ!!」


 満面の笑みを浮かべた母親が、嬉しそうにうなずいた。それからテーブルの上に置かれた、開きっぱなしの本へと目をとめる。


「あ! あのひめうみいちごのしおり、まだ使っててくださったの?」

「はい、だいぶんちょうほうしてます。どうぞこちらへおかけになって……ただいまお茶をれますね」

「おお! 拙者、ストロベリーのティーソーダが良いでござるー!!」

「こら! オーダーが増えてるわよっ!」


 母と子の親子漫才に、カロンが温かく苦笑する。


 やがて入ったいちごの紅茶と、ストロベリーのティーソーダの香りがふんわり入り混じり、店内は何とも甘くて優しい香りに満たされた。


 ――ああ。幸せな人にも、幸せじゃない人にも、この香るお茶を飲んでほしい。

 幸せじゃない人は幸せに、幸せな人はもっともっと幸せに、……このお茶を飲んで、なってほしい……。


 祈りのようなそんな想いに、胸の中まで満たされる。

 口に含んだ『香らない香茶』は、カロンののどを滑り落ちて、あったかい熱になってふくらんで、青年の()()()()の笑顔になった。


 ……それからいろいろ話が弾み、二時間も経った頃だろうか。からんからん、とベルの音がして、玄関のドアがからりと開いた。


「おやおや、なんだか店がにぎやかだねえ? お客様かい、カロン、カリア?」


 ふっとにこやかな声がして、デートを終えた両親が二人仲良く帰ってくる。カリアが()()()と仔うさぎのように走り寄り、パパとママの手をとった。


「ねえねえ! お兄ちゃんの海苺のお客様、いらっしゃったの!」

「うみいちご?」

「うん! あのねえ、前にお兄ちゃんが『海苺の幻術』で、このお二人に人助けをね! で、この息子さんの名前がフレィズで……!」

「――ああ! 例の『りゅうぜんこうイベント』の一件ね!」


 ハニアが両手を打ち合わせ、誇らしげに息子を見やる。照れくさそうにったカロンのその顔は、『父と母が出逢った頃』の、父親の顔にそっくりだった。


「――おいおい、僕たちは置きざりかい?」


 綺麗なテノールがふいに響いて、からんからんとまたベルが鳴る。壮年の夫婦が一組、微笑いながら入って来た。


『グランパ! グランマ!』


 カロンとカリアが一緒に叫び、カリアがまんまるい笑顔を見せて二人に()()と駆け寄った。


 ロマンスグレイのカークゥと、可愛らしいおばちゃまになったマリアがにこにこ笑い、カークゥがひょいとカリアを抱き上げる。


 カシュアがからから軽く笑って、カロンにお菓子の箱をさし出す。


「いやー、となり町のカフェでお茶してたら、グランパたちとばったり出会っちゃってさあ! はい、これおみやげな! カフェ自家製の焼き菓子の詰め合わせ!」

「おいおい、『出会っちゃって』っていかにも『デートの邪魔してくれちゃって』って雰囲気出すのは、よしにしてくれるかい?」

「あ、分かっちゃった~? ……ぐっ!!」


 グランマの笑顔のボディーブローをしたたか食らい、カシュアが()()()と腹を抱えてしゃがみこむ。


「傷は浅いぞ。起きろ」

「っておふくろ、それ何のドラマのどんなキャラ……っ??」


 父と祖母の親子漫才に、カロンがついつい吹き出した。心配そうに父のおなかをさするカリア、大丈夫よとなだめるハニア、元気だねえと微笑むカークゥ……、


 その光景を見て思わず笑ってしまう海苺の親子三人、全てを包んで、甘酸っぱい苺のお茶とティーソーダのしゅわしゅわした匂いが、夢みたいに香っていた。


* * *


 これはどことも知れぬある星の、いつとも知れぬ時代の話……。

 香りを愛する人たちの、香りかゆらぐ物語。


(完)

この後におまけの『作中おやつの揚げバナナ/ほろ雪ナッツ』のレシピを追加しました! よろしければぜひ作ってみてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ