現の三・ハニア
「あれー? ないなぁ……どこにしまったんだっけかな……?」
女店主はいまだに菓子を探している。どうにも見つからないようだ。甘い苦笑を浮かべたカシュアが、冷め加減の木苺のお茶に口をつけた。
(……そういえば、親父がマスターに最初に飲ませてもらったのも、木苺のお茶だったって言ってたな……)
ぼんやりと考えた青年が、かすかに物憂く小首をかしげる。
(……その後、この店を開くまで、いろいろ飲ませてもらったけれど、『最初のお茶が、僕は一番好きだった』って、そう言いながら笑ってた……)
青年カシュアは、再び昔を思い出す。
絶望を味わった十七の夏。
……そうして秋には、もうひとつ失望が待っていた。
あこがれの少女、ハニアが学校をやめたのだ。
幻術師の道に見切りをつけ、香茶師の仕事を始めると決意して、それを実現させたのだ。
店を開くのに何かと手を貸した父、カークゥから、日々のいろいろな話を聞きながら、カシュアはひどい虚脱感に襲われた。
あこがれの少女が、手もとを離れていってしまう。俺の目の届かないところへいって、ひとりで成長してしまう。そんな気分になったのだ。
お互いに顔も知らない関係だから、『離れる』も何もない訳だが、幼なじみの少女を芯から失ったばかりのカシュアには、これもまたひどい痛手だった。
(……まあ、今はこうしてそばにいるけど?)
昔の自分を茶化すように心のうちでつぶやいて、カシュアはお茶を飲みほした。特に何という理由もなく、微笑が口のはたに浮かぶ。
いまだに菓子が見つからないのを見計らって、青年は再び過去を探り出した。




