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魔法発展途上世界  作者: ウルムアーツ
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第8話 雷獣

side グレイ


 僕が散歩しながらいろいろと今日あったことを整理しているとあっという間にキースとの待ち合わせの時間になってしまった。

 僕が寮の前につくと、キースはずいぶん早く来ていたのだろう。少しいらいらしながら僕に文句を言ってきた。


「おい、グレイ。どういうつもりなんだ? こんな夜遅くに呼び出しやがって、トリスに会いに行こうとでも言うのかよ。」


「まさか、まぁついてくればわかるよ。この時間に兄さんはいつも自主練をしてるんだ」


 僕はそう言うと、早速学園の森のほうへ歩き出した。キースはまだ納得していないような顔をしていたが渋々といった感じで僕の後をついてきた。


「…………」


「…………」


 しばらくはお互い無言で歩いていたが、僕が立ち入り禁止区域を無視して通ろうとしたとき、痺れを切らせたようにキースが叫んだ


「っだぁ!! なんなんだよ一体。なんでトリスの自主練なんかを見るために規則破って、立ち入り禁止区域入んなきゃいけねぇんだよ!! グレイ! 少しは説明しろよ! この先でどんな素晴らしいものが見えるってんだよ!!」


 僕は心底めんどくさいやつだ、と思いながら仕方なく説明することにした。


「キース、君は『雷獣伝説』を知ってるかい?」


「『雷獣伝説』? それってあれだろ、この森が立ち入り禁止区域になった原因で、この森の木が知らないうちにありえない本数が倒れていたり獣の爪の跡があちこちの木についていて、この森に伝説の獣、『雷獣』がいるって噂になったやつだろ」


「そう。僕達が1年のときに流れた噂で森にあった大樹が一夜にして真っ二つになっていたことで噂は真実味を帯びて、とうとう森は立ち入り禁止区域となった。」


「あれをトリスがやったってのか? あれは魔法でできた傷じゃねぇし、そもそもトリスの魔法じゃ無理だろ。あの大樹を真っ二つにするなら上級魔法レベルじゃねぇと……」


 そうやって説明しているとまさに伝説の名に恥じないすさまじい音が森の奥から聞こえてきた。キースはそれを聞くとポカンと口をあけながら


「おいおい。俺はいままで『雷獣』なんてもんは誰かが勝手に作った与太話だと思っていたが、まさかマジモンなのか!?」


 見当違いのことを言ってるキースをつれて、音のするほうへと近づき、伝説の正体が見やすく安全な場所へと移動する。もうここまでくれば伝説の正体が明らかになる。


「なっ!? うそだろ。おいグレイ! どういうことだよあれは。」


 キースが取り乱すのも無理はない。僕達の目の前に現れたのはもちろん『雷獣』ではなく一人の魔法使いだ。

 ただ普通の魔法使いとは明らかに違う、というよりもあれを一目見て魔法使

いだという人はいない。



 『雷獣伝説』の正体であり、僕の実の兄であるトリスは、この学園で持ち込み、使用を禁止されているはずの、『剣』を使って周りの木をすさまじい剣技で倒していっているのだ。

 まぁ、あの木は学園長が兄さんのために用意した自動生成人口樹だからいくら切り倒しても次の日には元通りなので問題ないのだが……


「おいグレイ! あれ、本当にトリスなのかよ! 学校で底辺野郎とか言われてるときとは雰囲気が全然ちげぇぞ!!」


「あぁ、これが本当の兄さんだよ。兄さんの剣技は王国内でもトップクラスだし。実戦での勝負だったら、ただ魔法の撃ち合いをしてるだけで、近接の間合いに踏み込まれることを想定すらしていない学園の魔法使いじゃ兄さんに勝てる人がどれだけいるだろうか……」


 そう言っている間にも兄さんは次々に森の木を倒していった。キースは言葉も出ないようでただただ兄さんの剣技に見入っていた。


side トリス


 俺はいつものとおり、人口樹に向かってひたすら剣を振り続けていた。もう日課となっているこの剣術修行は元々は父さんにやってもらっていたものだ。

 でもじいちゃんに引き取られてからはなかなか剣の練習を出来るところがなく長い間できないでいた。

 学園に正式に入学して学園を自由に歩きまわれるようになってから、みんながあまり使わないこの森の中の穴場スポットを見つけて、俺は実に5年ぶりに剣を使ってみたのだ。


 でも久しぶりに剣を振ったのが楽しくて森の大木を真っ二つにしてしまいじいちゃんに死ぬほど怒られた……


 それでもじいちゃんはこの森を立ち入り禁止区域にして人口樹を植えてくれたので、なんだかんだ優しいんだと思ってしまう。

 ちなみになぜかは知らないがここをたまたま訪れたクレア先生に一度見つかったことがあり、注意を受けたが、それ以来先生はこの話をしない。

 まぁ俺にとってはありがたい話なんだが……。


 そんなことがあってこの秘密の自主練を知っているのはじいちゃんとクレア先生だけだ。まぁでも毎日夜中に抜け出してるからアルヴァあたりは気づいているのだろうなぁ。




 と、そこまで考えたところで目の前にひときわ大きな木が現れた。じいちゃんが用意したこの人口樹はいくら切り倒しても次の日には何事もなかったように生えてくるし、知性が備わっているのか、あらゆる方向から幹やら根っこやらが俺に向かって攻撃してくる。

 さらに学習能力もあるようでたまに俺の攻撃を予測してかわしたり、隙を見て不意打ちしてきたりするから侮れない。

 でもここなら学園内では使うことが許されていない俺が唯一得意な変わった魔法が思う存分使うことが出来る。俺はすばやく魔法の(詠唱)(練成)をすると、(放出)せずに、その魔法を右手から剣へと伝えた。


「付与魔法 初級雷魔法サンダー 付与!!」


 俺が魔法を唱えると剣は俺の雷魔法を纏い、『魔法剣』へとその存在を昇華させた。

 この付与魔法は父さんから教わったもので、武器の持ち込み、使用が禁止されているこの学園じゃ使えないため、一般の魔法使いには認知されていないタイプの魔法だ。


 付与魔法が剣だけじゃなく杖や槍など、どんなものでも魔法を付与できるし、1度付与してしまえば魔力にもよるが10分くらいは付与され続けるので使い勝手はすごくいい。何よりこの魔法は(放出)しないため俺が自由自在に使える唯一の魔法なのだ。



 俺は魔法剣を構えると前方の大木の中心に向かって俺の今出せる最速の突きを繰り出した。


 大木は自らの体の異変を認識するとハンマーのような幹を容赦なく俺に振り下ろしてきた。

 俺は突きを繰り出した後も集中を切らさず、すばやく剣を引き抜き一息で後方に飛ぶ。

 幹が前髪を掠めて背中に嫌な汗を感じながらも俺は再び大木に向かって突進し、今度はさっき突きを繰り出した部分を中心としてクロスさせるように二連撃を放ち、止めとばかりに全体重を乗せて、上から下に剣を振り下ろした。

 もう一度俺を攻撃しようとした幹は力を失い、俺の足元に横たわり、大木はそのままへたり込んだ。





 俺はゆっくりと息を吐き出すとそのまま後ろを振り返り、すばやく横なぎに一閃、後ろから狙ってきた別の木の攻撃をカウンターで切り飛ばした。

 さっきの大木は魔法耐性が強かったみたいだが、不意打ちをしてきた木は魔法耐性が低く、幹が切られただけで木全体に電流がほとばしり黒こげとなった。



 俺は近くに動いている人口樹がなくなると魔法剣を解除して、剣を腰の鞘に収めた。こんなことを5年も続けていると嫌でも戦い方というものが身についてくる。

 この森では四方八方が木で囲まれているが、その中で自分に襲い掛かってくる木がどれなのか正確に見極める必要が出てくる。ただ闇雲に木を攻撃していては死角からの攻撃に対応できないし、かといって自分の周囲360度すべてを目で見ることはできない。だからこそ木がわずかにでも動いたその気配を見逃してはならない。



 俺はきりもいいことだし、この辺で今日は帰ろうか……。などと考えた瞬間、後ろからまさに木が動く独特の気配がした。俺はすばやく剣を抜き、(詠唱)する時間も惜しんでそのまま先手必勝で切りかかった。


 だがその瞬間、俺の剣は巨大な幹にはじかれ、続く攻撃で俺の体は5メートル後方に吹き飛んだ。

 俺は吹き飛ばされながらもなんとか受身を取りすぐに剣を構えなおした。後ろからの気配の時点で考えなければならなかったんだ。


 俺を吹き飛ばしたのはさっき俺が倒したあの大木だった。




 だがその大きさは先ほどの1.5倍くらいに成長していて、幹の太さも先ほどとは比べ物にならなくなっていた。

 その太い幹を鞭のように操っている大木を見ながら、俺は状況を冷静に考えていた。

 このままでは明らかに分が悪い。一応人口樹とはいえ動くことが出来ないのでここで逃げという選択肢をとることはできるが、


「それはさすがにかっこ悪いよな~」


 俺が独り言を呟くと狙っていたかのように大木の根っこが足払いを仕掛けてきた。俺はそのあまりの速さに驚きつつも後方に飛んでよけてから、すばやく魔法の(詠唱)を開始した。


「付与魔法 中級氷魔法フロスト 付与!!」



 俺の剣は今度は氷魔法を纏いあたりはその冷気ゆえに急激に温度が下がっていった。

 これによりわずかながら大木の動きは鈍くなった。これで他の木が乱入してくる事もないだろう。俺がなんとか間合いを縮める方法を考えていると、今度は太い幹を上から振り下ろして俺をつぶしにかかってきた。


 俺は間一髪で避けたが、そう何度も避けられそうもない。俺は幹が胴体の守りから離れ上に振り上げられた一瞬のチャンスを逃さず一息で大木との間合いを詰め、その勢いのまま、根っこの足払いも跳んで避け、がら空きになった大木の胴に向かって全力で袈裟掛けに剣を振りぬいた。



 その瞬間、俺の剣から氷魔法が直接大木へ放たれて、大木は切られた部分から次々に凍り付いていった。

 いかに魔法耐性があっても所詮は木である以上、胴体に直接中級氷魔法を食らえばひとたまりもない。


 俺は今度こそ大木が完全に事切れたのを確認すると魔法剣を解除し、剣を収めた。



 その瞬間戦闘中には感じなかった激痛が腰の辺りから自己主張してきた。どうやら受身を取ったつもりが、普通に腰で着地してしまったらしい。俺は腰の激痛に耐えながら今日の自主練は終わりにしてさっさと自分の部屋に帰って寝ようと考え、寮に向かってそそくさと歩き出した。

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